あなたを知ってる
Not a Stranger
ストーリー
結末まで書いています。
アトリエに戻りたい画家が、娘がなつく理想のベビーシッターを雇う。その女性がかつて夫の恋人で、自分の居場所を狙っているとは知らずに。
画家のフンダは、娘のマーヴィを産んでから絵筆を握っていない。展覧会を控え、夫イルケルとの結婚生活は冷えきり、赤ん坊を安心して預けられる相手も見つからない。そんな彼女が気を許したのが、マーヴィの水泳教室で指導する穏やかなナズルだった。ナズルが仕事を辞めると聞き、フンダはイルケルの出張中に、彼女を住み込みのベビーシッターとして雇う。帰宅した夫は台所に立つナズルを見て凍りつき、昔、彼女と一夜だけの関係があったと打ち明ける。アトリエに戻りたい一心で、フンダは彼女を雇い続ける。
一夜ではなかった。ふたりは、イルケルがロンドンへ発つまで4か月つきあっていた。その後ナズルは事故で妊娠を失い、もう子どもは望めないと告げられた。水泳教室に来るずっと前から、ネットでフンダの暮らしを見つめてもいた。家に入った彼女はマーヴィの世話を見事にこなし、距離を置こうとしたイルケルは、ふたたび彼女のもとへ戻る。ナズルの恋人エムレはホテルまで彼女をつけ、部屋にいるイルケルを見つけ、フンダに「話がある」と留守電を残す。イルケルは路上で彼を追いかけ、エムレのバイクはトラックに衝突し、彼は病院で息を引き取る。
そのころフンダは頭痛や記憶の空白、めまいに悩み、家じゅうにカメラを置いても何もつかめない。ナズルが淹れるハーブティーに、鎮静剤が混ぜられていたのだ。展覧会の初日、薬の効いたフンダはマーヴィを抱いたままバイクの男を追いかけ、娘とともに転倒する。自分が娘にとって危険な存在になったと思い込んだ彼女は、夫に助けを求め、自ら療養施設に入る。
家を離れると、彼女は数日で回復する。いまもフンダに想いを寄せるケマルは、ナズルが看護師の職を解雇されていたことを突き止めて問い詰める。ナズルはすべてを認め、黙って結婚が壊れるのを待てばいいと彼を言いくるめる。6週間後、ケマルは退院するフンダを迎えに行く。物語は、自分の家の外から、中にいるナズルとイルケルとマーヴィを見つめるフンダの姿で終わる。壊れたのは自分だと、彼女はまだ信じている。
主な出演
エルチン・サングフンダ役
娘を産んで絵から離れた画家。アトリエに戻るため、住み込みのベビーシッターを雇う。
フンダの物語
フンダはマーヴィを産んでから絵を描いておらず、夫イルケルとの仲も冷え、赤ん坊を任せられる相手もいない。娘がなつく穏やかなナズルに出会い、夫が彼女との一夜を打ち明けても、アトリエに戻りたい一心で雇い続ける。絵を描き、展覧会の準備を進めるうちに、頭痛や記憶の空白、めまいが彼女をむしばむ。家にカメラを据えても、お茶を疑うことはない。展覧会の初日、薬の効いた体で見知らぬ男を追い、娘を抱いたまま転倒した彼女は、自分が娘にとって危険だと思い込み、療養施設に入る。数日で回復し、6週間後にケマルに迎えられた彼女は、家の外から、ナズルとイルケルとマーヴィを見つめる。壊れたのは自分だと信じたまま。
メリス・セゼンナズル役
フンダが雇う水泳教室の指導員。かつてイルケルの恋人だったことを隠している。
ナズルの物語
ナズルは、イルケルがロンドンへ発つまで4か月、彼の恋人だった。のちに事故で妊娠を失い、もう子どもは望めないと告げられる。ネットでフンダの暮らしを追い、マーヴィが通う水泳教室で働きはじめ、住み込みのベビーシッターとして家に入る。マーヴィを慈しみながらイルケルとの関係を取り戻し、フンダのお茶に鎮静剤を混ぜ続ける。恋人のエムレがホテルでイルケルを見つけ、フンダに知らせようとしてイルケルに追われ、事故で命を落とすと、彼女は自分の事故の記憶にさいなまれる。看護師を解雇された過去をケマルに突き止められても、すべてを認めたうえで彼を黙らせる。物語の終わり、彼女はイルケルとマーヴィとともに家の中にいる。
オザン・ドルナイイルケル役
フンダの夫。ナズルとの過去を「一夜だけ」と偽り、残りを語らない。
イルケルの物語
出張から戻ったイルケルの台所には、ロンドンへ発つ前に4か月つきあったナズルが立っていた。彼は妻に「一夜だけの関係だった」と告げ、彼女を家に置きたくないと言う。フンダが雇い続けると、距離を置こうとして果たせず、関係はふたたび始まる。ホテルの部屋でエムレに見つかり、フンダに知らせようとする彼を路上で追いかけるうちに、エムレのバイクはトラックに衝突する。病院では、彼が目を覚まして秘密を話すことを恐れて待つ。フンダが療養施設に入ると、彼は酒に溺れ、娘を母親に会わせにも行かず、ナズルとマーヴィとの日々に落ち着いていく。隠してきたことの責任を、彼は最後まで問われない。
ジェマル・ヒュナルケマル役
いまもフンダに想いを寄せる男。ナズルの過去を調べはじめる。
エフェ・タシュデレンエムレ役
ナズルの恋人。彼女とイルケルの関係に気づき、フンダに知らせようとする。
この作品が問いかけるもの
『あなたを知ってる』はベビーシッター・スリラーの枠を借りているが、最初に置かれるのはありふれた現実だ。赤ん坊を愛しながら、どうしても仕事に戻りたい母親がいて、その両方を望むことが欠陥のように感じさせられる。企画と脚本のトゥーバ・ドアンは、フンダの疲れが、周りにも本人にも母親失格の証拠として読まれていく速さを繰り返し描き、薬を盛られる筋立てがその疑いを文字どおりのものにする。夫の小さな嘘、「一夜だけ」が危険を家に招き入れたことも見逃さない。ナズルには、失った妊娠と、一時のものとして扱われた恋という過去が与えられるが、それで行いが許されるわけではない。回復しながら何も知らされず家の外に立つ母親の姿で、母親の心について誰の言葉が信じられるのかという問いは開かれたままになる。