肉体の門
Gate of Flesh
ストーリー
結末まで書いています。
戦後東京の街娼たちの掟は「ただでは寝ない」。
終戦直後の東京。焼け跡の闇市で、腹をすかせた十八歳のマヤが芋を盗む。市を仕切る吉野一家の阿部は彼女を進駐軍に売ろうとし、逆らわれると人前で痛めつける。止めに入ったのは、腕に刺青を入れた娼婦、小政のせんだった。せんはマヤを仲間に加え、根城にしている焼けビルへ連れていく。マヤは進駐軍の兵士に犯された過去を持ち、ボルネオで戦死した兄の話ばかりするので、ボルネオ・マヤと呼ばれるようになる。女たちには、ただで男と寝てはならないという掟がある。破った仲間が髪を切られ、裸でさらされるのを見て、マヤは体を売ることも、人に手を上げることも覚えていく。
復員兵の伊吹新太郎は、進駐軍の物資を盗んで暮らしている男だ。兵士を刺して逃げる途中で撃たれ、女たちの焼けビルに転がり込む。王様のようにふるまう彼に、女たちは次々に惹かれていく。夫を戦争で亡くした町子が掟を破ると、女たちは彼女を縛り上げて竹で打ち、あんたたちは男を愛したことがないのよと叫ぶ町子を追い出す。そのあとで、伊吹は町子と関係を持つ。伊吹に兄の面影を見るマヤは、嫉妬と恋しさに引き裂かれる。
ある日、伊吹は一頭の牛を引いて帰ってきて、自分でさばき、女たちと酒盛りをする。酔いつぶれた伊吹をマヤは船へ運び、抱いてほしいと頼む。マヤは初めて、男を愛する喜びを知る。一緒に来るなら橋へ来い、と伊吹は言い残して出ていく。一部始終を見ていたせんは伊吹を吉野一家に売り、一家は彼の居場所を進駐軍に知らせる。マヤは仲間たちからむごい制裁を受けながら、伊吹を思って耐え抜き、橋へ急ぐ。だが伊吹はすでに撃ち殺され、橋には誰もいない。マヤは立ち尽くし、汚れた川に浮かぶ旗を見つめる。
主な出演
野川由美子ボルネオ・マヤ役
進駐軍の兵士に犯され、生きるためにせんの仲間に加わった十八歳。戦死した兄の話ばかりする。
ボルネオ・マヤの物語
闇市で芋を盗んだマヤは、進駐軍に売られるのを拒んで痛めつけられ、止めに入ったせんの仲間になる。ボルネオで戦死した兄の話ばかりするので、ボルネオ・マヤと呼ばれる。体を売ることも人を殴ることも覚え、掟を破った町子への制裁では誰よりも激しく打つ。根城に転がり込んだ伊吹に、マヤは兄の面影を見る。伊吹が町子と連れ立つのを見たあと、自分を救おうとした神父に無理やり関係を迫り、やがて神父が自ら命を絶ったと知る。宴の夜、酔いつぶれた伊吹を船へ運び、掟を破って、初めて男を愛する。一緒に来るなら橋へ来い、と伊吹は言う。仲間のむごい制裁に耐えて橋へ急ぐが、伊吹はすでに撃ち殺され、そこには誰もいない。マヤはひとり立ち尽くす。
宍戸錠伊吹新太郎役
盗みで生きる復員兵。進駐軍の兵士を刺して撃たれ、女たちの根城に転がり込む。
伊吹新太郎の物語
伊吹は進駐軍の物資を盗んで生きる復員兵だ。進駐軍の兵士を刺し、逃げる途中で撃たれて、せんたちの根城の焼けビルに転がり込む。傷が癒えても出ていかず、王様のようにふるまう。隠し持った大量のペニシリンがあり、金を得るために手当たりしだいに強盗を働く。掟を破った町子への制裁を止め、のちに彼女と関係を持つ。ペニシリンを吉野一家に売り、牛を引いてきて自らさばき、酒盛りを開く。迫ってきたせんは相手にしない。船でマヤと一夜を過ごしたあと、一緒に来るなら橋へ来いと言い残して出ていく。せんは彼を吉野一家に売り、一家は進駐軍に居場所を知らせる。マヤが橋に着く前に、伊吹は撃ち殺されている。
河西都子小政のせん役
腕に刺青を入れた娼婦たちのまとめ役。掟を容赦なく守らせ、伊吹に心を惹かれていく。
小政のせんの物語
せんは焼けビルを根城に街に立つ女たちを束ね、ただで男と寝ないという掟を、容赦ない制裁で守らせている。強くなるために、腕には刺青を入れた。闇市で痛めつけられていたマヤを助け、仲間に加える。進駐軍に撃たれた伊吹が転がり込むと、彼をかくまう。傷が治ったら出ていけと命じても従わない男に、やがて心を惹かれていく。掟を破った町子への制裁を率い、伊吹には盗んだペニシリンを吉野一家に売るよう勧める。宴の夜、酔った伊吹に迫るが、相手にされない。そして、伊吹とマヤのことを見てしまう。せんは伊吹を吉野一家に売り、マヤに激しい制裁を加える。
富永美沙子町子役
夫を戦争で亡くした女。娼婦には見えない品を残し、掟を破って仲間から追い出される。
この作品が問いかけるもの
原作は、戦後日本で最初のベストセラーとなった田村泰次郎の1947年の小説だ。鈴木清順が女の肉体を描いて続けた三部作の第1作である本作は、日活時代の頂点のひとつとされる。裸と題材を理由に日活の女優の多くが出演を断り、セットは撮影所の倉庫から持ち出した材料で急ごしらえされた。批評家たちはこの映画を占領期の寓話として読んできた。敗れた国で、服従と制裁の古い秩序が、いちばん下の人々のあいだで組み直されていく、と。ただでは寝ないという女たちの掟は、アメリカ兵であれ日本のやくざであれ、欲しいものを奪っていく男たちから身を守るすべであり、彼女たちは戦争で覚えた暴力でそれを互いに課す。残る問いは、体だけが生きる手段である女にとって、愛とは何なのかということだ。贅沢か、仲間への裏切りか、それとも自分に残された唯一のものか。