哀れなるものたち
Poor Things
ストーリー
結末まで書いています。
幼児の脳を移植された女性が“激しい跳躍”を発見し、男たちの恥の定義をことごとく拒む。
1882年、どこか未来じみたもうひとつのヴィクトリア朝のロンドン。外科医ゴッドウィン・バクスターは医学生マックス・マッキャンドルスを雇い、自宅に住む、ほとんど言葉を話さない奇妙な若い女性の成長を記録させる。彼女の名はベラ。ゴッドウィンはマックスに真相を明かす。ベラの体は、自ら命を絶った身重の女性のもので、彼はその体に、彼女が宿していた胎児の脳を移して蘇らせたのだ。大人の女性の体に赤ん坊の心。ベラは驚くほどの速さで学んでいく。
言葉と好奇心が育つにつれ、マックスはベラに恋をし、ゴッドウィンの祝福を得てふたりは婚約する。だが性の快楽を知ったベラは、放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーンとリスボンへ駆け落ちし、ふたりはほとんど休みなく体を重ねる。思いどおりにならなくなった彼女を、ダンカンは客船に押しこむ。船上でベラはふたりの乗客から哲学を教わり、ダンカンは酒と賭け事に溺れる。アレクサンドリアで貧しい人々の苦しみを目にしたベラは、彼の賭けの儲けを、貧しい人々に渡すと約束した船員たちに託してしまう。金は届かない。
マルセイユで船を降ろされたふたりは、無一文でパリへたどり着く。ベラは娼館で働きはじめ、ダンカンは打ちのめされ、彼女は彼のもとを去る。女主人スワイニーのもとで学び、同じ館で働くトワネットと関係を持ち、彼女から社会主義を教わる。死期の近いゴッドウィンは、マックスにベラを連れ戻させる。ふたりの結婚式の最中、ダンカンがアルフィー・ブレシントン将軍を連れて乗りこんでくる。将軍はベラを自分の妻ヴィクトリアだと言い張る。自分が誰だったのかを知ろうと彼についていったベラは、残酷で暴力的な男を見いだし、ヴィクトリアが彼から逃れるために命を絶ったのだと悟る。屋敷に閉じこめられ、銃を突きつけられ、陰核を切除して子を産ませると告げられたベラは、差し出された鎮静剤を彼の顔に浴びせ、将軍は誤って自分の足を撃つ。ベラは彼をゴッドウィンの家へ運び、マックスの手を借りてヤギの脳を移植する。ゴッドウィンはふたりに見守られて安らかに息を引き取る。ベラとマックスとトワネットはその家で新しい暮らしを始め、将軍は満足そうに草を食んでいる。
主な出演
エマ・ストーンベラ・バクスター役
胎児の脳を移されて蘇った女性。世界と自分自身の欲望を知るために旅に出る。
ベラ・バクスターの物語
ゴッドウィンの家に閉じこめられたベラは、ほとんど言葉を知らないところから、みるみる学んでいく。マックスと婚約しながらも外の世界を求め、ダンカンとリスボンへ駆け落ちして、食べ、踊り、ひとりで街を歩く。客船では乗客から哲学を教わり、アレクサンドリアで貧しい人々を見て打ちのめされ、ダンカンの儲けを船員に託してしまう。無一文のパリで娼館で働き、ダンカンのもとを去り、トワネットから社会主義を学ぶ。死期の近いゴッドウィンのもとへ戻り、自分の生まれを知って怒るが、和解する。結婚式に現れたアルフィーについていき、その残酷さに、ヴィクトリアが命を絶った理由を悟る。彼から逃れてヤギの脳を移植し、マックスとトワネットとともにゴッドウィンの研究を引き継ぐ。
マーク・ラファロダンカン・ウェダバーン役
ベラを連れてヨーロッパを旅する放蕩者の弁護士。彼女を支配できないことに耐えられない。
ウィレム・デフォーゴッドウィン・バクスター役
ベラを生み出した外科医。父のように彼女を愛し、実験のように手もとに置く。
ゴッドウィン・バクスターの物語
ゴッドウィンは外科医で、自ら命を絶った身重の女性の遺体を引き取り、彼女が宿していた子の脳を移して蘇らせた。ベラを家の中で育て、マックスを雇って成長を記録させ、自分と同居することを条件に、ふたりの結婚を勧める。ダンカンと出ていくと言い張るベラには、万一のためのお金を持たせて送り出す。彼女を恋しがりながら、フェリシティという別の女性で同じ実験を始めるが、その成長はベラより遅い。死期が迫ると、マックスにベラを連れ戻させ、彼女の生まれの真実を明かし、やがて許される。そして、ベラとマックスに寄り添われ、安らかに息を引き取る。
ラミー・ユセフマックス・マッキャンドルス役
ゴッドウィンの教え子で助手。ベラに恋をし、彼女の帰りを待ち続ける。
クリストファー・アボットアルフィー・ブレシントン役
暴力的な将軍。ベラがかつてそうだった女性の夫で、彼女を取り戻しに現れる。
この作品が問いかけるもの
『哀れなるものたち』は、恥を知らずに生まれた女性を、恥を教えこむためにできた世界へ送り出す。ベラの人生に現れる男たちは、それぞれのやり方で彼女を所有しようとする。彼女を造った科学者、待ち続ける婚約者、彼女を無力なままにしておきたい放蕩者、彼女の体を傷つけようとする夫。映画の答えは、性にも本にも議論にも正義にも向かうベラの貪欲さと、何ひとつ恥じない態度だ。娼館での日々も転落ではなく、自ら選んで学ぶ仕事として描かれる。そして最後にメスを握るのは彼女のほうだ。ヨルゴス・ランティモスによるアラスデア・グレイの小説の映画化で、ヴェネツィアで金獅子賞を、アカデミー賞ではエマ・ストーンの主演女優賞を含む4部門を得た。残る問いは、ベラが問い続けるものだ。何を恥じるべきかを誰にも教えられなかったら、女性は何になれるのか。