私のトナカイちゃん
Baby Reindeer
ストーリー
結末まで書いています。
コメディアンとストーカー、そして語られなかった性被害。「実話」の表示が訴訟を呼んだ。
2015年、ロンドンで芽の出ないスコットランド出身のコメディアン、ドニー・ダンはパブで働いている。カウンターで泣く女性に、彼は店のおごりで紅茶を出す。マーサ・スコットと名乗る彼女は、自分は顔の広い多忙な弁護士だと話してドニーを笑わせ、常連になり、彼を「私のトナカイちゃん」と呼ぶ。やがて一日に何百通ものメールが届くようになる。ストーカー行為の前科があるとネットで知りながら、ドニーは彼女の友達申請を承認してしまう。
マーサは彼の家までついて来て、偽名で大家と親しくなり、部屋の向かいのバス停から見張り、路上で彼に性的暴行を加える。ドニーはアメリカ出身のトランス女性のセラピスト、テリとひそかに付き合っているが、彼女を求める自分を恥じて、トニーという名の建設作業員だと偽っていた。マーサはお笑いコンテストの準決勝で野次を飛ばし、のちにはテリにトランスフォビアの罵声を浴びせ、襲いかかる。
ようやく警察に行ったドニーは、なぜこれほど遅れたのかを説明できない。第4話はその理由を明かす。数年前、エディンバラの若手芸人だった彼は、売れっ子のテレビ作家ダリエンに目をかけられた。週末ごとの脚本づくりの場で、ダリエンはドニーを手なずけ、薬物を与えて性的暴行を重ね、ついに強姦した。ドニーは誰にも届け出なかった。恋人キーリーとの仲は壊れ、彼は相手の性別を問わない無謀な性関係に身を投じた。
現在。マーサはキーリーの顔に飲み物を浴びせ、スコットランドの両親まで追いつめ、父親を小児性愛者だと告発する。ドニーはテリにバイセクシュアルだと打ち明けるが、マーサをわなにかけようとして逆に警察の警告を受け、テリにも去られる。パブでマーサに襲いかかられ、ドニーは彼女を殴り返す。コンテストの決勝で、彼はネタを捨て、強姦のことも、ストーカーのことも、自分の恥もすべて観客に語る。
その動画は拡散される。マーサから何百もの留守電が届き、ドニーは故郷ファイフに帰って両親にすべてを話す。父親は、自分もカトリック教会で育った少年時代に性的虐待を受けたと明かす。両親に危害を加えるという留守電を受けて警察はようやく動き、マーサは罪を認めて禁錮9か月の判決を受ける。ドニーは問い詰めるつもりでダリエンを訪ねるが、逆に脚本の仕事を受けてしまい、パニック発作を起こす。立ち寄ったパブで、彼はマーサがその呼び名のわけを語る留守電を聞く。子どものころ、両親がけんかするたびに抱きしめていたぬいぐるみに、あなたは似ているのだ、と。泣きながら酒を頼んだドニーは、財布を忘れたことに気づく。バーテンダーは、その一杯を無料で差し出す。
主な出演
リチャード・ガッドドニー・ダン役
ロンドンのパブで働く売れないスコットランド人芸人。見知らぬ女性へのささやかな親切が、長いストーカー被害と古い傷をこじ開ける。
ドニー・ダンの物語
ドニーは誰かに見てほしくてたまらない。マーサに出した一杯の無料の紅茶が、彼女を彼の人生に招き入れる。前科を知りながら友達申請を承認し、大量のメールや路上での性的暴行にさらされながらも、その好意にくすぐられている。警察で遅れた理由を説明できないのは、かつてテレビ作家ダリエンに薬物で手なずけられて強姦され、誰にも届け出なかったからだ。テリには素性を偽り、やがてバイセクシュアルだと打ち明けるが、マーサをわなにかけようとして警察の警告を受け、テリを失う。コンテストの決勝ではネタを捨て、すべてを観客に語る。動画で名が売れ、両親に真実を話し、マーサは収監される。ダリエンから仕事を受けてパニックに陥り、立ち寄ったパブで一杯を無料で差し出される。
ジェシカ・ガニングマーサ・スコット役
ストーカー行為の前科を持つ元弁護士。無料の紅茶を出してくれたドニーに執着していく。
マーサ・スコットの物語
パブのカウンターで泣いていたマーサは、バーテンダーのドニーにおごりの紅茶を出される。その日から彼が世界の中心になる。忙しい弁護士だと名乗り、彼を「私のトナカイちゃん」と呼び、一日に何百通ものメールを送り、家までついて行き、偽名で大家と親しくなり、路上で性的暴行を加える。舞台で笑いものにされると、怒りは彼の周囲に向かう。テリに罵声を浴びせて襲いかかり、キーリーの顔に飲み物をかけ、父親を小児性愛者だと告発する。両親に危害を加えると留守電に残して訴えられ、法廷で罪を認め、禁錮9か月の判決を受ける。最後の留守電で、彼女はその呼び名のわけを語る。両親がけんかするたびに抱きしめていたぬいぐるみに、あなたは似ているのだ、と。
ナヴァ・マウテリ役
出会い系サイトでドニーと出会う、アメリカ出身のトランス女性のセラピスト。堂々と愛されることを望み、マーサの怒りの矛先にされる。
テリの物語
テリが付き合っているのは、トニーという名の建設作業員。彼女を求める自分を恥じたドニーが作り上げた名前と仕事だった。楽しい夜のあと、人前でキスしてと頼むと、彼はうろたえ、地下鉄に彼女を置き去りにする。素性を打ち明けられると彼を追い出すが、もう一度機会をあげようと準決勝を見に来る。その夜、マーサにトランスフォビアの罵声を浴びせられ、襲われる。それでもテリは離れない。マーサから逃れて隠れるドニーを部屋に置き、彼がバイセクシュアルだと打ち明けるのを聞き、もう一度警察に行くよう背中を押す。襲われた傷は彼女の中に残り、ふたりの仲はきしんでいく。マーサをわなにかけようとした彼が警察の警告を受けたとき、テリは彼のもとを去る。
トム・グッドマン=ヒルダリエン役
売れっ子のテレビ作家。若いドニーに目をかけるふりをして手なずけ、性的暴行を加える。
この作品が問いかけるもの
『私のトナカイちゃん』は、ストーカーに追われる男と、強姦された男の物語であり、それは同じひとりの男だ。作中、そのどちらもほとんど信じてもらえない。警察は何万通ものメールを送りつける女性を相手にせず、ドニー自身も、ダリエンを届け出なかったからこそ、マーサのことをきちんと訴えられない。リチャード・ガッドは自身のひとり芝居をもとに自分をなぞる役を演じ、ドニーを都合のいい被害者にはしない。好意にくすぐられ、残酷にもなり、トランス女性を求める自分を恥じ、自分を傷つけた男のもとへ引き戻される。作品はエミー賞6部門を受賞した。同時に、実話を語ることの重さも突きつけた。冒頭で「実話」と掲げた本作を、マーサのモデルだと名乗り出たスコットランドの女性が名誉毀損で訴え、アメリカの判事はその冒頭の言葉に触れて審理の継続を認めた。