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Cinema 月明かりの映画館

四畳半襖の裏張り

The World of Geisha (Yojōhan Fusuma no Urabari)

1973映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

大正の花街と政治の激動。神代辰巳のロマンポルノ芸術。

米騒動が全国に広がる大正中期、東京・山の手の花街の夏。料亭「梅ヶ枝」では、おかみが芸者の袖子を待ちかねている。今夜の客は信介。三十代半ばの役者のような色男で、遊里で育った根っからの遊び人だ。外では号外の鈴が鳴っても、遊びはやめない。袖子ははじめ、初めてですもの、恥ずかしい、と電灯の明かりを落とし、半ば義理で相手をつとめる。けれど夜が深まるにつれて義理は消え、ふたりは何度も頂きを極める。初めての客に惚れてはならない、という掟を、袖子は破ってしまう。

映画はこの長い一夜を中心に据え、何度もそこから離れては戻ってくる。別の座敷では芸者の夕子が、シベリア出兵を控えた幼なじみの二等兵と、限られた時間を過ごしている。信介のなじみの置屋「花の家」では、お茶を引く花枝が、新入りの花丸に芸者の手管を仕込んでいる。場面のあいだには字幕が差し挟まれる。米騒動、ロシアの革命、騒動の報道を禁じる警察の命令、×印で伏せられたシベリアの戦死者の報告。

初めての一夜は、やがて結婚に行き着く。最後の場面、信介の妻となった袖子のもとへ花丸がやって来て、早く水揚げの旦那を世話してほしいと頼み込む。そこで画面は唐突に止まり、映画は終わる。

主な出演

  • 宮下順子袖子役

    初めての客に、商売の習いで恥じらいを演じてみせる芸者。やがて客に惚れてはならない掟を破る。

    袖子の物語

    米騒動が広がる大正中期の夏の夜、外で号外の鈴が鳴るなか、袖子は料亭「梅ヶ枝」に呼ばれる。おかみが待ちかねていた客は、根っからの遊び人の信介だ。初めてですもの、恥ずかしい、と袖子は明かりを落とし、半ば義理で相手をつとめる。けれど長い夜が更けるにつれて、義理は消えていく。初めての客に惚れてはならないという掟を、彼女は破る。その一夜は、やがて結婚に行き着く。最後の場面、信介の妻となった袖子のもとへ「花の家」の新入り芸者の花丸がやって来て、早く旦那を世話してほしいと頼み込む。そこで画面は止まり、映画は終わる。

  • 江角英明信介役

    三十代半ばの色男で、根っからの遊び人。米騒動のさなかに、袖子と長い一夜を過ごす。

    信介の物語

    大正中期の夏の夜、外で米騒動の号外が鳴っていても、信介はおかまいなしに料亭「梅ヶ枝」へ遊びに来る。座敷に現れた芸者の袖子は恥じらってみせ、そのしぐさが彼にはもどかしい。袖子は明かりを落とし、半ば義理で相手をつとめる。信介は彼女の様子を見ながら、じっとこらえて待つ。やがて義理は消え、ふたりは思いもよらないほど長く夜を重ねる。その一夜は、やがて結婚に行き着く。最後の場面で、袖子は信介の妻になっている。

  • 丘奈保美夕子役

    芸者。シベリア出兵を控えた幼なじみの二等兵と、短い逢瀬を過ごす。

  • 絵沢萠子花枝役

    置屋「花の家」の姉さん芸者。客のつかない夜、新入りの花丸に芸者の手管を仕込む。

  • 芹明香花丸役

    「花の家」の新入り芸者。最後の場面で、水揚げの旦那を世話してほしいと袖子に頼み込む。

この作品が問いかけるもの

原作は永井荷風の作と伝えられる春本『四畳半襖の下張』で、映画の公開当時、その本文は1972年に雑誌に載ったことで摘発され、わいせつをめぐる事件の渦中にあった。神代辰巳はそれに形式で応える。芸者と客の一夜にカメラを据えたまま、米騒動やシベリアへ向かう兵士、警察が差し止めた報道へと繰り返し切り返し、袖子の声を映す字幕を×印で伏せる。検閲が戦死者の報告を伏せたのと同じやり方で。問われているのは、何を見せてよいかを誰が決めるのか、ということだ。体についても、国家についても。キネマ旬報ベスト・テンでは1973年の日本映画の第6位に選ばれた。大島渚は本作を洗練されすぎていると評しながら、『愛のコリーダ』を作るうえで最も参考にした作品だと認めている。議論の足もとには、客を待ち、新入りを仕込む女たちの暮らしがある。