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Cinema 月明かりの映画館

紙の月

Pale Moon

2014映画日本

465作品の星図のなかで見る

Moonlightの読みもの

Cinema『紙の月』と、彼女がはじめて自分として使った金この一篇を読む

ストーリー

結末まで書いています。

銀行員の主婦が年下の恋人のために横領を重ねる。転落を自由として描く。

バブル崩壊直後の1994年。子どものいない主婦の梅澤梨花は、わかば銀行の支店でパートから契約社員に昇格し、裕福な顧客の家を回る外回りを任される。夫の正文は妻にあまり関心がない。昇格の記念に梨花が選んだペアウォッチをどこか見下し、上海出張の土産に高価な腕時計を買ってくる。顧客の老人、平林の家で、梨花は孫の大学生、光太と出会う。駅で再会したふたりは同じ電車に乗り、そのままホテルへ入る。

光太が学費のために借金を抱えていると平林から聞かされ、孫に近づくなと釘を刺されたとき、梨花は平林から預かった200万円を着服する。窓口の若い行員を騙して現金を引き出し、貸すという形で光太に渡すのだ。上海へ栄転する夫には、一緒には行けないと告げる。そこから横領は広がっていく。認知症の老婦人の預金、自宅で刷った偽の証書で信じやすい顧客から預かる金、毎週末のホテルのスイートルーム、光太に買い与える車とマンション。光太は大学をひそかに辞め、与えられる暮らしに慣れていく。梨花を見ている女がふたりいる。欲しいものに正直で、次長の井上と不倫している若い行員の相川と、書類を洗い直し始め、存在しない証書に気づく厳格なベテラン行員の隅だ。

梨花は井上の不倫を盾に、処分を逃れる。だが光太のために買った部屋で別の女の服を見つけ、ふたりは終わる。カードは止められ、平林を誘惑しようとして失敗する。隅は梨花の顧客を一軒ずつ訪ね、横領の全額を明らかにする。会議室で向き合った隅に、梨花は語る。夜空の月を指でこすったら消えた。偽物だった。偽物なら、壊してもかまわない。梨花は窓を叩き割り、一緒に行きますかと隅に問いかけ、つかまれた腕を離されると、窓から飛び降りて走り出す。

しばらくのち、タイの市場で、梨花は顔に傷のある男と向き合う。少女のころ、父の財布から盗んだ金まで寄付して支援した、あの少年だった。警察の姿が見え、梨花は雑踏のなかへ消えていく。

主な出演

  • 宮沢りえ梅澤梨花役

    銀行の外回りを任された契約社員の主婦。大学生との恋から、巨額の横領へと踏み込んでいく。

    梅澤梨花の物語

    梨花は、顧客の孫の光太を追って同じ電車に乗り、そのままホテルへ入る。光太が学費の借金を抱えていると知ると、祖父の平林の200万円を着服し、貸すという形で彼に渡す。上海へ赴任する夫には、一緒には行けないと告げる。横領は広がっていく。認知症の老婦人の預金、自宅で刷った偽の証書、光太に買い与える車とマンション。やがて光太の部屋でほかの女の服を見つけ、ふたりは終わる。カードは止められ、隅が横領の全額を突き止める。向き合った隅に、梨花は、指でこすったら消えた月は偽物だった、偽物なら壊してもいいと語り、窓を叩き割って逃げる。しばらくのち、タイの市場で、少女のころ寄付で支えた少年の、顔に傷のある大人の姿と向き合い、警察の影を見て雑踏に消える。

  • 池松壮亮平林光太役

    顧客の孫で、借金を抱えた大学生。梨花の恋人となり、彼女に養われる暮らしに慣れていく。

    平林光太の物語

    光太は、祖父の家で梨花が肩を触られて悲鳴をあげたとき、大丈夫ですかと声をかけた青年だ。駅で見かけた梨花を追って同じ電車に乗り、次に会ったときには梨花が彼を追ってきて、ふたりはホテルへ入る。父がリストラされ、学費をサラ金から借りていた彼は、大学をやめて働くつもりでいて、梨花の申し出も最初は断る。だが月々返すという約束で200万円を受け取り、彼女を金持ちだと思い込む。やがてスイートルームも車もマンションも当然のように受け取り、大学もひそかに辞める。マンションにほかの女がいたことを知られると、梨花の家の玄関越しに謝り、ふたりの関係はそこで終わる。

  • 小林聡美隅より子役

    支店の厳格なベテラン行員。規則を曲げず、梨花の横領を突き止める。

    隅より子の物語

    隅は、次長の井上に疎まれているベテラン行員だ。異動の話を井上の差し金と考えて過去の書類を洗い直すうち、梨花が処理したはずの証書がどこにもないことに気づき、井上に知らせる。だが梨花は処分を免れ、隅はひとりで調べを続ける。梨花の顧客を一軒ずつ訪ねて証書を見せてもらうと、すべてが偽物で、横領の額は途方もなく膨らんでいた。会議室で向き合った梨花に、隅は、お金では自由になれないと言い切る。梨花は窓を叩き割り、一緒に行きますかと問いかける。つかんでいた腕を隅が離すと、梨花は走り去る。

  • 大島優子相川恵子役

    欲望に正直な若い窓口係。次長と不倫し、使わないお金は借りても気づかれないと梨花にささやく。

  • 田辺誠一梅澤正文役

    梨花の夫。妻に関心が薄く、上海への栄転を受ける。

  • 石橋蓮司平林孝三役

    裕福で気難しい老顧客で、光太の祖父。梨花が最初に手をつけるのは彼の金だ。

この作品が問いかけるもの

『紙の月』は、金で自分というものを買えると知ってしまった女性の犯罪映画だ。良き妻、信頼される外回り、そして少女のころ、貧しい国の子どもに寄付するため父の財布から金を盗んだ娘。映画は、梨花の美徳と罪が同じ根から伸びていることを示唆する。与えることで愛され、自由になろうとする衝動だ。吉田大八監督は、角田光代の原作にはいないふたりの女性を加えた。使わないお金なら借りても気づかれないとささやく同僚と、お金では自由になれないと言い切るベテラン。映画はふたりのあいだで議論を戦わせる。宮沢りえは東京国際映画祭で満場一致の最優秀女優賞を受け、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞にも輝いた。残る問いは、彼女が捕まるかどうかではない。彼女が逃げ出した暮らしは、偽物ではなかったと言えるのか、ということだ。