蛇にピアス
Snakes and Earrings
ストーリー
結末まで書いています。
スプリットタン、刺青、二人の男。金原ひとみの芥川賞小説を映画化。
19歳のルイは、生きている実感もないまま渋谷をさまよっている。ある日クラブで、赤いモヒカンに眉と唇のピアス、背中に龍の刺青、蛇のように先の割れた舌を持つアマと出会い、一緒に暮らし始める。スプリットタンに惹かれたルイは、アマに連れられて彫り師シバの店を訪ね、舌にピアスを開けてもらう。全身に刺青を入れ、顔中にピアスをしたシバは、人が苦しむ顔に興奮するサディストだと自ら語る。ルイはピアスの穴を少しずつ広げていき、その痛みに恍惚を覚える。
ある夜、友人のマキと三人で歩いていたところを暴力団風の男たちに絡まれ、逆上したアマは相手を激しく殴りつけ、抜き取った2本の歯を「愛の証」としてルイに渡す。ルイはシバに、背中一面に龍と麒麟が絡み合う刺青を頼む。画竜点睛の故事にならい、二匹が飛んでいかないよう瞳は入れないでほしいと願う。シバは代金として彼女の体を求め、ふたりはアマに隠れて、彫るたびに体を重ねるようになる。
やがて、アマが殴った男が死んだというニュースが流れる。ルイは理由を告げずにアマの髪を染めさせ、刺青を長袖で隠させる。刺青が仕上がると、ルイは生きる意味を見失って酒に溺れ、痛みの中でしか生を実感できなくなる。アマとシバ、どちらが自分を殺すのだろうかと想像する。シバの店には、龍の刺青をした赤毛の客について、警察から問い合わせが入る。
ある夜、アマが姿を消す。捜索願を出そうとして、ルイは彼の本名さえ知らなかったことに気づく。数日後、アマは遺体で見つかる。拷問され、レイプされ、殺されていた。抜け殻のようになったルイを引き取ったのはシバだった。シバの家で暮らすうち、ルイは遺体に残されていた珍しいお香とタバコの銘柄が、シバのものと同じだと気づく。ルイはアマの2本の歯を砕いて飲み込む。そしてシバに、龍と麒麟に瞳を入れてほしいと頼み、シバはそれに応える。ルイは舌の穴を広げるのをやめる。スプリットタンは完成せず、舌には大きな穴だけが残る。
主な出演
吉高由里子ルイ役
渋谷をさまよう19歳。痛みの中でしか生きている実感を持てず、身体改造にのめり込んでいく。
ルイの物語
ルイはアマのスプリットタンに惹かれて一緒に暮らし始め、シバの店で舌にピアスを開けて、その穴を少しずつ広げていく。背中にアマの龍とシバの麒麟を彫ってほしいと頼み、飛んでいかないよう瞳は入れないでと願う。代金は体で払い、アマには隠し続ける。アマが殴った男の死を知ると、彼の髪を染めさせ、刺青を隠させる。刺青が仕上がると食べずに酒ばかり飲み、心配するアマを邪険に扱う。アマが殺されたあとはシバの家に移り、遺体に残されていたお香とタバコがシバのものだと気づきながら、そこにとどまる。アマの歯を砕いて飲み込み、瞳を入れてもらい、舌の穴を広げるのをやめる。最後に、彼女は渋谷の雑踏の中にひとりしゃがみ込む。
高良健吾アマ役
赤いモヒカンにスプリットタンの青年。ルイには優しく、彼女に絡む者には容赦なく拳をふるう。
アマの物語
アマは赤いモヒカンに顔じゅうのピアス、背中に龍、蛇のように割れた舌を持つ青年で、ルイには素直で優しい。ルイをシバの店に連れていき、舌にピアスを開けさせる。夜道でルイに絡んだ男の一人を激しく殴りつけ、抜き取った2本の歯を愛の証として彼女に渡す。その男が死んだことを知らないまま、ルイに言われるとおり髪を染め、刺青を長袖で隠す。酒ばかり飲んでやせていくルイを心配し、バイトが少し長引くだけでも連絡を入れる。ある夜、彼は帰ってこない。ルイは彼の本名さえ知らなかった。数日後、アマは遺体で見つかる。拷問され、レイプされ、殺されていた。
ARATAシバ役
自らをサディストと呼ぶ彫り師。刺青の代金として、ルイの体を求める。
シバの物語
シバは全身に刺青を入れ、顔じゅうにピアスをした彫り師で、初めて店に来たルイに、人の苦しむ顔に興奮するのだと語る。彼女の舌にピアスを開け、無理に広げると炎症を起こすと忠告し、背中にアマの龍と自分の麒麟を彫ることを引き受け、アマに隠れて、彫るたびに彼女と関係を持つ。龍の刺青をした赤毛の客について警察が店に来たことを、彼はルイに伝える。アマが姿を消すと捜索願を出すのを手伝い、遺体で見つかったあとは、抜け殻のようなルイを自分の家に引き取って世話をする。遺体に残されていた珍しいお香とタバコの銘柄は、彼のものと同じだった。最後に、ルイに頼まれて龍と麒麟に瞳を入れる。
あびる優マキ役
ルイの友人。アマが路上で男を殴りつけた夜、ふたりと一緒にいた。
この作品が問いかけるもの
『蛇にピアス』は、痛みを感じているときにしか生きている実感を持てない若い女性を追い、彼女を裁きもしなければ、一時の迷いとして片づけもしない。金原ひとみのデビュー作である原作は芥川賞を受け、国内で百万部を超えて売れ、バブル崩壊後の日本の若者の姿として論じられてきた。映画は原作のいちばん厳しいところを手放さない。日ごとに広げられる舌の穴、体で支払われる刺青の代金、彼女が壊れてから初めて優しくなるサディスト。どの場面にもルイの同意はある。それでも同意だけでは語りきれないのは、彼女が受け入れ続けているのが、自分を消していくやり方だからだ。物語は、アマを殺したとおぼしき男と暮らすルイを残して終わる。瞳は入り、痛みは手放された。それが何かを生き延びたということなのか、ただ止まってしまったということなのか、答えは示されない。