接吻
The Kiss (Seppun)
ストーリー
結末まで書いています。
テレビで見た殺人犯に恋し、獄中結婚する孤独な事務員。
遠藤京子は28歳の独身の会社員だ。人付き合いは少なく、同僚に押しつけられた残業をひとりで片づけてから帰る日々を送っている。ある晩、台所で皿を洗いながらつけていたテレビに、見ず知らずの一家3人を殺害し、自ら警察と報道機関に名乗り出て逮捕された坂口秋生の笑顔が映る。その無言の笑顔に、京子は自分と同じものを見る。その夜から彼女は、坂口について知りうることをすべてノートに書き留めていく。
坂口は法廷でも、国選弁護人の長谷川に対しても、何ひとつ語らない。初公判から傍聴を続ける京子は、長谷川に差し入れを託す。京子に惹かれ始めた長谷川は、あまり近づかないほうがいいと忠告するが、京子と坂口は手紙を交わすようになる。長谷川とともに群馬に住む坂口の兄を訪ね、その生い立ちを聞いたあと、京子はついに面会室のガラス越しに坂口と向き合う。仕事を辞め、長谷川の制止も聞かず、彼女は坂口と獄中結婚する。押し寄せる取材陣のカメラに、京子はかつての坂口と同じ笑顔を向ける。
一審で坂口に死刑判決が下る。長谷川が記者会見で控訴を発表したことをテレビで知り、京子は怒りをあらわにする。仕切りのない部屋での面会を求めた京子は、その道すがら長谷川に贈り物を手渡す。面会室で京子は坂口に誕生日のケーキを差し出す。坂口が蝋燭を吹き消す一瞬、京子は長谷川の鞄から贈り物を抜き取る。中身はナイフだった。抱き合ったまま京子は坂口の胸を刺し、坂口は息絶える。長谷川にも刃を向けかけた京子は、次の瞬間、唐突に彼に口づける。看守に取り押さえられて連れ去られる京子に、長谷川は「僕が弁護する」と叫ぶ。京子は「私のことは放っといて」と応じる。
主な出演
小池栄子遠藤京子役
孤独な28歳の会社員。ニュースで見た殺人犯に惹かれ、獄中で彼と結婚する。
遠藤京子の物語
京子は同僚に押しつけられた残業をひとりで片づけ、家族とも疎遠に暮らしている。夕方のニュースに映った殺人犯の無言の笑顔に自分と同じものを見て、その夜から彼について知りうることをノートに書き留めていく。初公判から傍聴席に通い、長谷川に差し入れを託し、坂口と手紙を交わし、群馬の兄から生い立ちを聞いたあと、ガラス越しに彼と向き合う。いまは幸せだ、何のために生きているのかと考えずに済むから、と長谷川に語る。仕事を辞めて獄中結婚し、押し寄せたカメラに、かつての坂口と同じ笑顔を向ける。控訴をテレビで知ると激しく怒り、坂口の誕生日、仕切りのない面会室で彼を刺し殺す。長谷川に口づけし、弁護するという彼に、放っておいてと言い残して連れていかれる。
豊川悦司坂口秋生役
見ず知らずの一家を殺して名乗り出た男。裁判でも沈黙を守り続ける。
坂口秋生の物語
見ず知らずの一家を殺した坂口は、自ら警察と報道機関に電話をかけ、笑みを浮かべて逮捕される。それからは、取り調べでも法廷でも国選弁護人にも、何ひとつ語らない。長谷川を通じて京子の差し入れと手紙が届くようになると、返事を書き、面会室のガラス越しに彼女を近づけ、獄中で結婚する。一審で死刑判決を受けたあと、彼は殺した家族の夢を見るようになり、いつになく感情をあらわにして、自分は死刑になるべきだと口にする。その変化を見た長谷川が控訴に踏み切る。控訴を責める京子に、坂口は逆らわない。誕生日、京子が差し出したケーキの蝋燭を吹き消し、抱き合ったまま彼女に刺されて、抗うことなく息絶える。
仲村トオル長谷川ユキヒデ役
坂口の国選弁護人。京子に距離を置くよう忠告しながら、自らも彼女に惹かれていく。
長谷川ユキヒデの物語
長谷川は、何も語らない被告を受け持つ国選弁護人だ。傍聴席に通う京子を変わった女だと思っていたが、差し入れを取り次ぐうちに惹かれていき、群馬の坂口の兄を訪ねるときには彼女を誘う。近づきすぎないほうがいいと忠告し、獄中結婚も止めようとするが、京子は聞かない。一審の死刑判決のあと、坂口が悔いを見せ、自分は死刑になるべきだと口にすると、長谷川はすぐに控訴を決め、記者会見で発表する。仕切りのない部屋で会いたいという京子の願いをかなえ、道すがら渡された贈り物を鞄に入れて面会室へ運ぶ。中身はナイフだった。坂口を刺した京子は長谷川にも刃を向け、次の瞬間、彼に口づける。看守に連れていかれる京子に、彼は、僕が弁護すると叫ぶ。
篠田三郎坂口辰巳役
群馬で暮らす坂口の兄。京子と長谷川に、弟の生い立ちを語る。
この作品が問いかけるもの
『接吻』は、誰の目にも留まらなかった女が、テレビの向こうの殺人犯にだけ見つけてもらえたと感じてしまう物語だ。映画は京子を説明しない。嘲りもしない。殺人犯の沈黙に親しさを覚えてしまうほどの孤独を正面から受けとめ、その感情が死刑裁判の仕組みのなかを進んでいくさまを追う。記者会見、面会室のガラス、控訴、獄中結婚。物語の要は控訴への怒りで、彼女が何に裏切られたと感じたのかは観る者に委ねられる。普段の明るい印象を封じて京子を演じた小池栄子は、ヨコハマ映画祭と毎日映画コンクールで主演女優賞を受けた。残るのは居心地の悪い問いだ。愛のうちのどれほどが、自分だけが理解者でありたいという願いでできているのだろうか。