やわらかい生活
It's Only Talk
ストーリー
結末まで書いています。
蒲田で暮らす躁鬱の女性と、部屋を通り過ぎる4人の男。
橘優子は35歳。東京の蒲田に越してきて、商店街や公園のタイヤでできたゴジラを写真に撮り、ラーメン屋で餃子とビールを楽しみ、古い銭湯で一日を締めくくる。躁うつ病を抱え、両親を亡くしてからの6年間、入退院を繰り返してきた。会社を辞め、両親の保険金で暮らしている。彼女の前を通り過ぎていく男たちも、それぞれに傷を負っている。
街頭演説をしていた大学の同級生・本間は、マイク越しに彼女の名前を呼ぶ。性的な不能を打ち明ける彼との一夜は、気まずいまま朝を迎える。出会い系サイトで知り合った男とは、映画館で痴漢に遭うという遊びをする。のちに優子は、彼が子どもと自転車に乗っている姿を見かける。ブログにタイヤのゴジラが見たいとメールを寄こした気の弱いヤクザの安田は、うつ病を患い、空の薬莢を持ち歩いていて、ヤクザはいつでも死ねるのだと言う。学生時代から好きだったと花束を差し出す旧友には、両親は阪神大震災で、親友は世界貿易センタービルで、恋人は地下鉄サリン事件で死んだと並べてみせ、花束を置いて帰る。
両親の七回忌で、優子はいとこの祥一と再会する。青いクラシックカーに彼女を乗せ、ラブソングを吹き込んだカセットを聴かせる祥一は、事業にも家庭にも行き詰まっていた。やがて行き場をなくした祥一が、優子の部屋に転がり込んでくる。競馬で大穴を当てた優子は躁に転じたかもしれないと言い、そのあと、うつの底に沈む。祥一は病気の本を読み、髪を洗ってやり、懸命に看病する。回復した優子に、祥一はなぜ震災で死んだなんて嘘をつくのかと問う。両親は火事で死んだ。そのあと自分を傷つけたのだと、優子は傷あとを見せる。屋台で過ごした夜の帰り道、祥一はこのまま帰ると言い、ふたりは口づけをして別れる。安田は、仕事をしたら塀の中に入ると告げ、握手をして去っていく。そして伯父から電話が入る。祥一が酒を飲んで車ごと海に落ち、死んだという。またひとりになった優子は、銭湯の湯船で、自分を呼ぶ祥一の声を聞いた気がする。
主な出演
寺島しのぶ橘優子役
蒲田でひとり暮らす35歳。躁うつ病を抱え、両親の保険金で暮らしながら、傷を負った男たちと出会っていく。
橘優子の物語
優子は、不思議な街だと気に入った蒲田に越してきて、タイヤのゴジラを写真に撮り、餃子とビールを楽しみ、刺青があるので銭湯ではいつもしまい湯に入る。本間とは気まずい一夜を過ごし、出会い系で知り合った男とは映画館で痴漢ごっこをし、ヤクザの安田とは友だちになり、言い寄る旧友には、両親も親友も恋人も大事件で死んだと並べてみせる。行き場をなくしたいとこの祥一が転がり込んでくると部屋に置き、うつに沈んだ自分を看病してもらう。回復すると、両親が死んだのは火事で、そのあと自分を傷つけたのだと打ち明け、傷あとを見せる。ふたりは口づけをして別れ、やがて祥一の死が伝えられる。ひとりに戻った優子は、銭湯の湯船で、自分を呼ぶ祥一の声を聞いた気がする。
豊川悦司橘祥一役
優子のいとこ。事業にも家庭にも行き詰まって彼女の部屋に転がり込み、うつに沈む彼女を看病する。
橘祥一の物語
祥一は地元で結婚したものの事業は行き詰まり、家では家庭内別居の状態にある。優子の両親の七回忌で彼女と再会すると、青いクラシックカーに乗せ、ラブソングを吹き込んだカセットを聴かせる。やがて居場所をなくして彼女の部屋に転がり込み、おやすみと言われたのは久しぶりだとつぶやく。うつに沈んだ優子のために病気の本を読み、彼女のカメラで商店街を撮り、髪を洗ってやる。当たり散らされて部屋を飛び出しても、金魚を手に戻ってくる。回復した優子に、なぜ震災で死んだと嘘をつくのかと問う。屋台で過ごした夜、このまま帰ると言い、ふたりは口づけをして別れる。まもなく、酒を飲んだ彼の車が海に落ち、祥一は死ぬ。
松岡俊介本間役
政界を目指す大学の同級生。街頭演説の最中に優子を見つけ、性的な不能を打ち明ける。
田口トモロヲ痴漢Kさん役
出会い系サイトで知り合った男。映画館で優子と痴漢の真似ごとをして遊ぶ。
妻夫木聡安田昇役
うつ病を患う若いヤクザ。優子のブログにメールを送り、空の薬莢を持ち歩いている。
この作品が問いかけるもの
『やわらかい生活』は、躁うつ病を抱える女性を、誰かの物語の中の厄介ごとではなく、自分の物語の主人公として描く。優子の病は、銭湯やカメラや、通り過ぎていく男たちと同じように、暮らしの一部としてそこにある。彼女はおかしくて、性に率直で、ときに残酷で、ひどく疲れている。いちばん鋭いのは、借りものの喪失だ。優子は自分が壊れた理由を、阪神大震災や地下鉄サリン事件や世界貿易センタービルといった、同じ時代の大きな災厄で説明してみせる。本当の理由である火事と、そのあと自分を傷つけたことより、そのほうが人にわかってもらいやすいからだと彼女は言う。絲山秋子の受賞デビュー作をもとに、廣木隆一は傷ついた男たちにも同じ忍耐を向ける。結末は、彼女の世話の仕方を覚えるまでそばにいたただひとりの人を奪い、湯船で耳を澄ます彼女を残して終わる。