キャロル
Carol
Moonlightの読みもの
Cinema『キャロル』と、「正しい人生」より先に聞こえる視線この一篇を読むストーリー
結末まで書いています。
1952年のニューヨーク。カウンターに残された手袋と、許可の前の眼差し。
1952年、クリスマスを控えたニューヨーク。写真家を志すテレーズ・ベリベットは、フランケンバーグ百貨店で売り子として働いている。そこへ、娘リンディへの人形を探しに、年上の優雅な女性キャロル・エアードがやってくる。テレーズは人形のかわりに鉄道模型を勧める。キャロルは売り場に手袋を置き忘れ、テレーズは伝票の住所へそれを郵送する。キャロルは礼の電話をかけ、テレーズを昼食に誘う。
キャロルは夫ハージとの泥沼の離婚協議のさなかにある。テレーズには、結婚して一緒にフランスへ行きたがる恋人リチャードがいるが、自分の望みがわからない。ニュージャージーのキャロルの家を訪ねた日、ハージが予告なく現れ、リンディをフロリダへ連れていく。彼はテレーズを疑う。キャロルはかつて、親友のアビーと関係を持っていたのだ。やがてハージは裁判所に「道徳条項」の適用を求め、キャロルの同性愛を盾に娘の親権を独占しようとする。キャロルは重圧から逃れようと車の旅に出ることにし、テレーズを誘う。リチャードはテレーズを責め、ふたりは別れる。
大みそかの夜、キャロルとテレーズは初めて口づけを交わし、体を重ねる。翌朝、道中で知り合ったセールスマンのトミーが、ハージに雇われた探偵だったとわかる。キャロルは彼に詰め寄るが、録音テープはすでにハージのもとへ送られていた。シカゴでキャロルは娘のために飛行機で帰り、アビーにテレーズを託して手紙を残す。テレーズが電話をかけても、キャロルは黙って受話器を置く。
テレーズは作品集をまとめ、ニューヨーク・タイムズに職を得る。4月、弁護士たちとの話し合いの席で、キャロルはテープの内容を認め、自分を偽ることを拒む。娘を公の裁判に巻き込まないため、定期的に会えることを条件に親権をハージに譲る。キャロルの手紙に応じて、ふたりはリッツ・タワー・ホテルで再会する。仕事を見つけ、マディソン街に部屋を借りたキャロルは、一緒に暮らそうと誘う。テレーズは断る。今夜はオーク・ルームで食事をしている、気が変わったら来て、とキャロルは告げ、愛していると言い残して去る。その夜、パーティーで誰とも心を通わせられなかったテレーズは、オーク・ルームへ向かう。客席の向こうにキャロルがいる。目が合い、キャロルの顔にゆっくりと笑みが広がる。
主な出演
ケイト・ブランシェットキャロル・エアード役
離婚協議中のニュージャージーの裕福な妻であり母。女性を愛することを、夫に武器として使われる。
キャロル・エアードの物語
キャロルは百貨店で娘リンディへの贈り物を買い、手袋を送り返してくれた売り子テレーズを昼食に誘う。夫ハージが道徳条項を持ち出して単独親権を求めると、車の旅にテレーズを誘い、大みそかの夜にふたりは結ばれる。翌朝、道中のセールスマンが夫の雇った探偵で、録音がすでに送られたと知る。自分のせいだと言うテレーズを慰めたあと、シカゴからひとり飛行機で帰り、テレーズからの電話も切ってしまう。夫の実家で暮らし、心理療法を受けるが、弁護士たちの前では録音の内容を認めて自分を偽ることを拒み、面会を条件に親権を夫に譲る。一緒に暮らそうとテレーズを誘い、断られても愛していると告げる。オーク・ルームに現れたテレーズに、キャロルは微笑む。
ルーニー・マーラテレーズ・ベリベット役
写真家を志す若い売り子。恋に何を望んでいるのか、まだ自分でもわかっていない。
テレーズ・ベリベットの物語
写真家を志すテレーズは百貨店で働き、結婚を望む恋人リチャードとの将来を決めかねている。キャロルの手袋を送り返したことから昼食に誘われ、ニュージャージーの家では彼女の写真を撮り、夫ハージとの言い争いを目にする。車の旅に誘われるとついて行き、キャロルはすぐにきみに飽きると言うリチャードとは別れる。大みそかの夜、ふたりは結ばれる。探偵の録音が夫に送られると、キャロルはシカゴから飛行機で帰り、アビーと手紙だけが残される。電話をかけても、キャロルは受話器を置く。作品集をまとめ、ニューヨーク・タイムズに職を得る。一緒に暮らそうという誘いは断るが、その夜のパーティーで誰とも心を通わせられず、オーク・ルームのキャロルのもとへ歩いていく。
サラ・ポールソンアビー・ゲルハルト役
キャロルの古い親友で、かつての恋人。すべてが危うくなったとき、キャロルが頼れるただひとりの人。
カイル・チャンドラーハージ・エアード役
キャロルの夫。道徳条項を盾に、娘の単独親権を争う。
ジェイク・レイシーリチャード役
テレーズの恋人。彼女と結婚し、フランスへ一緒に連れていきたいと思っている。
コーリー・マイケル・スミストミー役
旅先で知り合う人当たりのいいセールスマン。実はハージに雇われた探偵。
この作品が問いかけるもの
『キャロル』は、法律が登場人物のひとりになっている恋愛映画だ。パトリシア・ハイスミスは1952年、この原作小説を別名で発表した。映画はその時代を離れない。母親が女性を愛したことが、親権争いで不利な証拠になりえたニューヨークである。ハージの持ち出す道徳条項も、録音する探偵も、そうした生を危険にしていた仕組みそのものだ。トッド・ヘインズはふたりの欲望を、視線や手袋、部屋を隔てる距離でほとんど描き切る。あの世界では、見つめることが冒せる危険だったのだ。キャロルが自分を偽るより親権を手放すことを選ぶ場面は、この映画でいちばんつらい瞬間である。2015年のカンヌ国際映画祭で、ルーニー・マーラは女優賞を分け合い、作品はクィア・パルムを受けた。残るのは、正直であることの代償を誰が払わされるのか、という問いだ。