初情事まであと1時間
One Hour Before the First Time
ストーリー
結末まで書いています。
初めて肌を重ねる1時間前だけを描くオムニバス。ためらいが物語になる。
どの回も、ふたりが初めて体を重ねる一時間前に始まり、その直前で終わる。橋口亮輔、三浦大輔、大九明子、谷口恒平の四人の監督が、同名の漫画を原作に、それぞれ脚本と演出を手がけた全十二話。地上波では八話までが放送され、残る四話は配信で公開された。
カスタムドールの愛好家の集まりで出会った孤独なふたりは、人形を連れてホテルへ行き、女は人形の前で愛を交わそうと言う。付き合って三か月、互いに初めての恋人である大学生のふたりは、彼女の部屋で、頭のなかの「そのこと」以外のことばかりして夜をやり過ごす。四十代後半に差しかかった幼なじみの同級生、三代続く酒屋の店主と、東京での仕事に疲れて戻ってきたパートの女性は、海辺の町を軽トラで走りながら語り合い、やがて唇を重ねる。姉妹が暮らす部屋に泊まりに来た姉の恋人は、姉がシャワーを浴びるあいだ、妹のからかいをかわし続ける。上司との不倫に満たされない映像制作会社の女性は、いつものように金曜の残業に後輩を付き合わせる。後輩はそのたびに、チョコと、使うことのないコンドームを買っていた。五年間、互いに同棲相手の手前で気持ちを隠してきたふたりは、酔った勢いでラブホテルに入り、浮気を正当化する理屈をこねくり回す。初めてのデートで、自分と寝たら死ぬかもしれないと告げる女性。近づいた人に不運が降りかかる体質だという彼女の言葉どおり、男の会社はその夜に倒産するが、彼は嵐のなかで帰らない。一方通行の恋をしている五人が鍋を囲み、夜が更けて、部屋にふたりが残る。
配信の四話では、立場を盾に欲望を抑えてきた劇団の演出家と女優、ラジオネームでしか互いを知らず、武道館のライブに入れないまま夜の街をさまようリスナー同士、二十歳までに処女を捨てると誓い、誕生日まであと一時間で先輩店員に気づいてもらおうとする書店員、そして世間のあぶれ者が働くカラオケ店の不器用な店員ずっくんと、彼に会いに来る桜子が描かれる。どの物語も同じ敷居の手前で止まり、その先は描かれない。
主な出演
この作品が問いかけるもの
『初情事まであと1時間』は、多くの映画が場面を切り替えてしまう瞬間の手前だけで、ひとつのシリーズを作った。どの物語も体を重ねる直前で終わるので、ドラマはその周りにあるものに宿る。緊張、駆け引き、冗談、迷い、そして言葉や沈黙のなかで交わされる小さな同意の確かめ合い。登場するのは、初めて同士の若者から四十代後半の幼なじみ、不倫の関係にあるふたり、ラジオでしか互いを知らないふたりまで、あえてばらばらだ。橋口亮輔や三浦大輔を含む四人の監督が、喜劇から哀感まで、それぞれの調子で描き分ける。監督のひとり谷口恒平は、物語の最後に必ず初情事を迎えるというアイデアを発明的だと語った。残るのは静かな提案だ。その一時間前こそ、ふたりが互いにとって何者なのかを知る時間なのだと。