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Cinema 月明かりの映画館

Black Box Diaries

2024ドキュメンタリー日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

伊藤詩織監督による自身の事件の記録。海外でアカデミー賞候補、日本では映像使用の同意をめぐり公開が遅れた。

この映画は、伊藤詩織が自らの性被害事件を、本人と友人たちが10年近く撮りためた映像で綴った記録だ。始まりは、ホテルの防犯カメラの映像である。2015年4月、就職の相談のつもりで、25歳の伊藤は東京で山口敬之と食事をした。大手民放局のワシントン支局長で、安倍晋三首相の評伝を書いた男だ。映像には、ほとんど立っていられない彼女をタクシーから引きずり出し、ホテルへ連れて入る山口の姿が残る。目を覚ましたときレイプされていた、と伊藤は訴える。山口は否定している。

逮捕状は出たが、空港で山口を待ち構えていた捜査員に、上からの指示で逮捕の中止が告げられた。検察は不起訴とした。2017年、家族の懇願を押し切って、伊藤は実名と顔を出して記者会見を開く。届いたのは憎悪の言葉だった。部屋に盗聴器がないかを調べ、ロンドンへ移り、手記『ブラックボックス』を書き、山口を相手取って民事訴訟を起こす。

伊藤は記者として自分の事件を追う。逮捕を止めたとみる警察幹部を待ち伏せする。協力的な匿名の捜査員との通話を録音する。その捜査員は逮捕が止められたことを認める一方、酒に酔って彼女を口説きもする。ホテルに連れ込まれる彼女を見ていたドアマンが法廷での証言を引き受けてくれたとき、伊藤は泣く。ビデオ日記で彼女は、決して自ら命を絶たないと誓う。だが後に、どん底で両親に謝り、命を絶とうとする。次の映像は病院のベッドからのものだ。

2019年12月、東京地裁は伊藤の訴えを認める。最後に手書きの文字が語る。ドアマンは職を失わなかった。逮捕を止めた中村格は、のちに警察庁長官になった。そして安倍元首相が銃撃されたその日、最高裁は彼女の勝訴を確定させた。薬を盛られたと根拠なく書いたとして、伊藤にも55万円の支払いが命じられたことに、映画は触れない。ラストシーンで伊藤は、冒頭と同じトンネルを車で抜けながら「恋のサバイバル」を歌う。その顔は、喜びからゆっくりと悲しみへ移っていく。

主な出演

  • 伊藤詩織本人

    自らの性被害事件を取材し、監督も務めるジャーナリスト。日記、通話、裁判の日々を10年近く記録する。

この作品が問いかけるもの

この映画が突きつけるのは、同意の有無がほとんど問われない法の下で、性被害を訴える女性が信じてもらうには何が要るのか、という問いだ。2015年当時、強姦罪が成り立つには暴行や脅迫の立証が必要だった。2023年、法は同意のなさを軸に書き改められる。映画は、権力に近い男を実名で告発することの代償を数えていく。憎悪の言葉、見張られている恐怖、沈黙を願う家族、壊れていく体。正義が刑事やドアマンの良心にどれほど左右されるかも映す。日本人監督として初めて、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞の候補になった。国内では元代理人らが、裁判のためだけに提供された映像の使用や同意のない録音を問題にし、日本公開は修正版で2025年12月までずれ込んだ。被害者は自分の物語をどこまで語ってよいのか。その問いも残る。