きれいのくに
The Land of Beauty
ストーリー
結末まで書いています。
大人の多くが同じ二つの顔を買い、美容整形が禁じられた近未来。その顔に囲まれて育つ高校生を通して、個性の代償を問う。
美容師の恵理と税理士の宏之は、どちらも再婚で、結婚して十年になる。優雅な暮らしに見えるが、ふたりはもう体を重ねておらず、恵理は夫に裸を見られたくない。誕生日の翌朝、宏之が目を覚ますと、隣には十年前の姿の恵理がいた。恵理はさらに若返っていく。出会ったころの彼女へ、そして夫の知らない二十三歳へ。駆け出しの美容師だったそのころ、恵理は恋人に中絶を迫られていた。若返った恵理に夫の部下は言い寄り、宏之は欲望を覚えながら彼女に触れられない。恵理は夫に、そして「男の側」の世界に怒りをぶつける。そしてこの物語は、高校の授業で見せられる仮想現実の啓発映画だったとわかる。
この国では、二十代から五十代の大人およそ六千百万人のうち約四千九百万人が、流行の顔に整形した。男は稲垣吾郎の顔、女は加藤ローサの顔だ。健康被害や同じ顔による犯罪が相次ぎ、美容整形は十年前に禁止された。その顔に囲まれて、五人の幼なじみが育っている。中山は、両親が生まれる前に遺伝子を操作したため、大人たちと同じ顔をしている。れいらはパパ活と呼ばれる大人の男とのデートを重ねていた。それは女子高生を食い物にする搾取であり、ついに彼女は客のひとりにカラオケ店で性暴力を受ける。それ以来、街じゅうにあるその顔を、中山の顔さえも、見るだけで吐き気がする。貴志はれいらを想い、断られる。隣に住む誠也と凜は惹かれ合いながら、言い出せずにいる。小学生のころからブスと言われてきた凜は違法な整形に惹かれ、自分もパパ活を始めるが、最初に会った整形していない警察官は、彼女を「きれいのくに」という、整形していない人たちが集う店に連れて行く。凜は手術を決め、そして思いとどまる。
最終回、誠也は凜をもう一度誘い、遊園地で過ごした帰りに「好きかも」と打ち明けて、ふたりは恋人になる。れいらは中山に「リハビリ」につき合ってほしいと頼み、襲われたカラオケの部屋で、あの男が歌っていた歌を歌う。中山は一緒に泣く。凜は、やはり整形を受けると誠也に告げる。誠也は顔を好きになったわけじゃないと言い、病院に付き添う。変化はほんのわずかで、誰も気づかない。誠也だけが気づく。違法な整形への注意を呼びかける放送が流れる街を、晴れやかな凜と、どこか複雑な顔の誠也が歩いていく。
主な出演
吉田羊橋本恵理/小野田唯役
啓発映画のなかで若返っていく妻・恵理と、その役を演じた、整形をしない女優の小野田。
橋本恵理/小野田唯の物語
恵理は四十代。宏之との再婚から十年がたち、ふたりはもう体を重ねておらず、彼女は夫に裸を見られたくない。誕生日の翌朝から、夫の目に映る恵理は、出会ったころの姿へ、さらに若い姿へと変わっていく。二十三歳の駆け出しの美容師だったころ、彼女はのちに最初の夫となる健司に中絶を迫られた。若返った恵理に夫の部下の根木は言い寄り、宏之は欲望を覚えながら彼女に触れられない。恵理はその夫に、そして男の側の世界に怒りをぶつける。夫の目に二十三歳の彼女が映るころ、結婚は壊れている。最後のインタビューで、夫は無意識に若さとかわいさを求めていたと恵理は言い、宏之も口ごもりながら認める。そして、それが高校の授業で上映された映画だったとわかる。
稲垣吾郎男役
父親、教師、映画監督、れいらを襲う客まで、大人の男たちがまとう流行の顔。
青木柚誠也役
隣に住む凜を想う高校生。見た目を気にしていると思われるのを嫌う。
誠也の物語
誠也はいつも坊主頭で、見た目を気にしていると思われるのを何より嫌う。隣に住む幼なじみの凜を想いながら、言い出せずにいる。客に襲われたれいらを気づかい、凜とのデートを断って彼女のそばにいるが、ふたりでいるところを凜に見られてしまう。凜がパパ活を始めたと知って動揺する。貴志がれいらに告白したことに背中を押され、凜をもう一度誘い、遊園地の帰りに「好きかも」と伝えて、ふたりは恋人になる。やはり違法な整形を受けると打ち明けた凜に、顔が変わっても嫌いにならないと言い、手術に付き添う。変化はほんのわずかで、気づくのは彼だけだ。晴れやかな凜の隣を、誠也はどこか複雑な顔で歩いていく。
見上愛凜役
誠也の隣に住む高校生。幼いころからブスと言われ、違法な整形に惹かれていく。
凜の物語
凜は、好きな人が好きな顔だったらいいのにと思っている。誠也がれいらとふたりでいるのを見て傷つき、大人の男とのパパ活を始める。れいらがすでに受けてきた搾取だ。最初の客は整形していない刑事で、彼女を「きれいのくに」という、整形していない人たちが集まる店へ連れて行く。そこで違法な手術のことを知る。映画館で、整形をしなかった女優の小野田に自分の顔が好きかと尋ね、私のままが好きかもしれないという答えを聞く。凜は手術を決め、そして思いとどまる。誠也と恋人になったあと、整形は自分の問題だと考え、彼に付き添われて手術を受ける。変化はほんのわずかで、誠也のほかは誰も気づかない。凜は晴れやかな顔で街を歩く。
岡本夏美れいら役
五人の幼なじみのひとり。大人の男とのパパ活で食い物にされ、客に襲われる。
れいらの物語
れいらは、大人たちの同じ顔に囲まれて育った五人の幼なじみのひとり。大人の男とのパパ活を続けていた。それは女子高生を食い物にする搾取であり、ある日カラオケ店で、大人の男たちと同じ顔をした客に性暴力を受け、逃げようとして殴られる。それ以来、街じゅうにあるその顔を見るだけで吐き気がする。生まれる前の遺伝子操作で同じ顔になった中山の顔も例外ではない。れいらは中山を避け、やがてその理由を打ち明ける。想いを告げてきた貴志は断る。最終回、れいらは中山に「リハビリ」につき合ってほしいと頼み、襲われたカラオケの部屋で、あの男が歌っていた歌を歌う。中山は隣で一緒に泣く。
平原テツ橋本宏之役
劇中の啓発映画に登場する恵理の夫で税理士。望んでいた若い妻に、触れることができない。
この作品が問いかけるもの
『きれいのくに』は、ルッキズムを行き着くところまで進めた国を思い描く。大人の多くが同じ二つの顔を買い、国はその後、整形そのものを禁じた。その世界を受け継いだ高校生たちには、自分の顔と、その顔への迷いだけが残される。脚本の劇作家・加藤拓也は、根底にあるのは「好きな人の好きな顔になりたい」という感情だと語っている。作品は容姿を、虚栄の問題であると同時に力の問題として扱う。若さを求める夫の前で年を重ねる妻。街じゅうにある顔の男に襲われた少女。生まれる前から大人たちの顔にされた少年。稲垣吾郎の顔を視覚効果で大勢の大人に重ねるという奇妙な手法を使いながら、説教はしない。凜の整形はささやかで、選んだのは彼女自身だ。それが彼女を自由にしたのか、悩みの置き場所を移しただけなのかは、答えのないまま残される。