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Cinema 月明かりの映画館

恋人までの距離(ディスタンス)

Before Sunrise

1995映画アメリカ、オーストリア

465作品の星図のなかで見る

Moonlightの読みもの

Cinema『ビフォア・サンライズ』と、一晩だけだから言えることこの一篇を読む

ストーリー

結末まで書いています。

ウィーンを歩く一夜。『ビフォア・サンセット』(2004)『ビフォア・ミッドナイト』(2013)が9年ごとに続く。

1994年6月16日、ブダペストを発った列車の中。隣で言い争うオーストリア人夫婦を避けて席を移ったフランス人の女子学生セリーヌに、通路の向こうのアメリカ人青年ジェシーが声をかける。セリーヌは祖母を訪ねた帰りで、パリの大学に戻るところだ。ジェシーは翌朝の飛行機で帰国するためにウィーンで降りるが、ホテルに泊まる金もない。列車がウィーンに着くと、彼は一緒に降りて夜の街を歩こうと誘う。10年後か20年後、結婚生活に不満を抱いたとき、別の男を選んでいたらどうなっていたかと考えるかもしれない。いま確かめておけば、僕もほかの男と変わらないとわかるだろう、と。セリーヌは列車を降りる。

ふたりは店じまいを始めた夕暮れのウィーンを歩き、愛や死や宗教について、目に映る街のことについて語り合い、日没の大観覧車のてっぺんで口づけを交わす。ドナウ運河のほとりでは、好きな言葉を入れて詩を書くという詩人に「ミルクシェイク」という言葉を渡し、一篇の詩を受け取る。ジェシーは、あらかじめ書いてあったのだろうと疑う。カフェでは友達に電話するふりをして、遊びに託して互いへの気持ちを打ち明ける。セリーヌは、半年前に恋人から、君は僕を愛しすぎると言われて別れたことを明かす。ジェシーは、マドリードに留学中の恋人に会いにヨーロッパへ来たが、着いてすぐに別れを告げられ、格安だと言った帰りの便も本当はただの逃避だったと打ち明ける。

もう二度と会えないだろうとわかっているふたりは、残された時間を大切にしようと決める。公園でワインを分け合いながら、一夜をともにするかどうかを話す。一夜限りの相手にはなりたくないと言うセリーヌに、ジェシーは、二度と会えないくらいなら結婚するほうを選ぶと答える。ふたりはそこで結ばれたことがほのめかされる。

翌朝、駅のホームで、セリーヌの列車が出る間際、ふたりはあえて連絡先を交換しないと決める。そのかわり、半年後に同じホームで会う約束をする。列車は走り出し、ふたりはそれぞれひとりで旅を続ける。どちらも、穏やかな表情を浮かべて。

主な出演

  • イーサン・ホークジェシー役

    ヨーロッパをひとりで旅してきたアメリカ人の青年。ウィーンで、列車で出会った女性に一緒に降りようと持ちかける。

    ジェシーの物語

    ジェシーは、マドリードに留学中の恋人に会いにヨーロッパへ来たが、着いてまもなく別れを告げられた。格安だと言った帰りの便も、本当はただの逃避だったと、彼はのちに打ち明ける。ブダペストからの列車で出会ったセリーヌを、何年もたってから、あのとき降りていたらと思い悩まずにすむからと言って、ウィーンで一緒に降りようと誘う。夜のあいだ、彼は皮肉屋を演じ続ける。詩人の詩はあらかじめ書いてあったものだし、愛とはひとりでいられない者どうしの逃避だ、と。だが夜の終わりの公園で、二度と会えないくらいなら結婚するほうを選ぶと彼女に告げる。駅でふたりは連絡先を交換しないと決め、半年後に同じホームで会う約束をする。彼はひとりで旅を続ける。

  • ジュリー・デルピーセリーヌ役

    パリへ帰る途中のフランス人の大学生。好奇心が強く率直で、ひと晩だけ彼とウィーンを歩くことを選ぶ。

    セリーヌの物語

    セリーヌはブダペストの祖母を訪ねた帰りで、列車の中で言い争う夫婦を避けて席を移る。ジェシーとウィーンで列車を降り、その夜、13歳のとき初めて訪れた、名もない人々の眠る墓地へ彼を連れていく。もし神がいるなら、それは誰かの中ではなく、ふたりのあいだのほんの小さな隙間にいるのだと語り、人のすることはみな、少しでも多く愛されるためではないかと問いかける。半年前、愛しすぎると言われて恋人に去られたことも打ち明ける。公園では、一夜限りの相手にはなりたくないとジェシーに告げる。朝、列車の発車を前に、ふたりは連絡先を交換しないと決め、半年後にこのホームで会う約束をする。彼女はひとり、パリへ向かう。

  • ドミニク・キャステル詩人役

    ドナウ運河のほとりにいる詩人。ふたりが選んだ言葉を織り込んで詩を書いてみせる。

この作品が問いかけるもの

『恋人までの距離(ディスタンス)』は、ほとんど会話だけでできた映画で、ひと晩しかないと知っている見知らぬふたりのあいだで、言葉が何を起こしうるのかを描く。賭けられているのは、自分を相手に明かすかどうかだけだ。映画はそれで十分だと考えている。問いは静かだ。耳を傾けてもらうことの親密さ、誰かの通りすがりの思い出になることへの怖れ、二度と会わない相手にだからこそ言える本音、そして連絡の手段を持たずに交わす約束。リンクレイター監督はベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受け、作品は2025年に米国の国立フィルム登録簿に選ばれた。続く『ビフォア・サンセット』(2004年)と『ビフォア・ミッドナイト』(2013年)は9年ごとのふたりを追うが、この第一作は、約束が守られるかどうかわからないまま、駅のホームで終わる。