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Cinema 月明かりの映画館

花束みたいな恋をした

We Made a Beautiful Bouquet

2021映画日本

465作品の星図のなかで見る

Moonlightの読みもの

Cinema『花束みたいな恋をした』と、同じものを好きでも同じ速度では生きられないことこの一篇を読む

ストーリー

結末まで書いています。

趣味がぴったり合った二人の5年間。仕事が共有物を殺していく。

2020年、東京。レストランで別々のテーブルについた男と女が、それぞれの連れの前で、イヤホンを片方ずつ分け合う若いカップルに文句を言おうと同時に立ち上がり、互いに気づく。山音麦と八谷絹。かつての恋人どうしだった。

2015年、大学生のふたりは京王線の明大前駅で終電を逃し、居合わせた人たちと深夜のカフェで語り明かす。好きな本も映画も音楽もお笑いも、驚くほど同じだった。店にいた押井守に気づいたのも、ふたりだけだった。恋人になったふたりは、卒業後フリーターになり、調布の多摩川沿いに部屋を借りて、拾った猫にバロンと名づける。イラストレーターを目指す麦の仕事は安く買い叩かれ、絹は簿記の資格を取って医院の事務の仕事に就く。訪ねてきた親たちに社会人としての責任を問われ、麦は仕送りを止められる。ふたりの暮らしを守るために営業職に就いた麦は、やがて仕事に呑みこまれていく。絵を描かなくなり、本を読まなくなり、ふたりで楽しんだ漫画やゲームにも興味を失う。会話も、体の触れ合いもなくなっていく。絹が、収入は下がっても好きなことを仕事にできる、加持の率いるイベント会社に移ると決めると、麦は遊びの延長だと見下し、言い争いの勢いで求婚する。仕事を辞めて好きなことをすればいい、と。絹は断る。

2019年、友人の結婚式のあと、ふたりはファミレスで別れ話をする。土壇場で麦は、結婚して、恋愛感情がなくなっても家族として続けていけばいいと言い出す。そのとき近くの席に座った若いふたりが、かつての麦と絹のように、好きなものについて語り合い始める。絹は店を飛び出し、追いかけた麦と抱き合って、ふたりは別れを決める。引っ越しまでの三か月、家具の行き先を決め、バロンをどちらが引き取るかを話し合い、一緒に好きなものを楽しみながら過ごす。

そして2020年。ふたりは言葉を交わさずに店を出て、連れに気づかれないよう、背中越しにそっと手を振る。帰宅した麦がストリートビューで昔の街並みを見ていると、そこに、ぼやけたふたりの姿が映っていた。

主な出演

  • 菅田将暉山音麦役

    イラストレーターを目指す大学生。絹との暮らしを守るために営業職に就き、絵を描かなくなっていく。

    山音麦の物語

    2015年、麦は明大前駅で終電を逃し、好きなものが驚くほど重なる絹と朝まで語り明かす。卒業後は多摩川沿いに部屋を借り、拾った猫にバロンと名づける。イラストは安く買い叩かれ、父には仕送りを止められる。営業職に就いても絵は続けられる、と言うが、そうはならない。本を読まなくなり、ふたりで楽しんだものにも興味を失う。絹がイベント会社に移ると決めると、遊びの延長だと見下し、その口論の勢いで求婚して断られる。2019年、別れ話の席で、結婚して家族として続けようと言い出すが、絹が店を飛び出すと追いかけ、抱き合って別れを決める。一年後、背中越しに手を振って別れ、ストリートビューに映るぼやけたふたりの姿を見つける。

  • 有村架純八谷絹役

    麦と好きなものが驚くほど重なる大学生。好きなことを仕事にすることを、あきらめない。

    八谷絹の物語

    絹は大学生のとき、明大前駅で終電を逃し、同じ本や映画やお笑いを愛する麦と出会う。多摩川沿いの部屋で一緒に暮らし始め、簿記の資格を取って医院の事務に就く。親たちに社会人としての責任を問われ、麦は営業職に就く。ふたりで楽しんだものに彼が興味を失い、会話も触れ合いもなくなっていくのを、彼女はそばで見ている。収入が下がっても好きなことを仕事にしたいと、加持のイベント会社に移る。遊びの延長だと言われ、口論の勢いで求婚されても、首を横に振る。2019年、別れ話のためのファミレスで、かつての自分たちのように好きなものを語り合う若いふたりを見て、店を飛び出す。追ってきた麦と抱き合い、別れを決める。一年後、振り返らずに手を振る。

  • オダギリジョー加持航平役

    絹が転職するイベント会社の社長。麦はその世界を遊びの延長だと見下す。

  • 小林薫山音広太郎役

    麦の父で花火職人。息子の仕送りを止め、社会人としての責任を求める。

この作品が問いかけるもの

『花束みたいな恋をした』は、仕事が恋に何をするのかを描く恋愛映画だ。麦と絹は、同じものを好きだったから恋に落ちた。映画は悪役も病気も三角関係も持ち込まずに、営業の仕事、長時間の労働、ちゃんとした大人になれという要求が、何かを好きでいるために必要な時間と心の余裕をどう奪っていくかを描く。日本の批評家たちはこれを、ひとつの世代の肖像として読んだ。書評家の三宅香帆は、正社員になった麦が本を読めなくなっていく姿を取り上げ、好きなものを手放さずにいられるかどうかが階級によって違うことを指摘した。国内の興行収入は38.1億円に達し、中国では1万スクリーンを超える規模で公開された。残るのは、優しくて容赦のない像だ。ある時期だけ互いにぴったりだったふたりと、選ばずに済ませるための方便として差し出された結婚。