先に愛した人
Dear Ex
ストーリー
結末まで書いています。
亡き夫の保険金の受取人が男の恋人だった。息子はその男の家に転がり込む。
ソン・ジェンユエンが亡くなったあと、妻のリウ・サンリエンは、夫が生前に生命保険の受取人を書き換えていたことを知る。息子の将来のために当てにしていたお金は、ジェイという男に渡ることになっていた。夫が家族を捨ててまで一緒にいた、小劇団の演出家だ。サンリエンは十代の息子チェンシーを連れてジェイの部屋に乗り込み、お金を返せと迫る。いい加減そうに見えるジェイは、保険のことなど知らないと言って突っぱねる。
語り手のチェンシーは、母は金のことしか頭にないと思っている。父の遺品を捨てた母と大げんかをした彼は家を飛び出し、迷惑顔のジェイの部屋に転がり込む。ジェイが演出する舞台の稽古についていくうちに、チェンシーは気づき始める。この男は気楽なのではない。悲しみの底にいるのだ。回想が明かしていく。何年も前、ジェイとジェンユエンは劇団で出会い、恋に落ちた。けれどジェンユエンは家庭を持つためにジェイと別れ、結婚した。やがて自分の余命を知った彼は、自分はゲイだと妻に告げて家を出て、最後の月日をジェイと過ごしたのだった。
サンリエンは息子を連れ戻そうと通い続ける。ジェイの母親が息子の性的指向を知らないと知ると、金を払わなければばらすと脅し、結局は打ち明けてしまう。そんなある日、ジェイは男たちに襲われて大けがを負う。病院へ運んだサンリエンとチェンシーは、真相を知る。ジェイはジェンユエンが助かるかもしれない手術のために闇金から借金をしていた。ジェンユエンが受取人をジェイに変えたのは、その借金から彼を守るためだった。
怪我をおしてジェイは初日の劇場に戻り、サンリエンとチェンシーは客席から舞台を見届ける。終演後、ジェイの母が花束を手に現れ、ふたりは涙ながらに抱き合う。サンリエンは保険金をジェイに譲り、チェンシーは母のもとへ帰っていく。
主な出演
ロイ・チウジェイ役
小劇団の演出家で、ジェンユエンの恋人。保険金の受取人となり、投げやりな態度の裏に悲しみを隠している。
ジェイの物語
ジェイはパジャマ姿でバイクを乗り回し、小劇団で役者と演出家を兼ね、何ひとつ気にかけていないように見える。保険のことなど知らなかったと言う。何年も前、彼とジェンユエンはその劇団で恋に落ちた。ジェンユエンは家庭を持つために去り、死期を知って戻ってきて、最期の月日を彼と過ごした。その息子が押しかけてくると、迷惑顔で居候させ、愛する人を失ってからは毎日が一万年なのだと語る。サンリエンに、ゲイだと母親にばらすと脅され、結局は打ち明けられてしまう。男たちに襲われて脚を折られ、真相が明らかになる。ジェンユエンが助かるかもしれない手術のために、闇金から借金をしていたのだ。それでも初日の舞台に立ち、終演後、花束を持って現れた母と泣きながら抱き合う。
シェ・インシュエンリウ・サンリエン役
ジェンユエンの妻。気が強く神経質な母親で、結婚は偽りだったのかと苦しみ、保険金を取り戻そうとする。
リウ・サンリエンの物語
サンリエンは何年も、よき妻であろうとし、息子には神経質なほど厳しい母親だった。やがて夫はゲイだと告げて家を出ていき、その死後、息子の将来のために当てにしていた保険金は夫の恋人に渡ることになる。彼女はジェイの部屋に乗り込み、一週間以内に払わなければ家庭を壊したゲイだと世間にばらすと言い放つ。家では息子の食事も成績も将来も自分が決め、父の遺品を捨てたことで、チェンシーはジェイのもとへ出ていく。夫のせいで愛されない愛人のようにされたと恨みながら息子を連れ戻しに通い、ジェイの母親に彼の秘密を打ち明けてしまう。ジェイが襲われた病院で、夫が受取人を変えた理由を知る。客席から舞台を見届け、保険金をジェイに譲り、息子は家に帰ってくる。
ジョセフ・ホアンソン・チェンシー役
ジェンユエンの十代の息子で、物語の語り手。母のもとを飛び出し、父が愛した男の家に転がり込む。
ソン・チェンシーの物語
物語を語るチェンシーは、最初は確信している。母は金のことしか頭になく、父が自分たちを捨ててまで一緒にいた男は、ろくでもない、たぶんドラッグでもやっている人間だと。母の決まりごとにも、母の勧めで通わされるカウンセリングにも息が詰まり、父の遺品を捨てられて激怒した彼は、迷惑がるジェイの部屋に転がり込み、稽古場までついていく。一緒に暮らすうちに、ジェイは気楽なのではなく、悲しみの底にいるのだと気づいていく。男たちに襲われたジェイを母とふたりで病院へ運び、そこで父が保険金をジェイに残した理由を知る。初日の舞台を母と並んで客席から見届け、そのあと母と一緒に家へ帰る。
スパーク・チェンソン・ジェンユエン役
チェンシーの父。回想の中に現れ、家族のもとを去って最期の日々をジェイと過ごした。
この作品が問いかけるもの
『先に愛した人』は、ひとつの死を、性的指向を隠していた男が残していった人々の側から見つめる。思っていたのとは違う結婚のなかで長年よき妻であろうとした妻、その母を責める息子、そして人前で悲しむ場所もなく、愛のために背負った借金を抱える恋人。いちばん鋭いのは、三人がみな同じひとりの男を失ったこと、そしてほかならぬ妻が、愛されなかった愛人のような気持ちを抱えていることだ。彼らが奪い合う保険金は、この物語でほとんど唯一、法が名前を与えているものだ。金馬奨では主演女優賞など三部門を受賞し、台北電影奨では最優秀劇映画賞と主演男優・主演女優の両賞を得て、アカデミー賞の台湾代表にも選ばれた。夫が本当に愛した人に、家族は何を負うのか。映画はその問いに、悪人を作らずに答える。