ぼくは麻理のなか
Inside Mari
ストーリー
結末まで書いています。
引きこもりの大学生が、女子高生の身体の中で目覚めたらしい。誰が誰を見つめていたのかをめぐるミステリー。
上京して大学に入った小森功は、友だちをひとりも作れず、やがて授業にも出なくなった。ゲームと仕送りで暮らす彼の唯一の楽しみは、毎晩コンビニで見かける女子高生で、ひそかに「コンビニの天使」と呼んでいる。ある夜、功は彼女のあとをつける。彼女は立ち止まって振り返り、功に微笑みかけ、そこで功の記憶は途切れる。目を覚ますと、そこは彼女の部屋で、功は彼女の体の中にいた。人気者の女子高生、吉崎麻理として。
麻理として過ごし始めた功は、麻理を遠くから崇拝していた孤独なクラスメイト、柿口依にすぐ見抜かれ、ふたりは本物の麻理を探し始める。手がかりは奇妙だった。麻理の部屋からは、功が古書店に売ったはずの雑誌が見つかり、依は、麻理のほうが功を観察していた証拠を見つける。ところがアパートにいる小森功は元のままの小森功で、麻理のことなど知らないと言う。そのあいだにも麻理の生活は乱れていく。功は麻理の友人たちと遊び歩き、グループの男子に無理やりキスをされ、両親は娘の不登校をめぐって言い争う。麻理を名乗る人物から電話がかかってくるが、それは麻理に会いたい本物の小森が声を加工してかけていたものだった。ある夜、功は麻理の体のまま本物の小森のもとを訪ね、ふたりのあいだで性的な接触が起きる。成人男性と女子高生のあいだのことであり、未成年への性的虐待にあたる。そのあと小森に交際を申し込まれた功は、彼を気持ち悪いと感じる。
幼いころの写真と、祖母が「ふみこ」と呼ぶ声の記憶をたどって、功と依は遊園地へ向かう。そこで功は、麻理がもとは祖母のつけた「ふみこ」という名で、祖母の死後に母親が改名したことを思い出し、倒れる。麻理の体は、目を開けたまま空っぽになる。麻理の母は依に、娘は改名を喜んでいたと言い張る。最終回、ふたたび功が戻った麻理は、依とともに、実家に帰った本物の小森を訪ね、彼の日記を読む。そこにあるものはどれも、麻理の中の功にとって初めて見るものばかりで、かわりに、小森の部屋でその日記を盗み読んだ麻理自身の記憶がよみがえる。麻理の中の功は、はじめから小森ではなかった。孤独な青年を見つめ、憧れた麻理が、自分の中に作り出した人格だったのだ。功は幼い「ふみこ」とともに消え、麻理は自分自身を取り戻す。そして依に、友だちになってくれる?と尋ねる。
主な出演
池田エライザ吉崎麻理役
功が目覚めた体の持ち主である、人気者の女子高生。家庭では誰にも本当の自分を見てもらえず、深い孤独を抱えている。
吉崎麻理の物語
麻理は、小森が「コンビニの天使」と呼ぶ女子高生だが、物語の大半、自分の人生から姿を消している。別の誰かが彼女として暮らし、友人たちと遊び歩き、学校を休み、両親は娘と話さず、娘のことで言い争う。見ていたのは、実は麻理のほうだった。祖母が「ふみこ」と名付け、祖母の死後に母が改名したという記憶がよみがえると、麻理は目を開けたまま誰にも応えなくなる。母は依に、娘は改名を喜んでいたと言い張る。実家に帰った本物の小森を訪ねたとき、麻理は、彼の部屋で日記を盗み読んだ記憶を取り戻す。彼女の中の青年は、小森を見つめるうちに彼女が作り出した人格だった。彼は幼い「ふみこ」とともに消え、自分を取り戻した麻理は、依に、友だちになってくれる?と尋ねる。
吉沢亮小森功役
友だちができず大学に行かなくなった青年。そして、麻理の中で目覚めたかに見える男。
小森功の物語
小森の唯一の楽しみは、毎晩コンビニで見かける女子高生だ。ある夜あとをつけると、彼女は微笑み、目覚めた彼は麻理になっていた。すぐに依に見抜かれ、ふたりで本物の麻理を探すが、アパートの小森功は麻理を知らないと言う。麻理の姿のまま本物の小森を訪ね、ふたりのあいだで性的な接触が起きる。成人男性と女子高生のことであり、未成年への性的虐待にあたる。小森に交際を申し込まれると嫌悪を覚え、麻理を名乗る電話の主が小森だったと知ると、彼を殴る。「ふみこ」という名をたどって倒れ、しばらく姿を消す。麻理の中に戻って本物の小森の日記を読むと、何ひとつ覚えがない。彼ははじめから小森ではなく、麻理が作り出した誰かだった。彼は幼い「ふみこ」とともに消えていく。
中村ゆりか柿口依役
麻理に憧れてきた孤独なクラスメイト。麻理の中身が別人だと見抜き、本物の麻理を一緒に探す。
柿口依の物語
依は、教室の遠くから麻理を崇め、一度も話しかけたことがなかった。麻理の中身が別人だとすぐに見抜き、その誰かと一緒に本物の麻理を探し始める。彼が捜索をそっちのけで麻理の友人たちと遊べば怒り、自分の姉と出会ったと知れば機嫌を損ね、本物の小森とのことを知ると、汚いと罵る。麻理はまだ中にいると信じるようになると、距離を縮めていく。遊園地のあと麻理が空っぽになると、依は麻理の母を訪ね、麻理がかつて「ふみこ」だったことを聞き出す。一瞬だけ目を覚ました麻理は、小森くんと仲良くね、と依に告げる。最後に、自分を取り戻した麻理に、友だちになってくれる?と尋ねられ、ふたりはかけがえのない友だちになる。
西田尚美吉崎絵里子役
麻理の母。祖母の死後に娘の名前を変え、何も問題はないと言い張る。
この作品が問いかけるもの
『ぼくは麻理のなか』は、少女を見つめる男の物語として始まり、誰にも本当には見てもらえなかった少女の物語として終わる。物語の大半は功のまなざしに寄り添い、そのまなざしは十代の少女の体の中にまで入り込む。それがこの作品のいちばん居心地の悪い選択だ。結末は前提そのものを裏返す。見つめていたのは麻理のほうで、彼女の中の青年は、自分自身でいることから逃れるために彼女が作り上げた誰かだった。作品が差し出す問題は重い。設定が寄りかかる女子高生への執着。娘の名前を変え、目の前の子どもを見ようとしなかった母親。家族の中を生き延びる手段としての解離。どんでん返しは中盤の意味を説明するが、その居心地の悪さを消しはしない。残るのは、ようやく自分の声で口にされる麻理の最後の問いだ。友だちになってくれる?