ジョイランド わたしの願い
Joyland
ストーリー
結末まで書いています。
ラホールの既婚男性が、トランス女性が率いるダンス一座に加わる。上映禁止、解除、そして再び禁止。
ラホールの下町。ラナ家は三世代が一つ屋根の下に暮らし、妻に先立たれた家長アマヌッラーが一家を仕切っている。彼が望むのは男の孫だ。長男サリームの妻ヌッチは、四人目の娘を産んだばかり。次男のハイダルは長く職がなく、家事を手伝って暮らしている。その妻ムムターズは、サロンでのメイクアップの仕事に誇りを持っている。友人の紹介で、ハイダルは官能的なダンスを見せる劇場のバックダンサーになる。主役は、舞台での居場所を懸けて闘うトランスジェンダー女性のビバだ。息子が職を得たとだけ聞いたアマヌッラーは、ムムターズに仕事を辞めさせる。
ハイダルはビバに惹かれていく。劇場に飾る等身大の看板づくりを手伝い、彼女の部屋を訪ね、病院で初めて見かけた日に彼女が浴びていた血は、目の前で撃ち殺された仲間のものだったと知る。ふたりは口づけを交わす。家事に閉じこめられ、夫と過ごす時間も失ったムムターズは落ち着かない。ある夜、彼女はヌッチと遊園地「ジョイランド」へ抜け出す。やがてお腹の子が男の子だとわかると、逃げ出したい気分だとヌッチにこぼし、冗談よと笑ってみせる。アマヌッラーが隣家の未亡人ファイヤーズと過ごす穏やかな時間さえ、彼女の息子には恥として断じられる。
ようやくベッドをともにしようとした夜、受け入れる側になろうとしたハイダルを、ビバは激しく拒み、二度と来るなと追い出す。家に戻ったハイダルは、男の子を授かったとムムターズに告げられて泣き崩れる。
アマヌッラーの七十歳の誕生祝いのあと、ムムターズは自ら命を絶つ。葬儀にはビバも姿を見せる。お腹の男の子まで殺したと死者を責めるサリームに、ヌッチは、悪いのはこの家の全員だと言い返す。記憶の中で、見合い結婚を前にしたハイダルは、本当に自分と結婚したいかとムムターズに尋ね、彼女は、結婚しても働き続けることを条件に応じる。そして現在。ハイダルは初めてラホールを離れて海へたどり着き、波の中へ歩み入っていく。
主な出演
アリ・ジュネージョーハイダル役
ラナ家のおだやかな次男。長く職がなく、バックダンサーの仕事に就いてビバに恋をする。
ハイダルの物語
ハイダルは義姉ヌッチと家事をこなし、外で働くのは妻のムムターズだ。男たちはそんな彼を笑う。官能的な劇場のバックダンサーの職を得ると、家族には支配人として雇われたと偽る。父がムムターズに仕事を辞めろと命じても、彼は妻のために抗わない。はじめは踊れなかったが、やがて踊れるようになる。ビバが欲しがっていた等身大の看板づくりを手伝い、ある夜、ラホールを出たことがないと話したあと、家でムムターズに海のことを尋ね、ビバのもとへ引き返して口づけを交わす。だがベッドで受け入れる側になろうとして、ビバに追い出される。男の子を授かったと妻に告げられ、泣き崩れる。妻の死のあと、彼は初めてラホールを離れて海にたどり着き、波の中へ歩み入っていく。
アリーナ・ハーンビバ役
官能的な舞台で踊るトランスジェンダー女性。居場所を懸けて闘い、女性として愛されることを望む。
ビバの物語
ビバは客がろくに見ない幕間の踊り手だが、引き下がらない。ほかの踊り子と同じ等身大の看板をめぐって支配人とやり合い、ハイダルの助けで作り上げる。出先では男に体を触られ、バックダンサーたちが彼女の体について下世話な質問をハイダルに浴びせると、激しく言い返す。彼女はハイダルを近づける。病院で初めて会った日に浴びていた血は、目の前で撃ち殺されたトランスジェンダーの仲間のものだったと打ち明け、ふたりは海の話をして口づけを交わす。舞台の電気が落ちた夜も、踊り続けて客席を沸かせる。だがベッドでハイダルが受け入れる側になろうとすると、激しく怒って追い出し、自分のもとにも劇場にも二度と来るなと告げる。ムムターズの葬儀には姿を見せる。
ラスティ・ファルークムムターズ役
ハイダルの妻。メイクアップの仕事を愛していたが、夫の就職と引き換えに辞めさせられる。
ムムターズの物語
ハイダルが職を得ると、義父はムムターズに家にいるよう命じ、夫は彼女の味方をしない。ヌッチと並んで家事に明け暮れ、夜に働くようになった夫とはすれ違うばかりだ。ある夜、ヌッチと遊園地「ジョイランド」へ抜け出す。お腹の子が男の子だとわかり、家族は沸き立つ。ヌッチには、逃げ出したいとこぼし、冗談よと笑ってみせる。男の子だと夫に告げると、彼は泣き崩れる。アマヌッラーの七十歳の誕生祝いのあと、ムムターズは自ら命を絶つ。葬儀で、お腹の男の子まで殺したと責めるサリームに、ヌッチは、悪いのはこの家の全員だと言い返す。最後に彼女が現れるのはハイダルの記憶の中だ。見合い結婚を前に、本当に結婚したいかと尋ねた彼に、彼女は働き続けることを条件に応じていた。
サルワット・ギーラーニヌッチ役
長男の妻で四人の娘の母。家を切り盛りし、ムムターズのいちばん近い味方になる。
サルマーン・ピールザーダラナ・アマヌッラー役
車椅子で暮らす、妻に先立たれた家長。一家を仕切り、男の孫の誕生を待ちわびる。
サニア・サイードファイヤーズ役
ラナ家と親しい隣家の未亡人。アマヌッラーとの交流を、息子に恥とみなされる。
この作品が問いかけるもの
本作が描くのは、家の名誉と、男と女はこうあるべきだという社会の思い込みが、その内側にいる全員を押しつぶしていく様だ。男たちも例外ではない。ムムターズは仕事を奪われ、夫のまなざしを失い、やがて生きる意志を失う。ハイダルは父の求める男になれない。トランスジェンダー女性のビバは、舞台の上では欲望され、舞台を降りれば蔑まれる。家長でさえ、穏やかな友情を許されない。パキスタン映画として初めてカンヌ国際映画祭に出品され、「ある視点」部門の審査員賞とクィア・パルム賞を受けた。だが本国では公開直前に政府が上映を禁じ、委員会がわずかなカットで公開を認めたあとも、舞台であるラホールを含むパンジャーブ州では上映が禁じられたままだ。残るのはその優しさである。悪人はひとりもいないのに、自由な者もほとんどいない。