さらば、わが愛/覇王別姫
Farewell My Concubine
ストーリー
結末まで書いています。
京劇の50年。虞姫を演じる男は、舞台の外でもその役を降りられない。
1924年の北京。娼婦の子、小豆子は、母の手で關師匠の京劇養成所に預けられる。少年たちは折檻で芸を叩き込まれる。石頭という少年が、彼をかばってくれる。女形として仕込まれる小豆子は、「女として生まれ」という台詞をいつも「男として生まれ」と言い間違え、ようやく正しく言えるようになる。一緒に逃げ出した仲間は、そのあとの折檻を見て、自ら命を絶つ。一座が年老いた宦官、張公の屋敷で芝居を披露した日、小豆子は張公から性的虐待を受ける。帰り道、ふたりは捨て子の赤ん坊を拾い、養成所に連れ帰る。
成長した小豆子と石頭は、程蝶衣と段小楼という芸名で『覇王別姫』を演じる看板役者になる。蝶衣は覇王に殉じる虞姫を、小楼は覇王を演じる。蝶衣は小楼を愛している。有力な贔屓筋の袁四爺は蝶衣に言い寄り、かつて石頭が贈ると約束した宝剣を彼に与える。小楼は、自ら身請けして廓を出た気丈な女郎、菊仙と結婚し、蝶衣は裏切られたと感じる。
歴史が押し寄せる。日本軍の占領下、蝶衣は捕らえられた小楼を救うため日本軍の将校たちの前で歌い、戦後は国民党に漢奸として裁かれる。菊仙は子を流産する。蝶衣はアヘンに溺れ、小楼と菊仙に支えられて抜け出す。共産党の勝利のあと袁四爺は処刑され、かつての捨て子で、新しい体制に心酔する弟子の小四が、蝶衣から役を奪う。
文化大革命。一座は紅衛兵に引き出され、大衆の前で批判にさらされる。追いつめられた小楼は蝶衣のアヘンと袁四爺との関係を暴露し、蝶衣は菊仙がかつて女郎だったことを暴き、小楼は菊仙を愛したことなどないと言い放つ。菊仙は宝剣を蝶衣に託し、自ら命を絶つ。
11年後、四人組の失脚ののち、蝶衣と小楼はふたたび『覇王別姫』の稽古をする。ふざけて小楼が昔の台詞を口にすると、蝶衣はあのころと同じ言い間違いをする。虞姫が死ぬ場面にさしかかったとき、蝶衣は劇中の虞姫と同じように、自ら命を絶つ。小楼は「蝶衣」と叫び、それから小さく「小豆子」と呼ぶ。
主な出演
レスリー・チャンチェン・ディエイー(程蝶衣)役
虞姫を当たり役とする京劇の名女形。少年のころから、舞台の相手役を愛し続けている。
チェン・ディエイー(程蝶衣)の物語
小豆子は娼婦の母に京劇の養成所へ預けられ、兄弟子の石頭にかばわれて育つ。女形として仕込まれ、台詞を言い間違え続けたすえに、ようやく正しく言えるようになる。一座が老宦官・張公の屋敷で芝居をした日、彼は張公から性的虐待を受ける。程蝶衣となった彼は虞姫で名を上げ、舞台のたびに小楼の化粧を仕上げ、彼を愛し続ける。小楼が結婚すると、贔屓の袁四爺のもとへ身を寄せる。小楼を救うため日本軍の前で歌い、戦後はそのことで裁かれ、アヘンに溺れる。やがて弟子の小四に役を奪われる。文化大革命で小楼に告発されると、菊仙の過去を暴く。11年後、ふたたび稽古をする彼は昔と同じ言い間違いをし、虞姫が死ぬ場面で、自ら命を絶つ。
チャン・フォンイードァン・シャオロウ(段小楼)役
少年時代から蝶衣をかばってきた相手役。覇王を演じ、女郎の菊仙と結婚する。
ドァン・シャオロウ(段小楼)の物語
石頭は養成所で小豆子をかばう兄弟子で、覇王が虞姫に贈るように、いつか宝剣を贈ると約束する。段小楼となった彼は、蝶衣の虞姫の相手役として覇王を演じるが、蝶衣を弟としか見ていない。菊仙と結婚し、日本兵にたてついて捕らえられると、蝶衣が日本軍の前で歌ったことで釈放される。戦後は漢奸とされた蝶衣のために袁四爺に頭を下げ、菊仙とともに蝶衣のアヘン断ちを支える。小四が蝶衣の役を奪うと、その小四と舞台に立つ。文化大革命では紅衛兵に引き回されて蝶衣を告発し、菊仙を愛したことはないと言い放つ。11年後、ふたたび蝶衣と稽古をし、ふざけて昔の台詞を口にする。蝶衣が自ら命を絶つと、「蝶衣」と叫び、それから小さく「小豆子」と呼ぶ。
コン・リージューシェン(菊仙)役
自ら身請けして小楼と結婚する女郎。小楼をめぐって蝶衣と張り合う。
ジューシェン(菊仙)の物語
自ら身請けして廓を出た菊仙は、勢いで結婚を口にした小楼の妻になる。はじめから、小楼をめぐって蝶衣と張り合う。小楼が日本軍に捕らえられると、救い出してほしいと蝶衣に頼む。戦後の混乱のなかで子を流産しても、小楼とともに蝶衣のアヘン断ちを支え続ける。文化大革命で一座とともに引き回された彼女は、かつて女郎だったと蝶衣に暴かれ、夫からは愛したことなどないと言い放たれる。彼女は宝剣を蝶衣に返し、自ら命を絶つ。
グォ・ヨウイェンスーイエ(袁四爺)役
蝶衣に言い寄る裕福な京劇の後援者。宝剣を蝶衣に与え、共産党の勝利のあと処刑される。
レイ・ハンシャオスー(小四)役
一座に拾われ、蝶衣に育てられた捨て子。新しい体制のもとで師を裏切る。
この作品が問いかけるもの
『さらば、わが愛/覇王別姫』は1993年のカンヌ国際映画祭で『ピアノ・レッスン』とともにパルム・ドールを受け、いまも中国語映画でただ一本の受賞作だ。中国では公開から2週間で上映を打ち切られ、禁止された。国際的な非難が起き、2000年の五輪招致への影響も懸念されて再公開されたが、文化大革命と同性愛の場面は削られ、結末も和らげられた。チェン・カイコー監督は、若いころ文化大革命のなかで父を告発した経験を、この映画に注いでいる。体制が変わるたびに違う演技を求められる半世紀を、ふたりの男を通して追い、その下に人の何が残るのかを問う。もっとも痛切な問いは蝶衣のものだ。王に殉じる女を演じるよう育てられた少年は、その役を降りられるのか。レスリー・チャンはのちに、ふたりの愛がほとんど言外のものとして扱われたことを悔やんでいた。