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Cinema 月明かりの映画館

おしえて!ドクター・ルース

Ask Dr. Ruth

2019ドキュメンタリーアメリカ

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

ホロコースト孤児が身長140cmの米国の性療法士になる。率直さとは優しさの一形態だという論。

ライアン・ホワイト監督のこのドキュメンタリーは、2018年、90歳の誕生日を目前にしたルース・ウェストハイマーを追う。大学での2つの講義、本の執筆、雑誌の連載、講演、ラジオやテレビ。半分の年齢の人でも音を上げそうな予定をこなす合間に、映画は彼女の人生を、本人の言葉と、日記や両親の手紙をもとにしたアニメーションで語っていく。

1928年にカローラ・ジーゲルとして生まれた彼女は、正統派ユダヤ教徒の両親のひとり娘としてフランクフルトで育った。水晶の夜の2か月後の1939年、母と祖母は10歳の彼女を子どもたちの避難列車に乗せ、スイスへ送り出す。彼女は孤児院で戦争を過ごし、ボーイフレンドがこっそり渡してくれる本を読んだ。両親からの手紙は1941年に途絶え、ふたりは殺された。彼女は自分を生還者ではなく、ホロコーストの孤児と呼ぶ。パレスチナでは地下組織ハガナーの狙撃手として訓練を受け、砲弾で重傷を負った。パリで学び、1956年にアメリカへ渡る。三度結婚し、三度目のマンフレッド・ウェストハイマーとは幸せな家庭を築いたが、彼は1997年に亡くなった。子どもはふたり。家族計画の団体での仕事と博士号を経て、ニューヨークのラジオ局で深夜15分の電話相談番組を任される。1980年代の終わりには、身長140センチ、強いドイツ語訛りのドクター・ルースは誰もが知る存在となり、マスターベーションや絶頂、同性愛者のセックスを率直に語った。エイズ禍の初期には、同性愛者への偏見に満ちた俗説に声を上げた。

現在の彼女は、同じく避難列車で逃れた初恋の人ウォルターを訪ね、ふたりで歌を口ずさむ。イスラエルではホロコーストの記録保管所で、両親の消息を探す。台所のテーブルでは、フェミニストを名乗らない祖母に孫娘があきれる。ルースは目指すものにはすべて賛成だと言い、自分はその言葉には堅物すぎると笑い、ブラジャーを燃やす必要はないのよと付け加えるが、最後には言い負かされ、過激ではないフェミニストなら、と認める。映画は、90歳の誕生日を祝う場面で幕を閉じる。彼女は2024年7月、96歳で亡くなった。

主な出演

  • ルース・ウェストハイマー本人

    90歳を目前にした性のセラピスト。過密な予定をこなしながら、フランクフルトから名声までの人生を語り直す。

  • ジョエル・ウェストハイマー本人

    ルースの息子。自分かきょうだいが尋ねないかぎり、母が両親の死を語ることはほとんどなかったと振り返る。

  • レオラ・アインレガー本人

    ルースの孫娘。フェミニストを名乗らない祖母と、台所のテーブルで議論する。

この作品が問いかけるもの

この映画は、性について率直に話すことをアメリカのラジオとテレビで当たり前にした女性の肖像であり、その率直さの源を問う。映画が示すのは、ふたつに断ち切られた子ども時代だ。家族に列車へ乗せられ、二度と両親に会えなかった10歳の少女。彼女はいまも、生還者ではなくホロコーストの孤児と呼ばれることにこだわる。映画は、その喪失が彼女の仕事を説明するとは言わないし、本人もそう言わない。映し出されるのは、快楽を人が当然受け取ってよいものとして扱い、気恥ずかしさを笑いで部屋から追い出した女性の姿だ。それには勇気が要る時代だった。エイズ禍の初期には、同性愛者への偏見に満ちた俗説にも声を上げた。孫娘と言い合った末、フェミニストという呼び名も、過激でないならと受け入れる。彼女は肩書きより、仕事そのものを選んでいるように見える。