EN
メニュー

Cinema 月明かりの映画館

失楽園

Lost Paradise

1997映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

中年編集者と書道教師の心中に至る不倫。“失楽園”は流行語に。

出版社の編集長だった久木祥一郎は50歳。雑誌の売上を伸ばしたい営業部と作品へのこだわりから衝突し、閑職の調査室へ移される。任された昭和史の編纂のため、いまは阿部定事件を調べている。家でタイルの図案を描く仕事をしている妻・文枝との仲は悪くないが、どこかしっくりこない。カルチャーセンターに勤める友人・衣川の紹介で、久木はそこで書道を教える松原凛子(38歳)と出会う。凛子は25歳で、医学部の研究者・晴彦と見合い結婚した。生真面目で堅物、嫉妬深い夫とのあいだに子どもはなく、夜の営みもほとんどない。

ふたりは仕事だと周囲をごまかしながら、ホテルでの逢瀬や泊まりがけの旅行を重ねていく。凛子が慕っていた養父が急死した夜にも、久木は会いたいと電話をかけ、凛子は彼のもとへ向かう。やがて久木の会社に差出人不明の身上書が届き、彼が言葉巧みに凛子に近づき、強引に関係を迫ったと書き立てる。常務に呼ばれた久木は、事実を問いただされ、会社を辞める。凛子は夫に離婚を切り出すが、夫は拒む。凛子は夫とも実母とも縁を切り、久木のもとへ走る。久木は妻から離婚を切り出され、はじめは渋るものの、やがて受け入れて家を出る。娘の知佳は、変わっていく両親の姿に思い悩む。

ふたりは誰にも告げず、一緒に死ぬことを選ぶ。雪深い温泉宿の一室で、少し開いた障子の向こうに降る雪を見ながら、ふたりは抱き合ったまま命を絶つ。映画は、ふたりが発見されたときの様子を記した死体検案調書で幕を閉じる。

主な出演

  • 役所広司久木祥一郎役

    出版社の閑職に追いやられた50歳の元編集長。人生を呑みこんでいく不倫に落ちていく。

    久木祥一郎の物語

    久木は50歳。敏腕の編集長だったが、営業部との衝突で調査室に移され、昭和史の編纂のために阿部定事件を調べている。友人の衣川に書道講師の凛子を紹介され、ひたむきに口説いて彼女を振り向かせる。仕事だと周囲をごまかして、ホテルでの逢瀬や泊まりがけの旅を重ね、凛子の養父の通夜の晩にも会いたいと電話をかけ、喪服のままの彼女とホテルで会う。会社に告発文が届くと辞職を決め、妻の文枝に離婚を求められると、はじめは渋りながらも承諾して家を出る。至高の愛の瞬間のまま死ねたらという凛子の願いに、やがて彼も共感する。誰にも告げずに雪深い温泉宿へ向かい、ふたりは抱き合ったまま命を絶つ。

  • 黒木瞳松原凛子役

    書道を教える38歳。夜の営みのない見合い結婚の中で、不倫にすべてを預けていく。

    松原凛子の物語

    凛子はカルチャーセンターで書道を教え、楷書の君と呼ばれるほど折り目正しい。25歳で医学部の研究者・晴彦と見合い結婚したが、子どもはなく、夜の営みもほとんどない。久木のひたむきな求愛をやがて受け入れ、逢瀬を重ねるうちに、性の歓びの深みにとらわれていく。慕っていた養父の通夜の晩には、夫と母の目を逃れて、喪服のままホテルで久木と会う。罪の意識は、かえってふたりを燃え上がらせる。興信所の調査で妻の不貞を知った晴彦は、あえて離婚に応じないことで彼女を苦しめようとする。凛子は夫とも実母とも縁を切って、久木のもとへ走る。至高の愛の瞬間のまま死ねたらと願ったのは、彼女のほうだった。雪深い温泉宿で、ふたりは抱き合ったまま命を絶つ。

  • 寺尾聰衣川役

    カルチャーセンターに勤める久木の友人。凛子と出会うきっかけを作り、食事の席で助言をする。

  • 柴俊夫松原晴彦役

    凛子の夫で医学部の研究者。生真面目で嫉妬深く、妻の離婚の申し出を拒む。

  • 星野知子久木文枝役

    久木の妻。仕事一筋の夫への不満を長く抱え、やがて離婚を切り出す。

  • 木村佳乃知佳役

    結婚して家を出た久木の娘。両親の仲の変化を感じ取り、思い悩む。

この作品が問いかけるもの

『失楽園』は、不倫を国じゅうの話題にした。渡辺淳一の原作は日本経済新聞に連載されて260万部を超え、「失楽園(する)」はその年の流行語大賞に選ばれた。映画は1997年の日本映画で『もののけ姫』に次ぐヒットとなり、黒木瞳は日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受けた。映画が触れているのは現実の経験だ。不幸ではないのに、言葉も体の触れ合いも消えてしまった結婚。人生が閉じていくのを感じる中年の男女。だが、その経験を映画がどこへ運ぶかは受け入れがたい。愛を老いさせない唯一の方法として心中を描き、ふたつの死を成就のように演出する一方で、残される妻や夫や娘はほとんど顧みられない。死ぬことでしか守れない情熱が、黙りこんだ結婚への答えになりえたのか。その問いは開かれたまま残る。