ナイトビッチ
Nightbitch
ストーリー
結末まで書いています。
専業主婦の母が夜になると犬に変わり始める。産後の怒りを最も正直に描いた映画。
『ナイトビッチ』の主人公には名前がない。クレジットでは「母親」と呼ばれている。息子が生まれるまでアーティストだった彼女は、夫が週の大半を出張で留守にするなか、郊外の静かな家で2歳の息子の世話をほとんどひとりで担っている。仲良くするよう期待される朗らかなママ友たちにうんざりし、口では穏やかに答えながら、頭の中では怒りをぶちまけている。活躍を続ける昔の友人に出くわしても、怒りをのみこんで無難な言葉を返す。週末に帰ってくる夫は、君がうらやましいと言う。
やがて体が変わりはじめる。ところどころに毛が生え、歯がとがり、腰の付け根のしこりは尻尾の始まりになり、乳首が増え、嗅覚が鋭くなる。ストレスか更年期のせいだと思おうとするが、自分は犬になりつつあるのだと確信していく。メノナイトの共同体で育った子ども時代と、四つ足で走る母の夢を見る。図書館で借りた、動物に変身する女たちの本がそれを裏づけるように思える。彼女は身をゆだねる。息子は近所の犬たちと遊び、皿から食べ、犬用のベッドで眠るようになり、ようやく朝まで眠ってくれる。彼女も、自由に駆けまわる夢を見ながら眠る。夜には犬たちと街をさまよい、小さな動物を狩る。昔の友人たちとの食事会では吠え、人の皿から食べてしまう。ある夜には飼い猫まで殺し、翌朝、その亡骸が玄関先に横たわっている。
助けが必要なら、なぜ言わなかったのかと問う夫に、彼女はすべてをぶつける。作品づくりを取り戻したい。自分が何を手放したか、あなたは気づきもしなかった。夫は、締め出したのは君のほうだと言う。ふたりはしばらく別居することにする。育児の多くを引き受けた夫は四苦八苦し、彼女は展覧会の準備を進める。自分の母にも同じ野性があり、息子にも受け継がれていることに、彼女は気づく。ママ友たちに捧げた展覧会は成功し、作品を前にした夫は、妻が何を手放していたのかをようやく理解する。ふたりはふたたび一緒になり、最後の場面で、夫に付き添われて彼女は娘を産む。
主な出演
エイミー・アダムス母親役
幼い息子の世話のために作品づくりを手放したアーティスト。自分が犬になりつつあると信じはじめる。
母親の物語
夫が出張がちな家で、2歳の息子の世話をほとんどひとりで担う彼女は、ママ友たちに笑顔を向けながら、頭の中で怒りをぶちまけている。毛が生え、歯がとがり、尻尾が伸びはじめると、ストレスのせいだと思おうとするが、やがて自分は犬になりつつあると確信し、身をゆだねる。息子を子犬のように育てると、ふたりはようやく眠れるようになる。夜は近所の犬たちと駆けまわり、ある夜には飼い猫まで殺す。なぜ助けを求めなかったのかと問う夫に、作品づくりを取り戻したい、あなたは何も気づかなかったとぶつけ、ふたりは別居する。母にも息子にも同じ野性があると知った彼女は、展覧会を開く。会場で夫は過ちを詫び、ふたりはやり直す。やがて彼女は、夫に付き添われて娘を産む。
週の大半を出張で留守にする夫。家にいる妻をうらやみながら、その代償には気づいていない。
夫の物語
夫は週の大半を出張で家を空け、週末に帰ってくると、息子と過ごせる妻がうらやましいと言う。手を貸すかわりに一日の予定の立て方を助言し、苛立つ妻を罵りかける。飼い猫が殺された夜、なぜ助けが必要だと言わなかったのかと問い、作品づくりを取り戻したい、あなたは私が手放したものに気づきもしなかったと妻に責められると、出産のあと自分を締め出したのは君のほうだと返す。ふたりは別居する。自分の部屋で初めて育児を担った彼は四苦八苦し、息子に宇宙人を見るような目で見られると嘆く。展覧会で妻の作品を前にした彼は、彼女が何を手放したのかを知り、過ちを詫びる。ふたりはふたたび一緒になり、彼は妻のそばに付き添って、娘の誕生を迎える。
アーリー・スノーデン息子役
ふたりの2歳の息子。手に負えず眠らなかったが、子犬のように育てられて落ち着いていく。双子が演じ分けた。
エメット・スノーデン息子役
同じ2歳の息子の役を、双子のアーリーと分け合って演じた。
この作品が問いかけるもの
『ナイトビッチ』は、母親たちがめったに口にできない感情、母になって背負わされた暮らしへの怒りに、毛皮と牙を与えた。犬は冗談であって、冗談ではない。辛抱強く、感謝を忘れず、感じよくあれと言われ続けた女性の体が、言うことを聞かなくなったときの姿なのだ。原作はレイチェル・ヨーダーの2021年の小説で、狙いは具体的だ。幼い子の世話をひとりで担う孤立。脇に置かれた創作の人生。家にいる妻をうらやみながら、その代償を見ようとしない夫。エイミー・アダムスはこの役でゴールデングローブ賞にノミネートされ、批評は賛否に分かれた。映画は母であることを拒んで終わるのではなく、仕事が分かち合われ、自分が戻ってくるところで終わる。残る問いは、なぜ彼女はまったく別の何かにならなければ、誰にも耳を傾けてもらえなかったのか、ということだ。