ミッドナイトスワン
Midnight Swan
ストーリー
結末まで書いています。
新宿で暮らすトランス女性が虐待された少女を引き取る。日本アカデミー賞最優秀作品賞。
広島を離れた凪沙は、新宿のショークラブ「スイートピー」の舞台に立つトランスジェンダーの女性だ。性別適合手術のためにお金を貯めている。家族には打ち明けておらず、母からの電話には男の声で出る。養育費を目当てに、彼女は従妹・早織の娘で中学生の一果を預かる。早織は娘を放り出し、手を上げてきた。叔父を訪ねるつもりで来た一果に、凪沙は子どもは嫌いだと言い放つ。心を閉ざした一果は、耐えきれなくなると自分を傷つけてしまう。
一果は近所のバレエ教室に引き寄せられる。講師の片平実花は彼女の才能を見抜き、一果は、裕福な家に育ち、母の夢を背負わされた桑田りんと友人になり、競い合う。月謝のために、りんに誘われたいかがわしい撮影会のアルバイトは、少女たちへの性的搾取にほかならず、やがて警察沙汰になって、凪沙はすべてを知る。やがて彼女は手術のための貯金を月謝に回し、就職の面接を受け、男の姿で力仕事に就く。ヘルメットに書くのは、男だった頃の名前だ。講師に「お母さん」と呼ばれた凪沙は、喜びを隠せない。一方、脚を痛めたりんは、バレエを取ったら何も残らないと母に言われる。一果がコンクールで踊るそのとき、りんは結婚パーティーのさなかに自ら命を絶つ。
別のコンクールで、一果は舞台の上で立ちすくみ、「お母さん」とつぶやく。客席から駆け上がって娘を抱きしめたのは早織だった。凪沙は会場を去り、一果は広島へ帰る。タイで手術を受けた凪沙は広島へ迎えに行き、こんなところにいてはだめ、踊るのよと一果に告げるが、早織に「バケモノ」と罵られ、ひとりで帰る。一果はふたたびバレエに打ち込み、海外のバレエ学校への入学を決める。中学の卒業式を終えて東京を訪ねた一果が見たのは、術後の合併症で体を重く壊し、目もほとんど見えなくなって寝たきりの凪沙だった。海が見たいという凪沙を浜辺へ連れていき、一果は彼女のために踊る。凪沙はそれを見つめながら息を引き取る。一果は海へ向かって歩いていく。数年後、凪沙と同じベージュのコートに赤いハイヒールで異国の街を歩いた一果は、舞台で『白鳥の湖』を踊る。
主な出演
草彅剛凪沙役
広島から出てきて新宿のショークラブで踊るトランスジェンダー女性。手術費用を貯めながら、養育費目当てに親戚の娘を預かる。
凪沙の物語
凪沙は広島を離れ、新宿のショークラブで踊りながら手術のためにお金を貯めている。養育費目当てに一果を預かり、子どもは嫌いだと言い放つ。だが、隠れて始めたアルバイトが警察沙汰になり、自分を傷つける一果を慰めたその夜、店で踊る彼女の才能を知る。それからは手術の貯金を月謝に回し、手料理を作り、男の姿で力仕事に就く。講師に「お母さん」と呼ばれて顔がほころぶ。舞台で立ちすくむ一果に先に駆け寄ったのは早織で、凪沙は会場を去る。タイで手術を受けて広島へ迎えに行き、踊りなさいと告げるが、「バケモノ」と罵られる。卒業した一果が訪ねてきたとき、凪沙は寝たきりで、目もほとんど見えない。海が見たいと言い、浜辺で踊る一果を見つめながら息を引き取る。
服部樹咲桜田一果役
母の育児放棄のもとで育ち、凪沙に預けられた中学生。バレエに出会い、才能を開かせていく。
桜田一果の物語
一果は、叔父を訪ねるつもりで広島から出てきた中学生。母に手を上げられて育った。ほとんど口をきかず、からかった男子に椅子を投げつけ、耐えきれなくなると自分を傷つける。バレエ教室の月謝を、りんに誘われたいかがわしい撮影会のアルバイトでまかなう。子どもへの性的搾取であり、やがて警察沙汰になる。やがて凪沙が月謝を出し、ふたりは夜の公園で一緒に練習する。舞台で立ちすくみ「お母さん」とつぶやくと、駆け上がった早織に広島へ連れ戻される。凪沙に踊りなさいと言われてバレエに戻り、海外のバレエ学校に合格する。卒業後、死の迫った凪沙を海へ連れていき、彼女のために踊る。数年後、凪沙のような装いで異国の街を歩き、「見てて」とつぶやいて『白鳥の湖』を踊る。
水川あさみ桜田早織役
一果の母で、凪沙の従妹。娘を放り出し手を上げてきたが、やがて娘を取り戻しに現れる。
上野鈴華桑田りん役
一果と同じ中学に通い、同じバレエ教室で競い合う少女。自分の夢を娘に託す母のもとで育つ。
真飛聖片平実花役
近所のバレエ教室の講師。一果の才能を見抜き、凪沙をごく自然に一果の母として扱う。
この作品が問いかけるもの
『ミッドナイトスワン』は、トランスジェンダーの女性を日本の商業映画の真ん中に置き、その役をスターに演じさせた。客の嘲り、性的少数者を「流行り」と言う面接官、「バケモノ」と罵る家族、ほかのすべてに必要だったお金で払う手術。凪沙の暮らしは和らげられずに描かれる。その向かいで映画は、血ではなく、手料理と月謝でできた母性を築いていく。第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受け、東京の一館で185週にわたって上映された。同時に、ライターの松岡宗嗣からは、多数派の涙を誘うために「かわいそうなトランスジェンダー像」を使っている、シスジェンダーの男性が演じている、という批判も受けた。そのふたつの読み方は結末で重なる。ひとりの女性が少女に未来を手渡し、彼女を讃える物語は、彼女がその未来を見届けることを許さない。