仮面/ペルソナ
Persona
ストーリー
結末まで書いています。
口をきかない女優と看護師、島。浜辺の乱交の独白は“見せず”に語られる。
映写機が回りはじめ、蜘蛛、磔刑、殺される羊といった脈絡のない映像が流れる。病院のような場所で目を覚ました少年は、ぼやけたふたりの女の顔が映る大きな画面に手を伸ばす。舞台女優のエリーサベット・ヴォーグレルは、『エレクトラ』を演じている最中に突然口をきかなくなり、それきり話さない。医師は、体や心の病ではなく本人の意思によるものだと言う。若い看護婦のアルマが、彼女の世話を任される。病室でエリーサベットは、ベトナム戦争の報道でひとりの男が自ら命を絶つ映像を見ておびえ、夫からの手紙に同封された息子の写真を破り捨てる。医師は、ふたりを海辺の別荘で過ごさせることにする。
別荘ではアルマが話し、エリーサベットが聞く。こんなに話を聞いてもらったことはない、とアルマは言う。婚約者カール=ヘンリックのこと。そして誰にも話さなかった出来事。ある日、知り合ったばかりのカタリーナと浜辺にいると、少年がふたり現れ、女ふたりは彼らを性行為に引き込んだ。少年たちへの性的虐待だが、アルマはそれを、恥と、どこか懐かしさの入り混じった記憶として語る。そのあと彼女は妊娠し、中絶した。町へ手紙を出しに行ったアルマは、封のされていないエリーサベットの手紙を読み、自分が「観察」され、あの話まで書かれていることを知る。怒りに駆られて彼女を傷つけようとし、やめてと懇願されて手を止める。エリーサベットの声をはっきり聞いたのは、それが初めてだった。ひどい人だとなじったあと、アルマは逃げる彼女を追いかけて許しを乞う。
ある夜、別荘を訪れたエリーサベットの夫は、アルマを妻の名で呼ぶ。人違いだと言いながら、アルマは彼に抱かれる。やがてアルマは、エリーサベットの物語を本人に語って聞かせる。母性だけが欠けていると言われて子を身ごもり、後悔して自分で妊娠を終わらせようとして果たせず、愛を求める息子を疎んじてきたこと。同じ話が二度語られ、ふたりの顔はひとつに重なる。私はあなたではない、とアルマは言い張る。彼女はエリーサベットに「無」という一語を言わせ、ひとりで別荘を去る。撮影隊のカメラがエリーサベットをとらえ、冒頭の映写機は止まる。
主な出演
ビビ・アンデショーンアルマ役
口をきかない女優の世話を任された若い看護婦。誰にも話さなかったことまで彼女に語ってしまう。
アルマの物語
若い看護婦のアルマは、婚約者のいる身で、エリーサベットの世話を任される。海辺の別荘では彼女が話し、エリーサベットが聞く。ある夜、誰にも話さなかったことを語る。浜辺でもうひとりの女と、未成年の少年ふたりを性行為に引き込んだこと。それは少年たちへの性的虐待だった。そして、そのあとの中絶。「観察」されていると手紙に書かれているのを読んで傷つき、やがて激怒する。脅し、ひどい人だとなじり、逃げる彼女を追って許しを乞う。エリーサベットの夫に妻と間違えられると、人違いだと言いながら彼に抱かれ、すべては嘘だと叫ぶ。エリーサベットの物語を本人に語り、私はあなたにはならないと言い張る。「無」という一語を彼女に言わせると、ひとりで別荘を去る。
リヴ・ウルマンエリーサベット・ヴォーグレル役
舞台の最中に口をきかなくなった女優。アルマの話を聞き、見つめ、手紙に書きとめる。
エリーサベット・ヴォーグレルの物語
エリーサベットは『エレクトラ』の舞台の最中に黙りこみ、三か月、病室のベッドで動かずにいる。ベトナム戦争の報道でひとりの男が自ら命を絶つ映像を見ておびえ、息子の写真を破り捨てる。別荘では散歩をし、手紙を書き、耳を傾ける。ある手紙には、アルマを観察するのはとても興味深いと書き、打ち明けられたことまで記す。怒ったアルマに脅されると、初めて声を出す。やめて。訪ねてきた夫がアルマを妻と取り違えると、アルマの手を夫の頬に添えさせる。やがてアルマが彼女の物語を語る。欠けていた母性を求めて身ごもり、妊娠を終わらせようとして果たせず、愛を求める息子を疎んじてきたこと。一語だけと頼まれ、「無」と答える。最後に、撮影隊が彼女を撮っている。
マルガレータ・クローク医師役
エリーサベットの沈黙を本人の意思と見立て、ふたりを海辺へ送り出す医師。
グンナール・ビョルンストランドエリーサベットの夫役
エリーサベットの夫。ある夜、別荘を訪れ、アルマを妻の名で呼ぶ。
この作品が問いかけるもの
『仮面/ペルソナ』が問うのは、ひとりの人間がもうひとりの人生すべての聞き手になるとき何が起きるか、そして自己とは持っているものなのか、演じているものなのかということだ。アルマは語り、打ち明け、利用される。黙ったままのエリーサベットはすべてを受けとめて何も返さず、やがて映画は、ふたりがひとりである可能性まで示す。その底には母性がある。産んだ子を望まなかった女と、妊娠を終わらせ、その罪悪感をいまも抱えている女。ベルイマンは肺炎の療養中に九週間でこの作品を書いた。スウェーデンの映画賞で作品賞を受け、英米では一部を削って公開された。2012年に英国映画協会が発表した批評家投票では、史上17位に選ばれている。意味をめぐる議論はいまも続き、ベルイマン自身は、考えはあるが明かさないと語った。