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Cinema 月明かりの映画館

卍

Manji

1964映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

退屈な人妻と、同じ美術学校に通う社長令嬢が、互いを、周囲を呑み込む。谷崎の“卍”の欲望。

柿内園子が、老作家に向かって自分の身に起きたことを語り始める。夫の孝太郎が大阪に弁護士事務所を構えたのを機に、園子は女子美術学校で日本画を習い始めた。描いた観音の顔がモデルに似ていないと校長に言われたことから、本当のモデルは洋画科に通う織物会社の社長令嬢、徳光光子だと噂が立つ。ふたりは同性愛の仲だという噂がきっかけで親しくなり、噂はやがて本当になる。光子は園子を「姉ちゃん」と呼び、園子は夫をないがしろにしていく。

やがて光子に、婚約者を名乗る綿貫栄次郎という男がいることがわかる。裏切られたと思った園子は縁を切ろうとするが、光子が仮病を使ってよりを戻そうとすると、許してしまう。ふたりは孝太郎に嘘をついて宿で逢瀬を重ねる。綿貫は、ふたりで光子を愛そうと園子に持ちかけ、互いの血で判を押して姉弟の契りを結ぶ。そしてその誓約書を孝太郎に見せる。問い詰められた園子はすべてを話す。ふたりの女は狂言自殺を図り、朦朧とした意識の中で、園子は光子が夫の腕の中にいるのを見る。孝太郎もまた光子のとりこになり、三人は一緒に幸せに暮らそうと決める。

だが長くは続かない。三人は、ほかのふたりが隠れて会っているのではと疑い合う。光子は帰る前に夫婦に毎晩睡眠薬を飲ませ、ふたりは弱りながらも光子への思いを募らせる。やがて、誓約書をひそかに写真に撮っていた綿貫がそれを新聞社に持ち込み、三人の関係が書き立てられる。破滅を前に、三人は園子の描いた菩薩像の前で死ぬことを選ぶ。翌日、孝太郎と光子は死に、園子だけが生き残った。ふたりが示し合わせて自分を置いていったのではないかという疑いから、園子は後を追うこともできない。それでもいま光子を思うと、憎しみより恋しさがまさるのだ、と園子は語る。

主な出演

  • 岸田今日子柿内園子役

    大阪の弁護士の妻。美術学校で出会った年下の女に心を奪われ、のちにその顛末を老作家に語る。

    柿内園子の物語

    夫が大阪に事務所を構えたのを機に、園子は女子美術学校で日本画を習い始める。描いた観音の顔は光子だ、ふたりは同性愛の仲だ、という噂から光子と親しくなり、噂はやがて本当になる。光子に「姉ちゃん」と呼ばれ、園子は夫をないがしろにしていく。婚約者を名乗る綿貫の存在を知って縁を切ろうとするが、仮病を見抜きながら許し、綿貫とは血判の誓約を交わす。その誓約書を見せられた夫にすべてを話す。狂言自殺の朦朧とした意識の中で、光子が夫の腕の中にいるのを見る。三人で暮らし始めるが、醜聞が新聞に出ると、園子の描いた菩薩像の前で死を選ぶ。生き残ったのは園子だけだった。除け者にされたのではと疑って後を追えず、それでも光子が恋しいと、彼女は老作家に語る。

  • 若尾文子徳光光子役

    織物会社の社長令嬢。園子とその夫、そして自分の婚約者までをも、思うままに引き寄せていく。

    徳光光子の物語

    光子は女子美術学校の洋画科に通う、織物会社の社長令嬢だ。園子の描いた観音の顔は光子だという噂が立ち、その噂どおりにふたりは親しくなる。観音の体は自分に似ていないと言って園子に裸を見せ、彼女を「姉ちゃん」と呼ぶ。だが光子には、婚約者を名乗る綿貫がいた。縁を切ろうとする園子を仮病で呼び戻し、宿での逢瀬を続ける。狂言自殺のあと、園子の夫・孝太郎とも関係を持ち、三人は一緒に暮らすことになる。光子は毎晩、帰る前に夫婦に睡眠薬を飲ませ、自分のいないところでふたりが結ばれないようにする。綿貫が誓約書を新聞社に持ち込むと、光子も園子の描いた菩薩像の前で死ぬことを選ぶ。翌日、光子は孝太郎とともに死んでいた。

  • 船越英二柿内孝太郎役

    園子の夫で、少々頼りない弁護士。関係を断たせようとして、自らも光子に引き込まれる。

    柿内孝太郎の物語

    孝太郎は大阪に弁護士事務所を開いたばかりで、妻の園子が美術学校で出会った光子に夢中になり、自分をないがしろにしていくのを見ている。綿貫に血判の誓約書を見せられると、園子にすべてを話させ、光子との仲を清算しろと迫る。ふたりの女は彼にわからせようと狂言自殺を図り、その夜、朦朧とする妻のそばで、孝太郎は光子と関係を持ち、その後も繰り返す。三人は一緒に暮らすことにするが、やがて互いに抜け駆けを疑い合う。光子は毎晩、夫婦に睡眠薬を飲ませてから帰り、ふたりは衰弱しながら光子への思いを募らせる。綿貫が誓約書を新聞社に持ち込んで醜聞が広まると、三人は菩薩像の前で死ぬことを選ぶ。翌日、孝太郎は光子とともに死に、園子だけが生き残る。

  • 川津祐介綿貫栄次郎役

    光子の婚約者を名乗る男。誓約や証文にこだわり、園子と血判の契りを交わす。

この作品が問いかけるもの

『卍』は、谷崎潤一郎が1928年に発表した同名小説の最初の映画化で、脚本は新藤兼人、題字は翌年に亡くなる谷崎自身の筆による。1964年、大手の大映が、女性同士の欲望を正面から主題に据えた。映画の関心は、その愛が許されるかどうかよりも、愛が所有の奪い合いに変わるとき何が起きるかにある。血判を押した誓約書、夫婦を引き離すために毎晩配られる睡眠薬、新聞沙汰の醜聞、ひとりだけが生き残る心中。問われているのは、欲望の中で力を握るのは誰なのか、いちばん愛される者か、いちばん愛する者か、ということだ。園子は最後にひとり残され、なお恋い焦がれながら、自分が愛されていたのか、ただ使われていたのかを知ることができない。