バッカス・レディ
The Bacchus Lady
ストーリー
結末まで書いています。
65歳の女性がソウルの公園で老人相手に身体を売り、やがて“最後の頼み”を託される。
ソヨンは、ソウル中心部の宗廟公園で年老いた男たちに体を売る老女だ。ほかの女たちと同じく、栄養ドリンクのバッカスを差し出すのが合図で、男たちはそれで意味を悟る。性病の治療に通う診療所で、フィリピン人の女性が医師に襲いかかり、警察に連れていかれる。医師は、彼女と息子を捨てた既婚の男だった。ソヨンは残された少年ミノを家に連れ帰り、役所からかくまう。家は古びた長屋の間借り部屋だ。大家のティナはラウンジで歌うトランスジェンダーの女性で、隣には義足の青年ドフンが職もなく暮らしている。三人で少年の面倒を見る。
やがて、昔の客たちがソヨンに別の頼みごとをし始める。久しぶりに再会した昔の客ジェウが、ほかの客たちの近況を伝える。かつて羽振りのよかったなじみ客のソンは、病院のベッドで身動きもできず、こんなのは生きているとは言えないと嘆く。ソヨンは彼の死を手助けする。身寄りがなく、記憶を失いつつあるジェウの友人チョンスも、同じことを頼む。そしてジェウ自身も、若くして息子を亡くし、ちょうど五年前の同じ日に妻にも先立たれた男で、ひとりで死にたくないと言う。彼はホテルの部屋で、ソヨンがそばにいるなかで自ら命を絶ち、朝になってソヨンはその亡骸に泣く。ジェウは彼女にお金を残していた。ソヨンはその大半を寺に納め、少しだけを使ってティナとドフンとミノを連れて出かける。ソヨンがかつて米兵相手に働き、米兵とのあいだにできた息子を養子に出していたことも明かされる。
ホテルを出る姿が防犯カメラに映っていて、ソヨンは逮捕される。彼女は弁明しない。刑務所なら少なくとも一日三度の食事がある。老人ホームに入るお金など、彼女にはなかった。ミノの母親はまもなく釈放され、ミノはフィリピンへ帰ることになる。ソヨンは刑務所の中で、ひとりで死ぬ。遺品の箱には、家族も友人もいないと記されていた。
主な出演
ユン・ヨジョンソヨン役
ソウルの公園で老人相手に体を売る女性。置き去りにされた少年を引き取り、昔の客たちから死への手助けを頼まれる。
ソヨンの物語
ソヨンは65歳。今も宗廟公園で体を売り、栄養ドリンクのバッカスがその合図だ。フィリピン人の女性が自分を捨てた医師に襲いかかると、残された幼い息子を連れ帰り、ティナやドフンとともにかくまう。やがて昔の客たちが、別の頼みごとを持ちかけてくる。羽振りのよかったなじみ客ソンは寝たきりになり、こんなのは生きているとは言えないと嘆き、彼女は彼の死を手助けする。身寄りがなく記憶を失いつつあるチョンスも同じことを頼む。ひとりで死にたくないというジェウが、ホテルの一室で自ら命を絶つあいだ、そばに寄り添う。警察が来ても弁明はしない。刑務所なら三度の食事がある。彼女はそこでひとり死に、遺品の箱には家族も友人もいないと記される。
チョン・ムソンジェウ役
ソヨンの昔の客で、妻を亡くした紳士。なじみ客たちの近況を伝え、やがて自ら命を絶つときにそばにいてほしいと頼む。
ジェウの物語
ジェウは物腰のやわらかな老紳士で、ソヨンの昔の客のひとりだ。再会した彼は、ふたりの知る男たちの近況を伝える。寝たきりになったソン、そして記憶を失いつつある自分の友人チョンス。その穏やかな物腰の裏に、彼は長年のうつを隠している。若くして息子を亡くし、ちょうど五年前の同じ日に妻にも先立たれた。ソヨンがふたりの死を手助けしたあと、彼もまた頼みごとをする。ひとりで死にたくないのだと。ソウルを見下ろすホテルの一室で、ソヨンがそばにいるなか、彼は自ら命を絶つ。朝になってソヨンは亡骸に泣く。彼は彼女にお金を残していた。ホテルを出る彼女の姿を映した防犯カメラが、警察を彼女のもとへ導く。
ユン・ゲサンドフン役
ソヨンの隣人で、義足の青年。職はなく、ミノの世話を手伝う。
アン・アジュティナ役
ソヨンの大家で、ラウンジで歌うトランスジェンダーの女性。ミノの世話を分け合う。
チェ・ヒョンジュンミノ役
診療所で母親が逮捕されたフィリピン系の男の子。ソヨンに引き取られ、かくまわれる。
この作品が問いかけるもの
『バッカス・レディ』が描くのは、急速に豊かになった国に取り残された人々だ。主人公は、自分と同じように年老いて貧しい男たちに体を売り、映画はその仕事を暮らしの糧として淡々と映す。彼女のまわりには、社会に居場所のない人たちが集まる。トランスジェンダーの女性、障害のある青年、母親が拘置された子ども。昔の客たちに死の手助けを頼まれるところから、映画は老いの孤独と自殺幇助へ踏み込む。イ・ジェヨン監督は、韓国ではあまり語られない問題だと述べ、子が親を養う伝統はほぼ消え、多くの高齢者がひどく貧しいとも語っている。米兵相手に働き、子を手放したソヨンの過去は、この国が忘れたがる歴史だ。彼女は刑務所で、遺品を引き取る人もなく死ぬ。人のためにしてきたことを、誰が彼女のためにするのか。映画はそれを問う。