EN
メニュー

Cinema 月明かりの映画館

LOVE LIFE

Love Life

2022映画日本

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

子を亡くした女性のもとに聾者の元夫が戻る。手話と沈黙で結婚を見つめる。

大沢妙子は、二郎と結婚してもうすぐ一年になる。団地の一室で、前の結婚で生まれた幼い息子・敬太と三人で暮らし、向かいの棟には二郎の両親が住んでいる。二郎の父・誠は、子連れで離婚歴のある嫁をいまだに認めていない。自分の誕生日と敬太のオセロ大会優勝を祝う席でも、妙子を「中古」と呼び、あとで謝る。手伝いに来た二郎の職場、市役所福祉課の同僚たちのなかに、妙子の知らない山崎という女性がいる。大人たちがカラオケで盛り上がるあいだに、敬太は浴室で足をすべらせて頭を打ち、水の張られた浴槽に落ちて亡くなる。

浴槽の水を抜いておけばと、妙子は自分を責める。葬儀の場に、ひとりのホームレスの男が現れ、妙子の頬を打ち、そして自分の顔を何度も殴る。何年も前に姿を消した敬太の父親で、ろう者の韓国人、パクだった。妙子は、彼の家族から預かっていたパスポートと手紙を渡して別れを告げる。だがパクが市役所で生活保護を申請すると、韓国の手話ができる人が必要になり、二郎は複雑な思いを抱えながらも、妙子が担当すべきだと言う。パクは仕事を見つけ、二郎の両親が引っ越すと、妙子は空いたその部屋にパクを住まわせる。二郎は、妙子と出会う前の恋人だった山崎を訪ね、ふたりの不幸を願ってしまったと泣く彼女に口づけする。家に戻った二郎は、ベランダに並ぶ妙子とパクの姿を見る。

韓国の父が危篤だという手紙が届き、パクは帰るための金を貸してほしいと頼む。フェリー乗り場へ送る途中、妙子は車を降りる。彼には私がついていないと、と言って、パクと船に乗る。韓国に着くと、パクは父の危篤は嘘だと打ち明ける。手紙は、別の妻とのあいだに生まれた息子の結婚式の知らせだった。敬太が死んで、もうひとりの息子の顔が急に見たくなったのだという。屋外の披露宴で、新郎は妙子に、父が来てくれてうれしいと笑う。突然の雨に客たちは建物へ駆け込み、ずぶ濡れの妙子だけがその場に残される。

帰国した妙子を、パクが拾ってきた猫が迎え、やがて二郎が帰ってくる。これからどうする、と二郎が聞く。わからない、と妙子は答える。散歩でもしようかと言う二郎に、妙子はまず、私の目を見て、と言う。それから、行こう、と応え、ふたりは並んで団地の広場を歩いていく。

主な出演

  • 木村文乃大沢妙子役

    市民生活相談センターで働く、再婚した母親。息子の死と、その父親の再来によって、人生が大きく揺らぐ。

    大沢妙子の物語

    誕生会のさなか、敬太が浴槽で亡くなり、妙子は水を抜いておけばと自分を責める。葬儀の場で、何年も前に姿を消した元夫のパクに頬を打たれる。公園でパスポートと手紙を渡して別れを告げるが、放っておけない。役所では手話で彼の申請を助け、空いた義父母の部屋に住まわせ、敬太の死から使えずにいた風呂に入るあいだ、そばにいてほしいと頼む。父が危篤だという手紙が届くと、フェリー乗り場へ向かう二郎の車を降り、パクと船に乗る。韓国で、危篤は嘘で、別の息子の結婚式だったと知る。雨の披露宴にひとり取り残され、ずぶ濡れになる。帰国した彼女は、これからどうすると聞く二郎に、わからない、と答え、私の目を見て、と言ってから、行こう、と応える。

  • 永山絢斗大沢二郎役

    妙子の再婚相手で、市役所福祉課の職員。優しく誠実だが、悲しみのなかの妙子に手が届かない。

    大沢二郎の物語

    二郎は父の誕生会に、職場の同僚たちとのサプライズを用意する。そのなかには、妙子のために彼が別れた山崎もいた。敬太が亡くなると、君のせいではないと妻を慰め、パクの生活保護の担当は妙子がすべきだと言い張る。両親の引っ越しに付き添った日、休職中の山崎を訪ね、ふたりの不幸を願ってしまったと泣く彼女に口づけし、こういうとき人の目を見られないのね、と言われる。ベランダに並ぶ妙子とパクを見た彼は、パクの前で妻に口づけして押しのけられる。フェリー乗り場へ向かう途中で車を降りた妻を、引き止められない。帰ってきた妙子に、これからどうすると尋ね、まず私の目を見て、と言われる。

  • 砂田アトムパク・シンジ役

    妙子の元夫で、敬太の父親。ろう者の韓国人で、何年も前に姿を消し、路上生活者となって戻ってくる。

    パク・シンジの物語

    パクは新聞で敬太の死を知り、葬儀に現れて妙子の頬を打ち、自分の顔を何度も殴る。公園で寝泊まりする路上生活者になっていた。家族が預けていたパスポートと手紙を渡されて別れを告げられるが、生活保護の申請で手話の間を取り持てるのは妙子だけで、まもなく仕事を得て、空いた二郎の両親の部屋に住む。拾ってきた猫が逃げ、二郎が見つけてくると、この猫はあなたを選んだ、と託す。韓国の父が危篤だと言って渡航の金を借り、妙子とともに船に乗る。着くと彼は嘘を打ち明ける。手紙は前妻とのあいだの息子の結婚式の知らせで、敬太が死んで、その子の顔が見たくなったのだ。息子は父が来てくれたことを喜び、妙子はひとりで日本へ帰っていく。

  • 山崎紘菜山崎理佐役

    二郎の同僚で、かつての恋人。妙子のもとへ去った二郎への思いを引きずっている。

  • 田口トモロヲ大沢誠役

    二郎の父。子連れで離婚歴のある嫁を、どうしても受け入れられない。

この作品が問いかけるもの

この映画が問うのは、ふたりを結んでいたものが失われたあと、何がふたりをつなぎとめるのか、ということだ。妙子の息子は、にぎやかな集まりのさなかに一瞬で命を落とす。映画は、悲しみが結婚をどう組み替えていくかを追う。正しく慰めながら、妻に届かない夫。葬儀の場で彼女の頬を打ち、その痛みが自分の痛みと同じだと妙子に感じさせる元夫。これは言葉を誰と分かち合うかの映画でもある。妙子は韓国の手話でパクと話すことができ、物語の多くは、二郎には追えないところで交わされる。声高にならずに、離婚した母親への義父の蔑み、路上生活と生活保護、頼ってくる人がどれほどたやすく嘘をつくかにも触れる。矢野顕子の1991年の同名曲から生まれ、2022年のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された。物語は答えではなく、散歩で終わる。