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Cinema 月明かりの映画館

火口のふたり

It Feels So Good

2019映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

結婚を控えた女と元恋人の従兄が5日間だけ扉を閉める。2019年キネマ旬報ベストテン第1位。

東日本大震災から七年目の夏。東京で離婚し、仕事を辞め、移った先の会社も倒産して、永原賢治はほとんどすべてを失っていた。父からの電話で、彼はいとこの佐藤直子の結婚式に出るため、故郷の秋田へ帰る。直子は十日後、自衛官と結婚する。若い頃、ふたりは恋人同士だった。直子の手元には、当時ふたりが撮った裸の白黒写真のアルバムが残っている。火口の写真を背に、からみ合うふたりを写した一枚もある。

「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」と直子は言う。一夜では足りなかった。婚約者が任務から戻るまでの五日間だけ、とふたりは決め、食べ、話し、身体を重ねて過ごす。語り合うのは、いとこ同士であることを後ろめたく思い、身体より道徳を選んで別れたこと、その直後に震災が起きたこと。それからの恋人たちのこと、結婚と子どものこと、同じ東北でも震災の被害をほとんど受けなかった秋田で暮らす居心地の悪さのこと。賢治の求めに何でも応じたのは彼が好きだったからだと、直子は打ち明ける。

婚約者の帰りは延びる。その理由を直子は知ってしまう。自衛隊が伏せているのは、富士山の噴火が迫っているという事実だった。噴火すれば東京は機能を止める。世界が終わるかもしれない日々のなかで、ふたりは暮らしに意味を探すことをやめ、ただ一緒に生きていこうと決める。かつて賢治との子どもができることを拒んだ直子は、もう拒まない。ふたりの最後の交わりに重ねるように富士山が噴火し、映画は終わる。

主な出演

  • 柄本佑永原賢治役

    直子のいとこで、かつての恋人。離婚し、職を失い、転職先も倒産して、故郷の秋田へ戻ってくる。

    永原賢治の物語

    賢治は、ほとんどすべてを失って秋田に帰ってくる。かつて直子がいながら別の女性と関係を持って結婚し、子どもをもうけ、さらに浮気をして離婚した。仕事を辞め、移った会社も倒産した。一夜だけと誘ったのは直子だったが、翌日、彼女の身体を求めて家に押しかけたのは賢治のほうで、ふたりは婚約者が戻るまでの五日間をともに過ごす。食べ、語り、身体を重ねるなかで、あなたの求めに何でも応じたのは好きだったからだと打ち明けられる。婚約者の帰りが延び、富士山の噴火が迫っていると直子から聞かされても、彼は何かをしようとはしない。これからの人生を考えても仕方がない、直子と一緒にいる、と言う。かつて彼との子を拒んだ直子は、もう拒まない。

  • 瀧内公美佐藤直子役

    賢治のいとこ。十日後に自衛官との結婚を控え、一夜だけあの頃に戻ろうと賢治を誘う。

    佐藤直子の物語

    直子は十日後に自衛官との結婚を控えながら、若い頃に賢治と撮った裸の白黒写真のアルバムを手元に残している。彼のそばにいたくて上京したこともある。結婚を決めたのは子どもが欲しくなったから、と彼女は言う。今夜だけあの頃に戻ろうと賢治を誘い、翌日また求めてきた彼に、婚約者が戻るまでの五日間だけと約束して、あなたの求めに何でも応じたのは好きだったからだと打ち明ける。最後の夜、西馬音内の盆踊りを見たあと、彼が目覚める前に、結婚式に来てねと書き置きを残して去る。だが婚約者の帰りは延び、そのパソコンから、富士山の噴火が迫っているという極秘の文書を見つけてしまう。直子は賢治と一緒にいると決め、かつて拒んだ彼との子を、もう拒まない。

  • 柄本明賢治の父(声)役

    秋田に暮らす賢治の父。電話の声だけで登場し、直子の結婚式のために息子を呼び戻す。

この作品が問いかけるもの

『火口のふたり』は、ほとんど部屋の中のふたりだけで進み、身体を真剣に扱う。性は情熱であり、会話であり、食欲であり、ときに滑稽でもある。映画が差し出すのは、道徳より長く続く欲望、法律は認めても良心が許さない、いとこ同士の恋、結婚と子どもへの願いという問いだ。背後には2011年以後の日本がある。荒井晴彦監督は、同じ東北でも震災の被害がなかった秋田を舞台に選び、そこにいた人々が震災をどう見つめていたのかを描こうとした。震災から間もなく富士山の噴火を描いた原作の着眼点にも驚いたという。『キネマ旬報』は本作を2019年の日本映画第1位に選び、瀧内公美を主演女優賞に選んだ。原作の言う「身体の言い分」に耳を傾けることは、正直に生きることなのか、終わりの前の最後のぜいたくなのか。その問いは開かれたまま残る。