痴人の愛
Naomi (A Fool's Love)
ストーリー
結末まで書いています。
行きつけの喫茶店で働いていた十八歳のナオミを引き取り、理想の女に育てようとした男が、彼女の奴隷になっていく。
製油所の技師・河合譲治は、酒も煙草も賭け事もやらない堅物として職場で通っている。だが彼はひそかに、行きつけの喫茶店でウエイトレスをしていた十八歳のナオミを引き取り、ふたりで暮らすための家まで買っていた。飲み屋を営むナオミの両親は、厄介払いができたとばかりに喜ぶ。譲治は彼女を理想の女に磨き上げてから妻にするつもりで、その姿を写真に撮り続ける。誘ったのはナオミのほうだった。ふたりは結ばれ、結婚する。
譲治はピアノやイタリア語を習わせるが、ナオミは身につけようとしない。高価な服や宝石をねだり、イタリア語教室のパーティーでは、学生の熊谷や浜田と親しげにふるまう。教室の男たちを次々に手玉に取っているという噂も耳に入る。疑いを拭えない譲治は隣家の花村医師に見張りを頼み、ナオミが浜田とも熊谷とも関係していると知る。口論の末、彼はナオミを追い出す。
譲治は日記と写真を焼き、きっぱり縁を切ると決める。浜田が訪ねてきて、ナオミは男の家を渡り歩き、遊び仲間から娼婦扱いされていると告げる。そんなある日、ナオミが衣類を取りに来たと言って現れる。彼女はその後も何度もやって来ては、彼の前で平然と着替え、ただの友達でしょう、と指一本触れさせない。とうとう譲治は崩れ落ちる。二度と出ていかないでくれ、お前の言うことはなんでもきく、馬にもなる。浮気をしても許すかと問われ、譲治はうなずく。最後の場面、ナオミは譲治の背にまたがって抱きつき、あたしにもあんたしかいないんだ、と言う。
主な出演
安田道代ナオミ役
譲治が理想の妻に育てようと引き取った十八歳のウエイトレス。やがて彼のほうを思いのままに作り変えていく。
ナオミの物語
ナオミは喫茶店のウエイトレスだった。譲治が家を買って彼女を引き取ると、飲み屋を営む両親は厄介払いができたと喜ぶ。はじめは父親に甘えるように接し、やがて自分から譲治を誘って、ふたりは結婚する。稽古ごとは身につかず、高価な服や宝石をねだり、学生の熊谷とも浜田とも関係を持つ。それを知った譲治に、口論の末に追い出される。その後は男の家を渡り歩き、遊び仲間から娼婦扱いされる。ある日、衣類を取りに来たと言って戻り、譲治の前で平然と着替えながら、指一本触れさせない。二度と出ていかないでくれとすがる譲治に、浮気をしても許すかと問い、彼はうなずく。最後の場面、ナオミは彼の背にまたがり、あたしにもあんたしかいないんだ、と言う。
小沢昭一河合譲治役
酒も煙草もやらない製油所の技師。若い女を理想の妻に育てるつもりが、最後は彼女の足もとにひざまずく。
河合譲治の物語
製油所の技師・譲治は、職場では酒も煙草もやらない堅物で通っている。だがひそかに家を買ってナオミを引き取り、理想の女に磨き上げてから妻にするつもりで、写真を撮り続け、ピアノやイタリア語を習わせる。誘ったのはナオミのほうで、ふたりは結婚する。学生たちと関係しているという噂を聞くと、隣家の医師に見張りを頼み、それが本当だと知って彼女を追い出す。日記と写真を焼き、縁を切ると決める。だがナオミは衣類を取りに来たと言っては何度も現れ、目の前で着替えてみせる。譲治は崩れ落ちる。二度と出ていかないでくれ、なんでも言うことをきく、馬にもなる。浮気をしても許すかと問われてうなずき、最後の場面では彼女を背に乗せている。
田村正和浜田伸夫役
ナオミを取り巻く学生のひとり。のちに譲治を気の毒がり、家を出た彼女の近況を知らせに来る。
倉石功熊谷政太郎役
ナオミとイタリア語教室に通う大学生。譲治の目を盗んで彼女と関係を持つ。
内田朝雄花村医師役
隣家の医師。譲治に頼まれて、ナオミの行動を見張る。
この作品が問いかけるもの
原作は谷崎潤一郎が1924年に発表した小説で、その奔放なヒロインは「ナオミズム」という言葉まで生んだ。増村保造は物語を公開当時の日本に移し、ナオミの年齢を十八歳に引き上げた。原作では、譲治が引き取ったとき彼女は十五歳だ。この作品の中心にあるのは、女を作ることで所有しようとする男の計画だ。年上の男が若い女を選び、習い事の費用を払い、その体を写真に収め、それを愛と呼ぶ。映画は彼に容赦がなく、ときに滑稽でさえある。計画はひっくり返り、彼が彼女の若さを使おうとしたように、彼女は彼の欲望を使うことを覚えていく。結末が敗北なのか、ある種の正直さなのかは開かれたままだ。互いに何を求めているかを取り繕うのをやめたふたりと、背に乗られることを受け入れた男が残る。