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Cinema 月明かりの映画館

PERFECT DAYS

Perfect Days

2023映画日本、ドイツ

465作品の星図のなかで見る

Moonlightの読みもの

Cinema『PERFECT DAYS』と、静かな生活は孤独なのか自由なのかこの一篇を読む

ストーリー

結末まで書いています。

東京の公衆トイレ清掃員の日々、カセットテープ、木漏れ日。孤独ではない“ひとり”。

平山は渋谷の公共トイレを清掃する仕事をしている。住まいは隅田川の東側の小さなアパートで、ひとりで暮らす。毎日は夜明けに同じように始まる。植物の世話をし、古いカセットテープを聴きながら車で仕事へ向かい、誰にも求められないほど丁寧にトイレを磨く。昼は神社の木陰でサンドイッチを食べ、葉のあいだから射す木漏れ日をフィルムカメラで撮る。夜は文庫本を読みながら眠りに落ち、夢はちらつく白黒の像で現れる。

若い同僚のタカシは遅刻が多く、騒がしく、いつも金がない。ガールズバーで働くアヤに夢中だ。タカシは平山の車を借り、彼を説き伏せてカセットの値段を査定させ、やがて何も告げずに辞めてしまう。平山はタカシの分まで働く。タカシがこっそりバッグに入れたテープを返しに来たアヤは、最後にもう一度車の中で聴かせてほしいと頼み、平山の頬に口づけをする。あるトイレで平山は、折りたたまれた紙に書かれたマルバツゲームを見つけ、見知らぬ誰かと何週間もやりとりを続ける。

ある日、姪のニコが突然訪ねてくる。疎遠になっている裕福な妹ケイコのもとから家出してきたのだ。二日間、ニコは平山の仕事についてまわり、ふたりで木を撮り、並んで自転車を走らせる。やがてケイコが運転手付きの車で娘を迎えに来る。父の認知症が進んでいる、施設に会いに行ってくれないか、と言う。平山は行かない。それでも別れ際に妹を抱きしめる。本当にトイレ掃除をしているのかと問われ、平山はそうだと答える。車が去ったあと、彼は泣き崩れる。

のちに、休日に通う小さな店で、平山は店のママが男と抱き合うのを見てしまう。ハイボールを買って川べりで飲んでいると、その男がたばこをもらいに来る。ママの元夫で、がんを患い、和解しに来たのだという。彼女のことを頼むと言う男に、平山は酒をすすめ、影踏みをしようと誘う。翌朝、平山はまた車で仕事に向かう。テープからはニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」が流れ、その顔を喜びと悲しみが同時に通り過ぎていく。

主な出演

  • 役所広司平山役

    東京の公共トイレの清掃員。仕事と音楽と本と木々からなる、静かで正確な日々を生きている。

    平山の物語

    平山は多くを語らず、多くを求めない。夜明け、植物の世話、缶コーヒー、誰にも求められないほど丁寧に磨く渋谷のトイレ。タカシの遊ぶ金のためにカセットを売ろうとはせず、財布から金を渡し、あとでガソリン代のために一本を手放す。アヤに頬へ口づけされ、うろたえる。姪のニコを迎えに来た妹には、父に会いに行くことを拒みながら別れ際に抱きしめ、本当にトイレ掃除をしているのかと問われてそうだと答え、車が去ると泣き崩れる。川べりで、がんを患う男に影は重なると濃くなるだろうかと問われると、濃くなっていると言い張り、なんにも変わらないなんてそんな馬鹿な話はない、と言う。翌朝、また仕事へ向かう彼の顔を、喜びと悲しみが同時に通り過ぎていく。

  • 柄本時生タカシ役

    平山の若い同僚。遅刻が多く、騒がしく、いつも金がない。アヤに夢中で、突然仕事を辞める。

  • 中野有紗ニコ役

    平山の姪。裕福な母のもとから家出してきて、二日間、平山のそばで過ごす。

    ニコの物語

    ニコは母のケイコと喧嘩をして家を飛び出し、ある晩、伯父の平山のアパートで彼の帰りを待っている。平山は彼女を泊め、翌朝そっと仕事に出ようとするが、ニコはついてきて清掃を手伝う。二日間、彼女は平山の日課をともにし、公園で一緒に木を撮る。家族のことを尋ねる彼女の問いが、平山の語らない過去にふれる。自転車で橋を渡りながら、このまま海まで行きたいと言うと、平山は今度ね、と答え、ふたりは、今度は今度、今は今、と声をかけ合って走る。二晩が過ぎ、運転手つきの車で母が迎えに来て、ニコは家へ帰っていく。

  • アオイヤマダアヤ役

    ガールズバーで働く若い女性。タカシが思いを寄せる相手で、持ち出されたテープを平山に返しに来る。

  • 麻生祐未ケイコ役

    疎遠になっている平山の裕福な妹。娘を迎えに来て、父に会いに行ってほしいと兄に頼む。

  • 三浦友和友山役

    行きつけの店のママの元夫。がんを患い、川べりで平山と酒を飲み、影踏みをする。

この作品が問いかけるもの

トイレ清掃員の日々を追うこの映画が問うのは、小さく繰り返される暮らしが満ち足りた人生でありうるのか、ということだ。映画は平山の仕事に彼自身と同じ丁寧さを注ぎ、そこに尊厳と、生きるに値する人生についての主張を込める。同時にその抑制は、ひとつの過去を画面のすぐ外に隠している。裕福な妹、会いに行かない父、車が去ったあとの涙。この静けさには、低賃金の労働を美化し、日本の労働の実態から目をそらしているという批判も、海外の批評や東京大学の教授から寄せられた。ヴィム・ヴェンダースが渋谷の公共トイレの改修事業を見に招かれたことから生まれた作品で、役所広司は2023年のカンヌ国際映画祭で男優賞を受けた。最後のショットの顔に、問いが残る。選び取り、大切に守ってきた孤独は安らぎなのか、一日ずつやり過ごしてきた悲しみなのか。