獣になれない私たち
Weakest Beast
ストーリー
結末まで書いています。
仕事でも恋でもノーと言えない女と、決められない男。“いい人”でいる疲労。
深海晶は30歳。東京の小さな通販サイト制作会社で営業アシスタントとして働き、明るい笑顔を誰からも褒められている。だが実際には、辞めた営業部長と社長秘書の仕事まで肩代わりし、営業担当のミスの尻ぬぐいに走り回り、ワンマン社長・九十九剣児の理不尽な叱責を一身に受けている。母親とは縁を切っている。高校のときに交通事故で死ぬまで、父は母と晶に暴力をふるい、その後、母はマルチ商法にのめり込んで家計を壊した。交際4年になる恋人の花井京谷は大手デベロッパーの社員で、一緒に暮らそうと約束してくれたが、彼の部屋にはいまも、無職で引きこもった元恋人の朱里が居座っている。
行きつけのクラフトビールバー「ファイブタップ」で、晶は会計士の根元恒星と知り合う。恋人だと思っていたデザイナーの呉羽が、別の男と結婚したと知らされたばかりの男だ。恒星は晶の笑顔を嘘くさいと言う。取引先からのハラスメントに打ちのめされ、笑顔も作れなくなった夜、ふたりは初めてまともに言葉を交わす。バカになれたら楽なのにね、という恒星の一言に押され、晶は迫力ある服に身を包んで出社し、社長に業務の改善を突きつける。与えられたのは新しい肩書きと、変わらない仕事量だった。
もつれは深まっていく。呉羽は晶に京谷を見限らせようと京谷と一夜を過ごし、それを晶に告げる。恒星は兄の借金を返すため、取引先の粉飾決算の税務申告に手を貸している。京谷の母は、寝たきりの夫を家で介護することにこだわり続ける。京谷はついに部屋を朱里に譲るが、晶は、京谷にしがみつくことは自分の人生を投げ捨てることだったと気づき、それを告げて別れる。晶の会社に入った朱里は、社長に追い立てられて大きなミスを犯し、姿を消す。お前ひとり辞めても会社はどうとでもなると社長に言われた夜、弱りきった晶と恒星は一夜をともにし、翌日ふたりとも後悔する。
最終回、晶は社長に、一方通行の関係は悲しいと告げて退職届を出し、同僚たちに見送られて会社を去る。京谷の復縁の申し出もはっきり断る。恒星は税務署に粉飾を告発し、事務所をたたんで姿を消す。マスコミに追われた呉羽は夫とシドニーへ発ち、朱里はラーメン屋で働いている。「ファイブタップ」の周年記念パーティーの日、恒星に呼び出された晶は、那須のビール工場で、一年前に飲みそびれたビールを彼と飲み、近くの教会へ鐘を聞きに行く。鐘は鳴らない。晶は恒星の手を握り、恒星もその手を握り返す。
主な出演
新垣結衣深海晶役
有能で、頼まれれば断れない営業アシスタント。仕事でも恋でも笑顔でやり過ごしてきたが、限界を迎える。
深海晶の物語
晶は職場で三人分の仕事をこなし、家では、一緒に暮らそうという京谷の4年前の約束を待ち続けている。取引先のハラスメントで笑顔も作れなくなった夜、恒星の一言に押されて迫力ある服で出社し、社長に業務の改善を迫るが、得たのは新しい肩書きと変わらない仕事量だった。呉羽は京谷と一夜を過ごし、それを晶に告げる。京谷が部屋を朱里に譲ったとき、晶は、彼にしがみつくことは自分の人生を投げ捨てることだったと気づき、そう告げて別れる。お前が辞めても会社はどうとでもなると九十九に言われた夜、恒星と一夜をともにし、ふたりとも後悔する。やがて同僚たちに見送られて会社を辞める。ファイブタップの周年の日、恒星に呼ばれて那須へ行き、鐘の鳴らない教会で彼の手を握る。
松田龍平根元恒星役
晶の行きつけのバーで知り合う毒舌の会計士。呉羽に去られ、兄の借金のために不正な税務申告に手を染めている。
根元恒星の物語
恒星は晶の笑顔を嘘くさいと言い放つが、笑顔も作れなくなった夜に初めてまともに言葉を交わし、バカになれたら楽なのにね、という一言で彼女を立ち上がらせる。兄の借金を返すため、取引先の粉飾決算の税務申告に手を貸し続け、土下座してまで断ろうとしても、脅されて逃れられない。京谷には、晶と寝たと嘘をつく。呉羽が子どもを産めない体になったことを、自分なら深刻に受け止めないだろうと思って隠していたと知り、本当に彼女を好きだったと思い知る。ふたりとも弱りきった夜に晶と一夜をともにし、翌日そろって後悔する。やがて税務署に粉飾を告発し、事務所をたたんで街を離れる。ファイブタップの周年の日、晶を那須のビール工場に呼び、彼女が手を握ると、その手を握り返す。
田中圭花井京谷役
晶の交際4年の恋人で、デベロッパー勤務。元恋人を自分の部屋から追い出すことができない。
花井京谷の物語
京谷は、派遣社員として自分の部署にいた晶と親しくなり、4年前、自分の分譲マンションで一緒に暮らそうと約束した。だがその部屋には、仕事を辞めたときに自分が同居に誘った元恋人の朱里がいまも居座り、一度は追い出そうとして失敗する。呉羽に誘われて一夜を過ごし、それを晶に知られる。恒星からは晶と寝たと言われ、激しく怒る。実家では母が、寝たきりの父を自宅で介護すると言って譲らない。ついに部屋を朱里に譲り、晶と暮らす部屋を探し始めるが、晶は、あなたにしがみつくことは自分の人生を投げ捨てることだったと告げて去る。その数日後、父は自宅で息を引き取る。晶に復縁を求めて断られた京谷は、彼女の幸せを願い、自分も新しい恋を探そうと心に決める。
黒木華長門朱里役
京谷の元恋人。仕事を辞めて引きこもり、4年間彼の部屋に居座り続けている。
菊地凛子橘呉羽役
奔放なデザイナー兼モデルで、恒星の元恋人。結婚したばかりで、お節介から事態をこじらせる。
山内圭哉九十九剣児役
晶の会社の社長。頭の回転が速く威圧的で、晶に仕事を押しつけ、不満には肩書きで応える。
この作品が問いかけるもの
『獣になれない私たち』は、「いい人」でいることの代価を描く。晶は、誰の穴でも埋める同僚であり、4年間文句も言わずに待つ恋人であり、取引先のハラスメントにも笑顔でやり過ごす女性だ。作品はその善良さを、職場も恋人も喜んで受け取る自己消去として見つめる。描かれる問題はありふれていて、構造的だ。不満に肩書きで応える社長のパワハラ。どの職務記述書にも書かれない感情労働。誰にも「ノー」と言えない男のせいで止まったままの関係。題名がすべてを言っている。彼らは獣になれない。欲しいものをただ奪うことができない。ドラマはそれを、治すべき欠点のようには扱わない。結末には結婚も約束もない。あるのは、会社を辞め、恋人と別れ、自分の意思で誰かの手を取る女性の姿だけだ。人生をどれだけ差し出せば、もうやめていいと言えるのか。その問いが残る。