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Cinema 月明かりの映画館

彼女がその名を知らない鳥たち

Birds Without Names

2017映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

軽蔑する男に養われながら去った恋人を追う。愛着の最も醜い形。

北原十和子は働かない。十五歳年上の建設作業員・佐野陣治の稼ぎで暮らしながら、下品で不潔な彼をあからさまに見下している。陣治は夕飯を作り、マッサージをし、小遣いを渡し、日に何度も電話をかけてくる。十和子は昼間、八年前に暴力の末に別れた恋人・黒崎俊一とのデートを撮った映像ばかり眺めている。

壊れた腕時計のことでデパートに苦情を入れると、売り場主任の水島真が代わりの時計を持って部屋を訪れ、十和子に口づける。妻子のある水島と、十和子は関係を重ねていく。陣治は自転車で彼女のあとをつける。電車でぶつかってきた男を、ホームへ突き飛ばしもする。やがて刑事が現れ、黒崎が五年前から行方不明だと告げる。姉の美鈴は、十和子が黒崎に会うことなど絶対にない、と陣治が妙に強く言い切っていたのを思い出す。陣治が黒崎を殺したのだと、彼女は確信する。

黒崎の妻カヨを訪ねた十和子は、カヨの叔父の国枝と鉢合わせし、過去がよみがえる。黒崎は実力者の国枝の後ろ盾を得るため、十和子に国枝と一夜を過ごさせ、そのうえで国枝の姪と結婚し、責める十和子に手を上げたのだ。水島はほかの女性とも会っていて、贈られた時計は安物だった。陣治は黒崎を殺したと認める。軽い調子で体を求めてきた水島に、十和子は襲いかかる。駆けつけた陣治は彼女を止め、やったのは俺だと警察に言えと水島に告げる。

そして十和子は残りを思い出す。別れて何年もたってから、黒崎は彼女を呼び出し、一千万円のためにもう一度国枝と寝てくれ、必ず幸せにするからと頼んだ。十和子は黒崎を殺した。電話を受けた陣治が遺体を始末し、すべてを自分の罪として引き受け、彼女に忘れさせていたのだ。陣治は言う。お前の苦しみは全部俺が背負う。まともな男と出会って幸せになれ。子どもができたら、それは俺が生まれ変わったのだと思え。そして陣治は自ら命を絶ち、十和子の知らない名の鳥の群れが空へ舞い上がる。

主な出演

  • 蒼井優北原十和子役

    見下している男に養われながら、去った恋人を忘れられない女性。記憶の一部が抜け落ちている。

    北原十和子の物語

    十和子は働かず、陣治の稼ぎで暮らしながら彼を見下し、昼間は八年前に暴力の末に別れた黒崎との映像を眺めている。黒崎を思わせる妻子持ちの水島と関係を持つ。刑事から黒崎が五年前から行方不明だと聞かされると、陣治が殺したのだと確信し、陣治もそれを認める。黒崎に出世のため差し出された相手・国枝と顔を合わせ、過去がよみがえる。水島にはほかの女がいて、贈られた時計は安物だった。軽い調子で体を求めてきた水島に襲いかかったとき、十和子はすべてを思い出す。五年前、もう一度国枝と寝てくれと頼んだ黒崎を殺したのは自分で、陣治がそれを隠し、忘れさせていたのだ。まともな男と幸せになれと言い残して陣治は自ら命を絶ち、十和子の知らない名の鳥たちが空へ舞い上がる。

  • 阿部サダヲ佐野陣治役

    十和子より十五歳年上の建設作業員。粗野だが献身的で、彼女を養い、つけ回し、ある秘密を守り続ける。

    佐野陣治の物語

    陣治は十和子より十五歳年上の建設作業員。夕飯を作り、マッサージをし、小遣いを渡し、日に何度も電話をかけては、あからさまに見下される。自転車で彼女のあとをつけ、黒崎にもう会うことはないと妙に強く言い切る。黒崎はどこにいるのかと問われると、殺して埋めたと答える。だが、それは真実ではなかった。五年前、黒崎を殺したのは十和子で、呼び出された陣治が遺体を始末し、罪を引き受け、彼女に忘れさせていたのだ。十和子が水島に襲いかかった場に駆けつけて彼女を止め、やったのは俺だと言えと水島に告げて、すべてを打ち明ける。お前の苦しみは全部俺が背負う、まともな男と幸せになれ、子どもができたら俺が生まれ変わったと思え。そう言い残して、陣治は自ら命を絶つ。

  • 松坂桃李水島真役

    妻子のあるデパートの時計売り場の主任。十和子と関係を持つが、彼女を遊び相手としか見ていない。

  • 竹野内豊黒崎俊一役

    十和子のかつての恋人。魅力的で暴力的な男で、出世のために彼女を差し出し、五年前から行方がわからない。

  • 村川絵梨國枝カヨ役

    黒崎の妻で、実力者・国枝の姪。黒崎の行方を探ろうとする十和子が訪ねていく。

この作品が問いかけるもの

『彼女がその名を知らない鳥たち』は、上映時間の大半を使って、主人公ふたりを好きになれない人物として描く。養ってくれる男を見下す女と、献身がつきまといにしか見えない男。そして最後に、積み上げた共感をすべて裏返す。問われるのは、愛していると言いながら女を出世の道具として差し出す男の搾取、心の傷が記憶を消し去ってしまうこと、そして監視と自己破壊にまで行き着くほどの献身だ。暴力的な犯罪映画で知られる白石和彌監督が、これを恋愛映画として撮った。2017年のトロント国際映画祭で上映され、蒼井優は日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を、阿部サダヲはブルーリボン賞主演男優賞を受けた。陣治の愛は作中でもっとも純粋なものなのか、もっとも恐ろしいものなのか。命は、負い目を残さずに贈ることができるのか。居心地の悪い問いが残る。