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Cinema 月明かりの映画館

花腐し

A Spoiling Rain

2023映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

雨の東京で二人の男が同じ女の記憶を語る。ピンク映画の時代へのモノクロの挽歌。

2012年12月。5年間映画を撮っていないピンク映画監督の栩谷修一は、一緒に暮らした女優・桐岡祥子の通夜を訪ねる。映画の世界が娘を死なせたと恨む両親に、焼香も拒まれる。祥子は、栩谷の友人でピンク映画監督の桑山と心中していた。ふたりの遺体は海岸に打ち上げられ、なぜ彼女がそうしたのか、誰にもわからない。フィルムからデジタルへの移行のなかで、ピンク映画の世界そのものも終わりかけている。

家賃を滞納している栩谷は、大家の金から仕事を頼まれる。取り壊しの決まった古い木造アパートに居座る最後の住人を、立ち退かせること。住人の伊関貴久は、脚本家になりそこね、アダルトビデオの脚本で食いつないでいる男だった。部屋で缶ビールを重ねるうち、ふたりは同じ制作会社を知っていたとわかる。伊関は初めて付き合った女性の話を始める。2000年、舞台女優の卵と出会い、彼女の部屋に転がり込んだ。彼女が妊娠すると伊関は脚本家の夢を捨てようとしたが、彼女は女優の道を選んで中絶し、ふたりの仲は壊れていった。隣の部屋では、留学生のリンリンが、そこで育てられたマジックマッシュルームで朦朧としている。

韓国スナックで、栩谷はその女性の名を知る。祥子だった。栩谷は彼女が死んだことを伝え、自分の話をする。2006年に出会い、何も撮らないまま一緒に暮らした。祥子が身ごもり、産みたいと言うと、栩谷は家族なんて持ちたくないと答えた。彼女は流産し、かつての中絶のせいではと自分を責めたが、栩谷は慰めもしなかった。祥子は桑山と関係を持ち、それを打ち明けられても、栩谷は「そう」と言っただけだった。少し休みに実家へ帰ると言って出ていった数日後、祥子と桑山は遺体となって見つかった。

伊関の部屋に戻り、酒と薬に酔った栩谷は、カメラを手にしたリンリンと交わり、そのまま眠り込む。目覚めると誰もおらず、部屋はきれいに片づいていた。パソコンの画面には『花腐し』と題されたシナリオがあり、ふたりが語った祥子の物語が綴られている。栩谷は、彼女に告白された場面を書き直す。激しく頬を打ち、そして抱きしめた、と。階段の鏡の前で、白いワンピースの祥子が背後を通り過ぎ、伊関の部屋へ入っていく。栩谷はその扉を開けて中を見つめ、涙を流す。

主な出演

  • 綾野剛栩谷修一役

    5年間映画を撮っていないピンク映画監督。一緒に暮らし、支えきれなかった女優・祥子の死を抱えている。

    栩谷修一の物語

    栩谷は、一緒に暮らした女優・祥子の通夜で焼香を拒まれ、その足で、彼女と心中した友人・桑山の通夜へ向かう。立ち退きを迫りに行ったアパートの住人・伊関と飲むうちに、同じ女性を愛していたと知り、自分の話をする。雨の夜、祥子が部屋についてきたこと。何年も映画を撮らずに暮らしたこと。身ごもった彼女に家族は持ちたくないと言い、流産しても慰めず、桑山とのことを打ち明けられても「そう」としか言わなかったこと。怒鳴って殴ればよかったと思っているのかと問われ、彼はそうしなかったことを悔やむ。ひとり目覚めた部屋でふたりの話を綴ったシナリオを見つけると、彼女を打ち、抱きしめる場面に書き直す。背後を通って伊関の部屋へ入っていく祥子を見て、涙を流す。

  • 柄本佑伊関貴久役

    アダルトビデオの脚本で食いつなぐ、夢破れた脚本家。取り壊し間近のアパートの最後の住人で、祥子の最初の恋人。

    伊関貴久の物語

    伊関は取り壊しの決まったアパートから出ていかない。家賃は毎月払っていると言い、栩谷を部屋に招いて缶ビールを差し出す。2000年、学生として居酒屋で働いていた彼は、酒を飲まされて吐いていた舞台女優の卵の後始末をし、お詫びに芝居のチケットを渡される。彼女の部屋に転がり込み、シナリオの賞に落ち続け、暮らしのためにアダルトビデオの脚本を書き始める。彼女が妊娠すると夢を捨てる覚悟をしたが、彼女は女優の道を選んで中絶し、ふたりは離れていった。韓国スナックでその名、祥子を口にし、彼女の死を知らされる。翌朝、彼の姿はなく、片づいた部屋のパソコンに彼女の物語のシナリオが残されている。白いワンピースの祥子が入っていくのは、その部屋だ。

  • さとうほなみ桐岡祥子役

    ふたりの男に、時期を違えて愛された女優。桑山とともに心中する。

    桐岡祥子の物語

    祥子は女優になるために家を飛び出した。2000年、彼女の部屋に伊関が転がり込み、妊娠すると、女優の道を選んで中絶し、ふたりは別れる。2006年、桑山を通じて栩谷と出会い、女嫌いでピンク映画が撮れるんですかと笑って、雨のなか彼の部屋へついていく。何も撮らない男と暮らし、彼のすることはすべてごっこだと言った脚本家の顔に水を浴びせる。30歳を過ぎて身ごもり、産みたいと願うが、栩谷は家族は持ちたくないと答える。流産して、かつての中絶のせいではと自分を責めても、慰めは得られない。桑山と関係を持ち、それを告げても、栩谷は「そう」と言うだけだった。疲れたから十数年ぶりに実家で休んでくると言って部屋を出た数日後、桑山とともに遺体で見つかる。

  • 吉岡睦雄桑山篤役

    栩谷の友人のピンク映画監督。祥子を主演にした脚本を書き、彼女とともに命を絶つ。

  • マキタスポーツ金昌勇役

    栩谷の大家。古いアパートの最後の住人を立ち退かせれば、家賃の面倒を見ると持ちかける。

この作品が問いかけるもの

『花腐し』は、もう答えることのできない女性について、ふたりの男が語り合う映画だ。栩谷と伊関は、時期を違えて祥子を愛し、似たやり方で彼女を失った。ひとりは中絶をきっかけに暮らしが壊れ、もうひとりは彼女が望んだ子どもを拒み、彼女がほかの男のもとへ行っても何も言わなかった。映画はふたりに悔いを比べさせ、過去を書き直させさえする。そうすることで、彼女の人生が彼らの口を通してしか届かないことが、むき出しになる。これはまた、消えていくピンク映画への別れの歌でもある。監督の荒井晴彦は、1977年から日活ロマンポルノの脚本を数多く手がけてきた。松浦寿輝の芥川賞受賞作を原作に、手遅れの悲しみに何の意味があるのか、彼女を失った男たちの語る物語が彼女を受けとめられるのかを問いかける。