二重生活
Double Life
ストーリー
結末まで書いています。
哲学科の学生が隣人を尾行し、不倫を知る。尾行という親密さ。
哲学を学ぶ大学院生の白石珠は、東京の閑静な住宅街で恋人の卓也と暮らしている。修士論文のテーマに迷う珠に、篠原教授は「哲学的尾行」を勧める。無作為に選んだ他人を尾行し、その暮らしを記録して、人間とは何かを考えるというのだ。ためらっていた珠は、書店で近所の立派な一軒家に住む編集者・石坂史郎を見かけ、あとをつけ始める。石坂には美しい妻と幼い娘がいる。
初日から、珠は石坂が愛人のしのぶと会い、路地裏で抱き合う姿を目にする。あきれながらも、通りすがりを装って何度ものぞいてしまう。石坂の日課を調べ、ホテルでの逢い引きの約束を聞きつけ、ふたりを追う。その後の食事の席でしのぶは怒って出ていき、一部始終を見ていた石坂の妻も、娘を置いて夜の街へ歩き去る。珠は妻のあとをつけ、誰もいない公園で泣き崩れる姿を見る。やがて石坂の家に救急車が来る。妻が自ら命を絶とうとしたのだ。担架で運ばれる妻のそばで、石坂と珠の目が合う。石坂は駅で珠を問い詰め、妻に雇われたのかと疑い、のちに説明を求める。珠は尾行のことを打ち明け、酒を飲み、ホテルになだれ込むが、ふたりは途中で我に返る。珠は語る。八歳で父を亡くし、初めて好きになった父の親友も病で亡くしたこと。石坂を追うことで、その空虚が埋まる気がしていたこと。満たされている人間なんていない、と石坂は冷たく言い放つが、論文に書くことは認める。ホテルから出てくるふたりを見ていた卓也は、部屋を出ていく。
尾行を続けるよう言われた珠は、今度は篠原を対象に選び、妻とのつましい暮らしを記録する。論文を読んだ篠原は、封筒を渡す。中には代行業者の名刺と劇団の切符。篠原の妻は、余命わずかな母のためにお金で雇った女優だったらしい。後日、研究室を訪ねた珠は、篠原が自ら命を絶とうとしたことを知る。彼が助かったのかどうか、映画ははっきり描かない。春、部屋を引き払う珠は、仲むつまじい石坂一家とすれ違う。満たされた人間はいない、その苦しみを和らげるのが秘密なのだと、珠は論文を結ぶ。人であふれる交差点で篠原に似た人影を見つけると、珠は微笑み、雑踏へと歩き出す。
主な出演
門脇麦白石珠役
哲学を学ぶ大学院生。論文のために近所の男を尾行し、その秘密の暮らしにのめり込んでいく。
白石珠の物語
哲学を学ぶ珠は、恋人の卓也と暮らしながら、教授の勧めで近所の編集者・石坂をひそかに尾行し、その暮らしを記録し始める。初日から、路地裏で愛人と抱き合う彼を目にする。ホテルまでふたりを追い、夜の街をさまよう妻を追い、自ら命を絶とうとした妻が運び出される場で、石坂と目が合う。尾行を石坂に打ち明け、ホテルになだれ込むが、途中で我に返る。八歳で亡くした父のこと、初めて好きになった父の親友も亡くしたことを語る珠に、満たされている人間なんていないと石坂は言う。ふたりを見た卓也は部屋を出ていき、珠はがらんとした部屋で初めて泣く。次に篠原を尾行し、その妻が雇われた人だったと知る。春、珠は論文を書き上げ、雑踏で篠原に似た人影に微笑む。
長谷川博己石坂史郎役
妻と娘と立派な家を持つ有能な編集者。愛人との関係を続けるなか、尾行されていることに気づく。
石坂史郎の物語
石坂は妻と幼い娘、立派な家を持つ編集者で、デザイナーのしのぶと路地裏やホテルで密会を重ねている。食事の席でしのぶが怒って出ていき、一部始終を見ていた妻は夜の街へ歩き去る。やがて自ら命を絶とうとした妻が担架で運び出されるとき、石坂は珠と目が合う。駅で彼女を問い詰め、妻に雇われたのかと疑い、のちに電話で説明を求める。尾行のことを聞かされると、自分のことを論文にするなと言うが、酒を飲んだ末にホテルへなだれ込み、娘からのメールで我に返る。自分の空虚を語る珠に、この世に満たされている人間なんかいないと冷たく言い放ちながら、論文に書くことは認める。春、珠は仲むつまじい石坂一家とすれ違う。
菅田将暉鈴木卓也役
珠と同棲する恋人。尾行に没頭する彼女に置き去りにされ、石坂といる姿を見て部屋を出ていく。
リリー・フランキー篠原教授役
珠に「哲学的尾行」を勧める教授。やがて、彼自身も秘密を抱えていたことがわかる。
篠原教授の物語
篠原教授は、珠に「哲学的尾行」を勧め、論文を書き上げた彼女に、まだ尾行を続けるよう促す。自身は、余命わずかな母に妻を引き合わせ、看護師に三人の写真を頼む。母を看取ると、終わりましたと力なく妻に告げ、妻は泣き崩れる。次に珠が篠原を尾行し、夫婦のつましい暮らしを記録すると、彼は論文をほめながら、自分について書いた部分に誤りがあると言って封筒を渡す。中には代行業者の名刺と劇団の切符が入っていた。妻はお金で雇った女優だったのだ。後日、研究室を訪ねた珠は、篠原が自ら命を絶とうとしたことを知る。彼が助かったのかどうか、映画ははっきり描かない。最後に珠は、雑踏のなかに篠原に似た人影を見つける。
篠原ゆき子しのぶ(石坂の愛人)役
石坂の愛人で、デザイナーとして活躍する女性。路地裏やホテルで彼と会い続ける。
この作品が問いかけるもの
『二重生活』は、他人の暮らしをのぞくことが、のぞく側に何をもたらすのかを問う。小池真理子の原作では、主人公が、見知らぬ人を尾行した美術家ソフィ・カルの試みを思い立つ。映画はその発想を教授に託し、やがて中毒に近いものへと育てていく。問われるのは、のぞき見と同意、ありふれた暮らしを支えている秘密、そして好奇心の顔をした孤独だ。珠の研究は方法として始まり、自分の空虚から目をそらす手段になっていく。ドキュメンタリー出身の岸善幸監督は、あとをつける人の目線で撮り、観る者にも尾行させる。門脇麦の初主演作でもある。結論は最後にはっきり語られる。満たされた人間はいない。秘密がその欠落を耐えられるものにする。映画が開いたままにするのは、見ることの代償だ。担架で運ばれる妻、研究室にひとり残された教授。