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Cinema 月明かりの映画館

M

2006映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

娼婦としての裏の顔を持つ主婦と、彼女を所有したがる客。

28歳の主婦・聡子は、会社員の夫・秀之と6歳の息子・将人と、何不自由なく暮らしている。だが夫婦のあいだはセックスレスが続き、平凡な毎日に退屈した聡子は、出会い系サイトに書き込みをして、見知らぬ男たちと関係を持ち、報酬を受け取るようになる。そんななかで出会った俵は、身なりのきちんとした優しい男に見えた。だが部屋に入ると態度が一変する。俵はヤクザで、聡子に売春を強いたのだ。殺されるかもしれないという恐怖の中で、聡子は初めて悦びを知ってしまう。それからも俵から連絡があると、聡子は怯えながら出かけていく。

秀之は、妻がどんどんきれいになっていくことに気づいている。会社の後輩から渡されたディスクには、目元を隠した素人女性の写真が大量に入っていて、その一枚に妻のものと思える口元が写っていた。確かめることはできず、妄想に支配されていく秀之は、鬱屈した思いを風俗の女性にぶつけるしかない。

新聞配達をする稔は、幼いころ、父から暴力を受ける母を助けようとして父を刺し殺し、そのせいで母に捨てられた。ある日、配達の途中でひとりで佇む少年とキャッチボールをしていると、母親が迎えに来て、手をつないで帰っていく。その母親、聡子がふと見せた怯えた目が、稔の心に引っかかる。仕事仲間に無理やり見せられたいかがわしいサイトの、目元を隠した女の写真に、稔は彼女の姿を見る。後をつけると、聡子はガラの悪い男と落ち合ったあと、ラブホテルへ入っていった。稔は家を訪ねて聡子を説得するが、聡子はそんな稔に体を預け、許しを乞う。稔は彼女を突き飛ばして家を飛び出す。やがて俵が彼女を脅していると知った稔は、彼女を救うために動き出す。

稔は自ら客になって聡子を指名し、ラブホテルで俵を殺す。聡子と稔は車で走り出すが、ふたりに行くあてはない。最後の場面は河原だ。息子とキャッチボールをする秀之を、聡子がやさしく見守っている。何事もなかったかのような、穏やかな家族の風景だ。

主な出演

  • 美元小川聡子役

    セックスレスの結婚生活を送る28歳の主婦。出会い系サイトで男たちと会ううち、ヤクザに売春を強いられる。

    小川聡子の物語

    聡子は幼い息子の世話をしながら、仕事に追われて自分に触れなくなった夫と暮らしている。退屈まぎれに、28歳ってオバサンですか、と携帯の出会い系サイトに書き込み、見知らぬ男たちと会っては報酬を受け取るようになる。やさしげな俵はヤクザで、彼女を脅して売春を強いる。それからは携帯が鳴るたびに身震いしながら出かけていき、その恐怖の中で、初めての悦びを知ってしまう。やめてほしいと家まで訪ねてきた新聞配達の青年・稔に、聡子は体を預けて許しを乞う。やがて客として彼女を指名した稔がラブホテルで俵を殺し、ふたりは行くあてもなく車で走り出す。最後の場面で、聡子は河原で息子とキャッチボールをする夫を、穏やかに見守っている。

  • 高良健吾正木稔役

    少年時代に暴力をふるう父を殺し、母に捨てられた新聞配達の青年。聡子に母の面影を重ねる。

    正木稔の物語

    稔は幼いころ、父の暴力から母を守ろうとして父を刺し殺し、少年院を経て、その母にも捨てられた。いまは住み込みで新聞配達をしている。配達の途中、ひとりで待っていた小さな男の子とキャッチボールをしていると、母親の聡子が迎えに来る。そのとき彼女が見せた怯えた目が、稔の心に残る。仕事仲間に見せられた、目元を隠した女たちの写真に彼女の姿を見つけ、後をつけて、ラブホテルに入るところを見てしまう。家を訪ねてやめてほしいと訴えるが、体を預けてきた聡子を突き飛ばして飛び出す。ヤクザの俵が彼女を脅していると知ると、自ら客になって聡子を指名し、ラブホテルで俵を殺す。そして行くあてもないまま、聡子を乗せて車で走り出す。

  • 大森南朋小川秀之役

    聡子の夫の会社員。裸の写真の中に妻らしき姿を見つけながら、問いただすことができない。

    小川秀之の物語

    秀之は仕事一筋の会社員で、妻とはもう夜をともにしていない。聡子がきれいになっていくことに気づき、同窓会から遅く帰った妻に、口説かれたのよと言われて、どう受けとめればいいのかわからない。会社の後輩から渡されたディスクには、目元を隠した素人女性の裸の写真が並んでいて、その一枚に妻のものと思える口元が写っていた。問いただすことはできない。妄想ばかりがふくらみ、鬱屈した思いを妻ではなく風俗の女性にぶつける。最後の場面で、秀之は河原で息子とキャッチボールをしている。何事もなかったかのように、聡子がそれを見守っている。

  • 田口トモロヲ俵役

    客として聡子に近づき、豹変して彼女に売春を強いる身なりのよいヤクザ。

この作品が問いかけるもの

この映画は、二種類の傷を並べて見せる。セックスレスの結婚に退屈した聡子は、出会い系サイトで知り合う男たちに体を売り始め、やがてそのひとりであるヤクザに、売春を続けるよう強いられる。映画は、その恐怖のなかで彼女が悦びを見出していく姿も描く。女性と強制をめぐる、もっとも古く危うい幻想に触れる設定だ。強いられた行為のなかに悦びがあったとしても、それが同意に変わるわけではない。その隣には、母への暴力を止めるために父を刺し、そのせいで母に捨てられた稔がいる。彼は聡子の怯えに母の顔を重ねる。そして、妻らしき写真を見つけながら何も言えない夫。ニューヨークのジャパン・ソサエティは、この映画を「ポストポストモダン時代の『昼顔』」と紹介した。描かれるのは性の売買そのものより、望みを口にできない人々の姿だ。