SとX
S&X
ストーリー
結末まで書いています。
セックスセラピスト霜鳥壱人の診察室に届く、誰にも言えない性の悩み。彼自身も秘密を抱える。
霜鳥壱人は精神科医で、小さなクリニックでセックスセラピストとして働いている。同僚にも世間にも笑われがちな仕事だが、彼は患者の声を決して裁かず、治療のためならどこまでも手を尽くす。そして自分自身はセックスを憎んでいる。この仕事を選んだのはそのためだと、彼は自分のセラピスト・加瀬詩音に打ち明ける。そんな霜鳥が、中学の同級生・市之瀬佑美と再会する。かつて灯籠の祭りで会う約束をしながら、彼が行かなかった相手だ。佑美はいまテレビのキャスターになり、清純なイメージに扱う企画まで縛られることに疲れている。
回ごとに患者がやってくる。見知らぬ相手とのセックスをやめられず、しかも快感を得られない妻の奥には、子どもの頃のけがで断念したバレエがあった。夫が彼女の手を好きだと伝えたとき、夫婦は歩み寄る。男友達に押し倒されて以来、二次元の推しに心を向けてきた女子高生は、デートの相手に襲われかけ、「性的同意」を知ったその友達から謝罪を受ける。仮想空間の性に依存する社長は、ヘッドセットの中でようやく妻と語り合う。盗撮で捕まった男は、佑美が取材した被害者の声に触れ、相手にも人生があることを知る。
佑美は霜鳥に想いを告げる。だが体を重ねようとしたとき、霜鳥はフラッシュバックに襲われ、彼女を突き放してしまう。事情を話した彼と、佑美はセックスができないかもしれないことを受け入れて付き合い始める。ふたりの関係は週刊誌に暴かれ、クリニックには野次馬が押し寄せ、患者を装った記者が霜鳥の過去を掘り起こす。記事が出る前に、霜鳥は彼女を守るため別れを告げる。佑美は、実はふたりのカウンセリングを受け持っていた詩音を訪ね、霜鳥と正面から向き合うと決める。
真実が明かされる。祭りの夜、外科医の父は少年だった霜鳥を連れて、母がほかの男といる家へ向かい、息子の見ている前でその男に激しい暴力をふるったのだった。霜鳥は佑美とともに、遷延性意識障害で眠り続ける母を訪ね、ずっと自分を快く思っていなかった豊原教授と出会う。豊原は、父が母の服装や見た目まで支配していたこと、その重圧のなかで母が不倫に向かったことを語る。問題は母の性ではなく、妻を所有しようとした父にあった。霜鳥はそう理解する。佑美に招かれた番組で、彼は自分の過去を語り、セックスは誰かを傷つけるために使われてはならない、ひとりで悩まなくていいと伝える。かつて行けなかった灯籠の祭りで、霜鳥は佑美に、17年止まっていた時計がようやく動き出したと告げ、ふたりは口づけを交わす。
主な出演
中島健人霜鳥壱人役
患者の性の悩みを決して裁かない精神科医でセックスセラピスト。自身はセックスを憎んでいる。
霜鳥壱人の物語
霜鳥は、灯籠の祭りで会う約束をしながら行けなかった同級生・佑美と再会しても、距離を置く。だが二次元の推しを愛する女子高生の相談に乗るうちに、体を重ねなくても心はつながれると考え、佑美に会いに行く。結ばれようとした夜、フラッシュバックに襲われて彼女を突き放すが、その形のまま付き合い始める。週刊誌が過去を掘り起こすと、彼女を守るために別れを告げる。あの祭りの夜、父は母と別の男の密会を突き止め、息子の目の前でその男に襲いかかったのだった。母の眠る施設で、父が母を支配していたことを豊原から聞き、佑美の番組で自分の過去を語る。かつて行けなかった祭りで、止まっていた時計が動き出したと告げ、ふたりは口づけを交わす。
新木優子市之瀬佑美役
霜鳥の中学時代の同級生で、テレビのキャスター。清純なイメージに縛られながら、彼を想い続ける。
市之瀬佑美の物語
佑美は、祭りの夜に来なかった霜鳥と再会し、連絡を絶たれると自分から彼を訪ね、口づけして想いを告げる。体を重ねようとした夜に突き放されると、その痛みを詩音に打ち明ける。詩音が霜鳥の主治医でもあることは知らない。番組では盗撮被害の特集に取り組み、セックスができないかもしれないと承知のうえで霜鳥と付き合い始める。だが週刊誌に交際を暴かれて生放送で矢面に立たされ、霜鳥からは別れを告げられる。詩音の言葉に背中を押されて彼と正面から向き合うと決め、母の療養施設に付き添い、自分の番組に彼を招く。灯籠の祭りの夜、ふたりはようやく口づけを交わす。
山口紗弥加加瀬詩音役
婦人科医で医学博士。霜鳥のカウンセリングを受け持ち、実は佑美の相談にも乗っている。
佐野史郎豊原則夫役
医学部の部長で外科の権威。霜鳥の仕事を快く思わないが、彼の家族の真実を知っている。
三浦獠太犀川優太役
霜鳥クリニックの看護師。患者の気持ちがうまくつかめず、勤め先を恋人に隠している。
藤間爽子夏目真凜役
霜鳥クリニックの医療事務員。物事をはっきり言うムードメーカーで、同性の恋人がいる。
この作品が問いかけるもの
この作品は、セックスセラピーを話題作の中心に置き、それを医療として描く。耳を傾けること、見立てること、言葉を重ねていく地道な治療。依存、仮想空間の性、盗撮と、扱う悩みは幅広く、加害についての線引きもはっきりしている。盗撮をやめられない男は被害者をひとりの人間として見ることを迫られ、少年は「性的同意」という言葉を知る。主人公は、自分が治療する行為そのものに耐えられないセラピストだ。作品はその原因を欲望にではなく、妻を所有物のように扱い、その不倫に暴力で応えた父に置く。性と支配を切り分けること。この作品はそのために組み立てられている。最後に主人公は、ひとりで悩まなくていいとテレビの前の人々に語り、ふたりはようやく言葉を交わしたうえで、もう一度始める。