小公女
Microhabitat
ストーリー
結末まで書いています。
家賃が上がったとき、彼女はウイスキーとタバコではなく部屋を手放す。
ミソは三十代。ソウルで家事代行の仕事をして日銭を稼いでいる。家計は正確だ。暖房のない狭い部屋の家賃。寒すぎて恋人のハンソルと服を脱ぐのも春までお預けにするほどの部屋だ。若白髪を抑える漢方薬。そして、どうしても手放さないふたつの楽しみ、タバコと、行きつけのバーで飲む一杯のウイスキー。漫画家志望のハンソルは工場の寮で暮らしている。2015年を迎えるころ、大家は家賃を上げ、タバコの値段は二倍以上に跳ね上がる。タバコもウイスキーもやめる気のないミソは、部屋を手放す。スーツケースに荷物を詰め、昔一緒にバンドをやっていた五人の仲間の名を書いたメモを手に、泊まる場所を探して歩き始める。
昼休みに点滴を打ちながら働くムニョンの部屋には、泊まる余地がない。キーボードのヒョンジョンは、夫とその両親と暮らす家に温かく迎えてくれるが、夫は壁越しに不満をぶつけ、ヒョンジョンは家族全員の食事を作る日々の疲れを打ち明ける。結婚八か月で妻に去られたドラマーのデヨンには空き部屋があるが、男の家に泊まるのはハンソルが耐えられない。ボーカルのロギは、嫁を待ちわびる両親と暮らしていて、両親はミソを息子の嫁にしようとする。裕福な母親になったギターのチョンミは喜んで迎え入れるが、ミソが夫の前で昔の奔放な日々に触れたことで、彼女を追い出す。疲れ果てたハンソルは漫画をあきらめ、借金を返すためにサウジアラビアへ働きに行くと決める。めったに泣かないミソは、別れ際に声をあげて泣く。いくつ部屋を見て回っても、借りられる部屋はない。
数年後。昔のバンド仲間たちが葬儀の席で顔を合わせ、ミソはどうしているのかと話す。誰も彼女に連絡がつかなかった。白髪の女がひとり、ミソに似た姿で街を歩いていく。夜、その女は道路脇に張った小さなテントの中にいる。
主な出演
イ・ソムミソ役
家事代行で働く三十代の女性。タバコとウイスキーではなく部屋を手放し、昔のバンド仲間の家を渡り歩く。
ミソの物語
ミソは家事代行の日当で暮らし、家計簿を一ウォン単位でつけている。家賃、白髪を抑える漢方薬、タバコ、バーでの一杯のウイスキー。家賃が上がり、タバコが倍以上に値上がりすると、楽しみではなく部屋を手放し、昔のバンド仲間の名を書いたメモを手に歩き出す。ヒョンジョンの家では朝ごはんを作ってから去り、ハンソルが耐えられないのでデヨンの空き部屋を出て、ロギの両親に嫁に迎えられそうになると次へ移り、チョンミの家でお金を貯めるが、昔の奔放な日々を口にして追い出される。ハンソルはサウジアラビアへ発ち、見て回るどの部屋にも手が届かない。数年後、仲間たちは彼女の行方を知らない。ミソに似た白髪の女がひとり、道路脇の小さなテントで夜を過ごしている。
アン・ジェホンハンソル役
ミソの恋人。工場の寮で暮らす漫画家志望の青年で、借金を返すためにサウジアラビアへ働きに出る。
ハンソルの物語
ハンソルは漫画家を目指しながら工場で働き、その寮で暮らしている。だからミソとの逢瀬は、暖房のない彼女の部屋か、献血のお礼にもらう映画の券が頼りだ。寒すぎて服も脱げない部屋で、ふたりは春までお預けにしようと決める。いつかふたりで暮らせる家を持つことが、彼のただひとつの望みだ。ミソが部屋を手放して昔の仲間の家を渡り歩き始めると、男であるデヨンの家に泊まることに耐えられず、ミソはそこを出る。切り詰めた暮らしに疲れ果てた彼は漫画をあきらめ、学費の借金を数年で返せるというサウジアラビアでの仕事に志願する。ふたりは別れ、彼は旅立っていく。
キム・グッキチョン・ヒョンジョン役
バンドの元キーボード奏者。夫と義父母のために料理を作る日々を送り、ミソを温かく迎える。
イ・ソンウクハン・デヨン役
元ドラマー。八か月で終わった結婚のあと、空き部屋と恥ずかしさを抱えてひとり暮らしている。
チェ・ドンムンキム・ロギ役
バンドの元ボーカル。息子を結婚させたい両親と暮らし、ミソを嫁にと迫られる。
キム・ジェファチェ・ジョンミ役
元ギター奏者。大きな家に住む裕福な母親となり、ミソを迎え入れたのちに追い出す。
この作品が問いかけるもの
『小公女』は住まいの物語であり、何が「必要」かを誰が決めるのかという物語だ。ミソの選択はばかげて見えるが、映画はほかの道の行き着く先を見せる。昼休みに点滴を打つ友人、義父母のために料理を作り続ける妻、八か月で終わった結婚の恥を抱えてひとり残された男、息子を結婚させたくてたまらない家族、子どもは人生唯一の苦しみだと言いかけて祝福だと言い直す裕福な母親。家賃は上がり、タバコは倍の値段になる。決まりどおりに生きた仲間たちには家があるが、ほかにはあまりない。監督のチョン・ゴウンは、自分なりのフェミニズムの視点をほのかに映したかったと語っている。ミソは小さな楽しみを謝らない。ソウル独立映画祭で最優秀長編映画賞を受賞。映画は、白髪になりテントで暮らす、たぶん今も彼女のままのミソを残す。それが自由か、その代償かは言わない。