EN
メニュー

Cinema 月明かりの映画館

阿修羅のごとく

Asura

2025ドラマ・シリーズ日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

老いた父の不倫を知った四姉妹。向田邦子の名作を是枝裕和が映す、女たちの言えない怒り。

1979年1月。図書館司書の三女・竹沢滝子が姉妹を呼び集め、老いた父・恒太郎に愛人の友子と幼い男の子がいると打ち明ける。四人は母・ふじには知らせないと約束するが、それぞれが自分の秘密を抱えている。夫に先立たれ生け花を教える長女・綱子は、妻のある料亭の主人・貞治の愛人だ。専業主婦の次女・巻子は、夫・鷹男と会社の部下との仲を疑っている。四女・咲子は、芽の出ないボクサーの陣内と暮らしている。

新聞に、匿名の主婦による投書が載る。書かれているのは竹沢家そのものだ。姉妹は巻子を疑うが、鷹男は書いたのはふじだと見抜く。母はずっと知っていたのだ。夫のことを相談した巻子に、ふじは「女は言ったら負け」と言う。やがて巻子は、友子のアパートの前でふじと鉢合わせる。ふじはその場で倒れ、そのまま亡くなる。友子に別れを告げられたばかりの恒太郎は、妻の枕元で涙を流す。

物語は離れては結び直される。滝子は、自分が雇った興信所の調査員・勝又と惹かれ合って結婚し、ふたりは父の暮らす実家に住む。陣内はチャンピオンになり、咲子は地味な姉を見下す華やかなチャンピオンの妻になる。だが陣内は滝子の結婚式の場で倒れ、防衛戦のあと意識が戻らなくなる。巻子は万引きで捕まり、それでも疑いを胸にしまい込む。綱子は見合いの席を途中で立ち、貞治の妻・豊子が勝又に夫の調査を頼んでも、貞治と別れられない。

最終話。入院費がかさむなか、咲子は街で出会った男と関係を持ち、口止め料を要求される。子どもの頃からいがみ合ってきた滝子が、陣内の病室でその男と対峙し、追い払う。綱子と貞治が心中を図ったと、夜中に隣人から巻子に知らせが入るが、綱子はただの事故だと言い張る。夫の足の裏に描かれたへのへのもへじを見つけた豊子は、同じ顔を綱子の教室の看板に描き、ふたりの関係は続いていく。鷹男の部下だった女性は、自分の結婚式の仲人を巻子に頼みにくる。巻子は鷹男を問い詰めるが、夫は何もかも否定する。式の当日、隣で拍手しながら、巻子は笑顔のまま夫に告げる。あなたの言うことなど信じていない、と。滝子は身ごもり、咲子は陣内の母とともに夫を看病し、動いた足の裏にふたりで喜ぶ。白菜を漬けながら言い合う四姉妹を眺め、鷹男は勝又にささやく。女は阿修羅だ。徳を説きながら、陰では悪口を言い合う神様だから気をつけろ、と。

主な出演

  • 宮沢りえ三田村綱子役

    長女。夫を亡くし生け花を教えて暮らし、妻のある料亭の主人と長く関係を続けている。

    三田村綱子の物語

    綱子は妹たちに、父の浮気はこれが二度目だと明かし、母が怖い顔で石臼をひいていた日々を語る。恋人の貞治の妻・豊子が勝又に夫の調査を頼むと、相手は自分だがもう切れていると言い繕う。見合い相手と出かけた雅楽の会では途中で席を立ち、結局貞治と別れられずに、巻子に叱られる。最終話、貞治と心中を図ったと隣人から知らせが入るが、綱子はただの事故だと言い張る。豊子は、夫の足の裏に描かれていたへのへのもへじを綱子の生け花教室の看板に描き、ふたりの関係はそれでも続いていく。

  • 尾野真千子里見巻子役

    次女。中学生の息子と娘を育てる専業主婦。夫の浮気を疑いながら、口をつぐんでいる。

    里見巻子の物語

    巻子は夫の浮気を母に相談し、「女は言ったら負け」と言われる。そのあと、友子のアパートの前で母と鉢合わせ、倒れる母を目の当たりにする。病院では父の胸ぐらをつかむ。夫の相手を部下の啓子だと考えるようになってからは平静を失い、スーパーで万引きをして捕まり、電話が鳴るたびにおびえ、啓子と親しくなる娘を許せない。やがて啓子本人が、自分の結婚式の仲人を頼みに来て、真実は自分で確かめてと告げる。巻子は夫を問い詰めるが、鷹男はすべてを否定する。式の当日、隣で拍手しながら、巻子は笑顔で夫に告げる。浮気していないなんて信じていない、と。

  • 蒼井優竹沢滝子役

    三女。生真面目な図書館司書。父の秘密を突き止め、自分が雇った調査員と惹かれ合う。

    竹沢滝子の物語

    姉たちを呼び集め、父に愛人がいると告げたのは滝子だった。調べを頼んだ内気な勝又との最初の夜はうまくいかず、勝又は父の調査資料を燃やしてしまうが、ふたりは結婚し、父の暮らす実家に住む。子どもの頃から同じ部屋でいがみ合ってきた咲子は、チャンピオンの妻になって滝子を見下し、結婚式で陣内が新郎に酒をこぼすと、滝子は「帰って」と怒鳴る。防衛戦のあと陣内が倒れると、妹を妬んだせいではないかと自分を責める。友子の息子と笑い合う父を見て、どうしても父を許せない。最終話、咲子を脅す男と陣内の病室で向き合って追い払い、滝子は身ごもる。

  • 広瀬すず竹沢咲子役

    四女。喫茶店で働き、ボクサーにすべてを賭けて、チャンピオンの妻になる。

    竹沢咲子の物語

    咲子は無名のボクサー・陣内と暮らしている。減量に付き合って食べずにいて、仕事中に倒れたこともある。母が亡くなる頃には陣内の子を身ごもり、結婚して子どもを産み、陣内の母・まきと同居する。陣内がチャンピオンになると、外車に毛皮で現れ、地味な滝子を見下すようになる。滝子の結婚式の日に倒れた陣内をすぐに退院させ、姉たちの前では気丈にふるまう。防衛戦のあと陣内は意識が戻らなくなり、まきには責められ、入院費もかさんでいく。街で出会った男と関係を持ち、金を要求されたとき、追い払ってくれたのは滝子だった。最後は、まきとともに陣内に付き添い、その足が動いたことをふたりで喜ぶ。

  • 國村隼竹沢恒太郎役

    四姉妹の父。愛人とその息子のもとに通い、もうひとつの家庭を持っている。

  • 松坂慶子竹沢ふじ役

    四姉妹のおだやかな母。夫のもうひとつの暮らしを知らないように見えて、すべてを知っていた。

この作品が問いかけるもの

『阿修羅のごとく』が描くのは、1979年の家族の女たちが知っていながら口にしないことだ。夫のもうひとつの家庭に気づかないように見える母は、何年も前から知っていた。彼女は言葉にする代わりに、ミニカーを襖に投げつけ、新聞に投書する。「女は言ったら負け」という母の掟は娘たちに受け継がれ、作品は彼女たちがそれを守り、ひとりずつ破っていく姿を見つめる。巻子はついに夫を問い詰め、滝子はいがみ合ってきた妹のために声を上げる。是枝裕和は向田邦子の脚本を、せりふも時代設定もほぼそのまま生かした。嫉妬と見栄をめぐる古い言葉が、驚くほど今に近く響く。ここでの不倫は事件ではなく、冬ごとに漬ける白菜のように、家の暮らしの一部になっている。問われているのは、家族の表面を平らに保つために何が支払われ、それを払うのが誰なのかということだ。