バーガンディー公爵
The Duke of Burgundy
ストーリー
結末まで書いています。
二人の女、蝶の研究所、そして服従する側が静かに主導権を握るSMの儀式。キンクを描いた最も優しい映画。
エヴリンは、年上の鱗翅類学者シンシアのもとで蝶と蛾を学び、彼女の家でメイドとして働いている。毎日は儀式のように繰り返される。エヴリンがやって来て呼び鈴を鳴らす。シンシアは家事を言いつけ、掃除の出来をとがめ、罰を与える。ふたりは恋人どうしで、罰はその愛のかたちの一部だ。
やがて、この儀式を書いているのがエヴリンだとわかってくる。彼女は場面ごとの指示とシンシアの台詞を書き出し、シンシアはそれを毎日同じように演じる。エヴリンにとっては胸の高鳴る時間だが、シンシアはしだいに、ただ恋人を喜ばせるためだけに演じるようになる。誕生日の贈り物として、シンシアは、罰としてエヴリンが眠るための引き出し付きのベッドを家具職人に注文する。だが完成まで時間がかかると聞いたエヴリンは落胆し、贈り物を断る。かわりに彼女は、夜は箱に閉じこめてほしいと求める。シンシアは応じるが、離れて過ごす夜を恨めしく思う。箱を動かして腰を痛めた彼女は、自分の年齢を意識するようになる。
ほころびは広がっていく。シンシアは、ほかの講師の靴をエヴリンが磨いたと責め、それを裏切りだと言う。エヴリンの誕生日、シンシアは彼女に自分でケーキを焼かせ、その顔に足をのせたままケーキを食べる。エヴリンは嫌だと感じ、取り決めた合図の言葉「ピナストリ」を口にする。シンシアはそれを無視する。
次にいつもの場面を始めたとき、シンシアは役を降りて泣きだす。エヴリンは彼女を慰め、愛していると告げる。指示を書いた紙は燃やされ、ふたりは一緒に箱を家の外へ運び出す。映画の最後、エヴリンは再び玄関に立って呼び鈴を鳴らし、同じ一日がまた始まる。
主な出演
シセ・バベット・クヌッセンシンシア役
年上の鱗翅類学者。恋人が書いた儀式で厳しい女主人を演じ続け、その役に疲れはじめている。
シンシアの物語
シンシアは蝶と蛾の学者で、家では恋人のエヴリンに厳しい女主人を演じている。台詞はエヴリンの台本どおりで、毎日同じ場面が繰り返される。だが、その役に疲れている。いびきをかき、ゆったりした寝間着を好み、新しい台詞を求められると困り果てる。エヴリンの誕生日に引き出し付きのベッドを注文するが、間に合わないとわかると、求められるまま、夜は彼女を箱に閉じこめる。離れて眠る夜を恨めしく思い、箱を動かして腰を痛める。ほかの講師の靴を磨いたとエヴリンを責め、誕生日には彼女の顔に足をのせたままケーキを食べ、合図の言葉を無視する。いつもの場面の途中で、役を降りて泣きだす。エヴリンに慰められ、ふたりで箱を家の外へ運び出す。そしてまた、呼び鈴が鳴る。
キアラ・ダンナエヴリン役
蝶と蛾を学ぶ年下の学生。シンシアのメイドを演じながら、ふたりが演じる場面をすべて自分で書いている。
エヴリンの物語
エヴリンは毎日自転車でシンシアの家へ通い、呼び鈴を鳴らして、叱られ罰を受けるメイドを演じる。その場面を書いているのは彼女自身で、シンシアの台詞から、玄関で待たされる時間まで決めている。そして、さらに先を求める。誕生日のためのベッドが間に合わないと知ると受け取りを断り、夜は箱に閉じこめてほしいと頼む。シンシアが役に疲れるにつれ、望みは満たされなくなる。誕生日には自分でケーキを焼かされ、顔に足をのせられる。合図の言葉「ピナストリ」を口にしても、無視される。次の場面の途中でシンシアが泣き崩れると、彼女を慰め、愛していると告げる。台本は燃やされ、箱は家の外へ運び出される。そして彼女はまた玄関に立ち、呼び鈴を鳴らす。
ファトゥマ・モハメド家具職人役
エヴリンが眠るための引き出し付きのベッドを、シンシアに頼まれる家具職人。
この作品が問いかけるもの
『バーガンディー公爵』は、支配と服従の関係を描きながら、性的な嗜好そのものよりも、それを支える労力に目を向ける。支配する側は、服従する側が書いた台本を演じ、その役に疲れはじめている。服従する側は、求めたとおりの儀式を手に入れながら、それでは足りないと感じる。ピーター・ストリックランドはこの不均衡を、同意と欲望と老いをめぐる静かな考察に変える。はっきりと一線が越えられるのは、合図の言葉が無視される一度だけだが、それは愛し合うふたりのあいだの本物の痛みとして響く。原題は蝶の名前で、物語を縁取る蝶と蛾の講義は、恋人たちの姿を映す。規則によって静止させられた美しさだ。2014年にトロントとロンドンの映画祭で上映され、高く評価された。残るのは、ひとりがもう望まなくなった空想を、ふたりはどう生かし続けるのか、という問いだ。