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Cinema 月明かりの映画館

彼女

Ride or Die

2021映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

同級生の暴力的な夫を殺した女と、その彼女の逃避行。欲望と負い目と救済が絡み合う。

裕福な家に育った永澤レイは美容整形外科医として働き、恋人の美夏がいる。だが、同性愛者であることを家族には言えずにいる。美夏の誕生日を祝う夜、十年会っていなかった篠田七恵から電話がかかってくる。高校時代、レイが想いを寄せていた同級生だ。ホテルの部屋で服を脱いだ七恵の体は、あざに覆われていた。父に続いて、夫が彼女を殴っている。夫が死ぬか、自分が死ぬか。七恵がそう言うと、レイは夫が死ぬべきだと即答する。だったら殺してくれる、と七恵は言う。翌晩、レイはバーで七恵の夫を見つけて酒をおごり、彼の部屋までついて行って刺し殺す。

自分のために人を殺したレイに、七恵は嫌悪と恐れを覚えながら、それでも車で彼女を追いかけ、ふたりの逃避行が始まる。植物状態で入院する父のもとを訪ねた七恵は、枕元に婚約指輪を置いていく。貧しかった実家では、裕福だったレイが、七恵が高校を続けられるよう三百万円を貸したことが思い出される。警官から逃げ、行きずりの男に駅まで送ってもらい、レイは黙って出てきた美夏に最後の電話をかける。美夏は、さよならとだけ言う。七恵は冷たく突き放したかと思えばすがりつき、レイはそのすべてを受け止める。

ふたりは森の中にある永澤家の別荘に身を寄せるが、報道を見た兄の将人と妻の悠がやってきて、自首を勧める。七恵は、あのときレイを車に乗せたのは同情にすぎなかったと言い放つ。けれどレイは、十年前に割り勘で別れた昼食のレシートと五百五十円を、七恵がずっと持っていたことを知る。すべてを悟ったレイは七恵を連れて別荘を抜け出し、兄の車でふたたび逃げる。海辺の小屋でふたりは最後の時間を過ごし、体を重ねる。やがてレイは公衆電話から警察に通報する。駆けつけた警官に取り押さえられながら、七恵は、待ってるから、と叫ぶ。レイは静かにほほえむ。その笑顔が、高校の美術の授業で互いに描き合った似顔絵に重なる。

主な出演

  • 水原希子永澤レイ役

    裕福な家に育った美容整形外科医。同性愛者であることを家族に言えず、高校時代に想った女性のために人を殺す。

    永澤レイの物語

    高校時代、レイは陸上部の七恵にひそかに想いを寄せていた。貧しい七恵がシューズを万引きして退学を迫られたとき、残りの高校生活を買うと言って三百万円を貸す。十年会っていなかったその七恵から、恋人の美夏の誕生日の夜に電話がかかってくる。あざだらけの体を見たレイは、夫が死ぬべきだと即答し、翌晩、夫を刺し殺す。逃避行のあいだ、突き放されてもすがられても、七恵のすべてを受け止める。別荘で兄と話し、自分には帰る場所があると気づいて自首を決めるが、七恵が十年間しまっていた五百五十円を見つけて、ふたたび彼女を連れて逃げる。海辺の小屋で最後の時間を過ごしたあと、自ら警察に通報する。連行されるレイに、七恵は待ってるからと叫び、レイは静かにほほえむ。

  • さとうほなみ篠田七恵役

    レイの高校の同級生。父に、そして夫に暴力を受け続け、レイに夫を殺してほしいと頼む。

    篠田七恵の物語

    七恵は貧しい家に育ち、高校では陸上部にいた。シューズを万引きして退学を迫られたとき、三百万円を貸してくれたのがレイだった。十年前、結婚した七恵は金を返し、割り勘の昼食のあとで、もう会うことはないと告げた。いま、彼女はレイにあざを見せ、夫を殺してと頼む。レイが本当に殺すと、嫌悪と恐れを覚えながらも車で連れ出す。植物状態の父の枕元に婚約指輪を置き、レイを冷たく突き放してはすがりつく。別荘で自首すると言うレイに激昂し、車に乗せたのは同情だったと吐き捨てる。けれど、あの日の五百五十円を、彼女はずっとしまっていた。海辺の小屋でふたりは体を重ねる。警官に取り押さえられながら、七恵は、待ってるから、とレイに叫ぶ。

  • 真木よう子大江美夏役

    レイの恋人。誕生日の夜、七恵からの電話に応じたレイに置き去りにされる。

  • 田中俊介永澤将人役

    レイの兄。別荘に駆けつけ、ふたりに自首を勧める。

  • 鈴木杏永澤悠役

    将人の妻でレイの義姉。ふたたび逃げようとするふたりの前に立ちはだかる。

  • 新納慎也篠田孝太郎役

    七恵の夫。妻に暴力をふるい、レイに殺される。

この作品が問いかけるもの

『彼女』は殺人の上に築かれた恋の物語であり、そのどちらも単純にはさせない。高校時代から想い続けた女性に頼まれて、レイは男を殺す。救われる側が救う側を利用してもいるとき、救いは愛と呼べるのか。一方がすべてを負っているとき、感謝と負い目と欲望を見分けることはできるのか。映画はその問いを最後まで閉じない。その底にあるのは、物語全体を動かしている家庭内暴力だ。七恵は父に、そして夫に殴られ続け、誰も逃げ道を示さなかった。中村珍の漫画『羣青』を廣木隆一が映画化し、ネットフリックスの2021年の日本発映画の第一弾として配信された。残るのは、ふたり一緒でなければ世界から自由になれず、それもほんの数日しか許されない女性たちの姿だ。