リップヴァンウィンクルの花嫁
A Bride for Rip Van Winkle
ストーリー
結末まで書いています。
結婚式の参列者をレンタルし、結婚を失い、瀕死の女性のメイドに。レンタルされる親密さ。
気弱な派遣教師の皆川七海は、交流サイトで知り合った鶴岡鉄也と、ネットで買い物をするようにあっけなく結婚を決める。鉄也の側の招待客は大勢いるのに、七海の側はほとんどいない。何とかしてほしいと言われた七海は、ネットで知り合った「なんでも屋」の安室に頼み、親族や友人を演じる代理の出席者をそろえてもらう。やがて部屋でピアスを見つけた七海は、安室に鉄也の浮気調査を依頼する。浮気相手の恋人を名乗る男にホテルの一室へ誘い出され、その場の映像が姑のカヤ子に届く。カヤ子は七海の浮気を責め、両親の離婚まで暴き立て、七海は結婚も家も失う。カヤ子の依頼を受けて彼女を陥れたのは、ほかならぬ安室だった。
行き場をなくしてホテルの住み込みで働く七海に、安室は別の仕事を持ちかける。見知らぬ人の結婚式で親族を演じる仕事では、陽気な女優・里中真白と姉妹役になる。次は、無人の豪邸に住み込むメイドの仕事で、月給は百万円。もうひとりのメイドは真白だった。真白は毎日女優の仕事に出かけ、酔って帰ってくる。真白が倒れたとき、七海はマネージャーから、彼女がアダルトビデオに出演していること、豪邸の借り主は真白自身で、家賃のために破産しかけていることを知らされる。七海は、安い部屋を借りてふたりで暮らそうと提案する。帰り道、ふたりはウエディングドレスを試着し、そのまま車で屋敷に戻って、ふたりきりの宴を開く。世界は私には優しすぎる、と真白は言い、一緒に死んでほしいと七海に頼む。七海はそれでいいと答え、ふたりは愛を誓って眠りにつく。
翌朝、安室が、真白の頼んでいた葬儀社の男と屋敷にやって来る。真白は末期がんで、一緒に死んでくれる友達を探すよう安室に金を払っていた。真白は自ら命を絶ち、七海は生きていた。葬儀では、かつて結婚式で真白の父親を演じた男が本当の涙を流す。七海と安室は、疎遠だった真白の母に遺骨を届ける。娘の仕事をさげすんでいた母は、酒が進むうちに、娘を理解しようと服を脱ぎ、安室も泣きながら裸になる。七海は泣き笑いの顔でそれを見ている。七海は普通のアパートに移り、ふたたび派遣教師の仕事を見つける。粗大ごみの家具を運んできた安室を見送る七海の声は、以前より明るく、張りがある。
主な出演
黒木華皆川七海役
気弱な派遣教師。ネットで出会った男と結婚してすべてを失い、頼まれ仕事の先で思いがけない暮らしに出会う。
皆川七海の物語
気弱な派遣教師の七海は、交流サイトで知り合った鉄也と、ネットで買い物をするようにあっけなく結婚する。招待客の足りない式のために安室に代理出席を頼み、夫の浮気を疑って、また安室に調査を頼む。ホテルの一室に誘い出されて撮られた映像を姑に突きつけられ、結婚も家も失う。安室は彼女に仕事を回す。見知らぬ人の結婚式で親族を演じる仕事で真白と出会い、住み込みのメイドとして入った豪邸で再会する。安い部屋を借りてふたりで暮らそうと言い、ウエディングドレスを試着して、ふたりだけの宴を開く。一緒に死んでほしいと頼まれ、それでいいと答えるが、目覚めると生きていたのは七海だけだった。普通のアパートに移って教師の仕事に戻り、安室を見送る声は、以前より明るい。
Cocco里中真白役
奔放な女優で、アダルトビデオに出演している。ネットではリップヴァンウィンクルと名乗り、末期の病を隠している。
里中真白の物語
真白は、ネットではリップヴァンウィンクルと名乗る陽気な女優だ。見知らぬ人の結婚式で七海の姉を演じ、飲み明かして姿を消す。豪邸に七海がメイドとしてやって来ると、もうひとりのメイドは真白だった。倒れた真白のマネージャーから、七海は彼女がアダルトビデオに出演していること、豪邸の借り主は彼女自身で、破産しかけていることを知る。ふたりはウエディングドレスのまま宴を開く。世界は私には優しすぎる、と真白は言い、一緒に死んでほしいと七海に頼む。翌朝、真白は自ら命を絶っていた。末期がんで、一緒に死んでくれる友達を探すよう、安室に金を払っていたのだ。葬儀では、父親を演じた男が本当の涙を流し、仕事をさげすんでいた母は、娘を理解しようと服を脱ぐ。
綾野剛安室行舛役
代理の出席者を手配する「なんでも屋」。依頼を受けて七海の結婚を壊し、そのあとも彼女に仕事を回し続ける。
安室行舛の物語
安室は、代理の出席者を手配する「なんでも屋」。七海の結婚式に偽の親族や友人をそろえ、やがて姑のカヤ子の依頼で、助けるふりをしながら七海を陥れ、結婚を壊す。そのあとも七海に仕事を回し続ける。見知らぬ人の結婚式での親族役、そして月給百万円の住み込みのメイド。実は、末期がんの真白から、一緒に死んでくれる友達を探してほしいと金で頼まれていた。翌朝、真白が頼んでいた葬儀社の男と屋敷にやって来る。七海とともに真白の遺骨を疎遠だった母親に届け、母が娘の仕事を理解しようと服を脱ぐと、泣きながら自分も裸になる。最後は、新しい部屋に移った七海のもとへ、粗大ごみの家具を運んでくる。
地曵豪鶴岡鉄也役
交流サイトで知り合った七海の夫。母親と近しく、妻の悪い噂をあっさり信じてしまう。
原日出子鶴岡カヤ子役
鉄也の母。金を払って七海を陥れ、浮気を責め立てて結婚から追い出す。
りりィ里中珠代役
真白の疎遠だった母。娘の仕事をさげすんでいたが、やがて悲しみがその軽蔑を突き破る。
この作品が問いかけるもの
『リップヴァンウィンクルの花嫁』が描くのは、お金で買える親密さだ。ネットで見つける友人、時間単位で雇う結婚式の客、買い物のように選ぶ夫、そして前払いで頼む、死の道連れまで。東日本大震災を機に岩井俊二が書いた草稿のひとつから生まれたこの物語は、その市場を残酷なものとしても、不思議に優しいものとしても描き、雇われた家族が葬儀で本当の涙を流す。浮かび上がるのは、ネットでつながる都市の孤独、演じるものとしての結婚、性を売る仕事とそこに向けられる軽蔑、そして遊びのような顔をして始まり、作中でもっとも真実のものになる女性同士の愛だ。何かをされるだけだった七海が、自分の声で話せる人になっていく道のりは小さく、けれど欠けたところがない。その優しさの底には、もっと厳しい問いがある。お金で買った優しさは、それでも愛でありうるのか。