ムーンライト
Moonlight
Journalでの言及
Journal男性が教えられる沈黙と、その代価を払う人。ストーリー
結末まで書いています。
マイアミの黒人少年の三章。20年間抱え続ける、浜辺のあの一夜。
クラック・コカインが蔓延していたマイアミのリバティ・シティ。「リトル」と呼ばれる無口な少年シャロンは、いじめっ子から逃げて麻薬の吸引所に隠れているところを、アフロ・キューバ系の売人フアンに見つけられる。フアンは彼を恋人テレサの家に泊め、母親ポーラのもとへ送り届ける。以来フアンは、シャロンにとって父親に近い存在になる。ある夜フアンは、自分の客と麻薬を吸うポーラに出くわし、息子を放っておくなと責める。それを売ったのはあなただと彼女は言い返す。翌日シャロンは、同級生に投げつけられる言葉の意味をフアンに尋ねる。ゲイの人を傷つけるための言葉だ、ゲイであることは何も悪くない、とフアンは答える。続けてシャロンは、フアンが麻薬を売っているのか、母がそれを使っているのかを尋ねる。どちらにもうなずいたフアンは、出ていく少年の後ろでうなだれる。
十代のシャロンは、テレルという少年のいじめに耐えながら、テレサの家に身を寄せている。フアンはもういない。依存を深めたポーラは、テレサが彼に渡した金まで取り上げる。ある夜、昔から彼を「ブラック」と呼ぶ友人ケヴィンが、家の近くの浜辺にいるシャロンを訪ねてくる。ふたりのあいだに、シャロンがその後何年も抱え続ける何かが通い合う。翌日、テレルにけしかけられたケヴィンは皆の前でシャロンを殴り、ほかの少年たちも加わる。シャロンは誰の名も口にしない。翌朝、教室に入った彼はテレルに襲いかかり、警察に連れていかれる。
年月が過ぎ、シャロンは「ブラック」と名乗って、アトランタで麻薬を売っている。そんな彼に、ケヴィンから突然電話がかかってくる。マイアミに来ることがあれば寄ってくれという。シャロンはまず、依存症の治療施設で暮らすポーラを訪ねる。いちばん必要なときに愛してやれなかったと母は謝り、ふたりは泣きながら和解する。それからマイアミの食堂で、料理人として働くケヴィンに会う。刑務所を出た彼は、ひとり息子の父親になっていた。ケヴィンは料理をふるまい、シャロンを思い出させたというバーバラ・ルイスの古い歌をジュークボックスでかける。ケヴィンの部屋でシャロンは、あの夜の浜辺以来、誰にも触れられていないと打ち明ける。ケヴィンは彼を抱き寄せる。最後に映るのは、夜の浜辺にいる幼いリトルの姿だ。
主な出演
アレックス・ヒバート子どものシャロン(「リトル」)役
リバティ・シティで孤立する無口な少年。母は依存症に沈み、麻薬の売人に守られる。
子どものシャロン(「リトル」)の物語
「リトル」と呼ばれる少年シャロンは、いじめっ子から隠れているところをフアンに見つけられる。フアンは彼に泳ぎを教え、生き方は自分で決めろと言う。だが母にクラックを売っているのがフアンだと知ると、黙って立ち去る。十代になるとテレサの家に身を寄せ、ある夜、浜辺でケヴィンとやさしい時間を分かち合う。翌日、テレルにけしかけられたケヴィンに、立ち上がれなくなるまで殴られる。誰の名も告げず、翌朝テレルに椅子で襲いかかって逮捕される。十年後、「ブラック」と名乗る彼は、かつてのフアンのようにアトランタで麻薬を売っている。治療施設の母を訪ねて和解し、マイアミでケヴィンに、あの夜から誰にも触れられていないと打ち明ける。ケヴィンは彼を抱き寄せる。
アシュトン・サンダースティーンエイジャーのシャロン役
学校でいじめられ、テレサの家に身を寄せる十代のシャロン。ケヴィンとの一夜がすべてを変える。
トレヴァンテ・ローズ大人のシャロン(「ブラック」)役
アトランタで麻薬を売る大人のシャロン。あの夜の浜辺から、誰も近づけずに生きてきた。
マハーシャラ・アリフアン役
少年を見守るアフロ・キューバ系の麻薬の売人。その母親に麻薬を売ってもいる。
ナオミ・ハリスポーラ役
シャロンの母。息子の子ども時代の大半を依存症に奪われ、何年ものちに赦しを乞う。
ポーラの物語
ポーラはひとりでシャロンを育てながら、クラックに溺れている。フアンの客と麻薬を吸っているところを彼に見つかり、息子を放っておくなと責められると、それを売ったのはあなただと言い返し、あの子がなぜいじめられるのか、あなたが説明するのかと問い詰める。そして息子に怒りをぶつける。シャロンが十代になるころには、薬代のために体を売り、テレサが息子に渡した金まで取り上げる。治療施設で暮らすようになると、会いに来てほしいと何度も電話をかける。訪ねてきた息子に売人をやめるよう諭し、積もった思いをぶつけられると、いちばん必要なときに愛してやれなかったと謝る。あなたが私を愛していなくても、私はあなたを愛していると告げ、ふたりは泣きながら和解する。
アンドレ・ホランド大人のケヴィン役
シャロンの幼なじみ。マイアミで料理人として働く父親になり、長い沈黙のあとで電話をかける。
大人のケヴィンの物語
ケヴィンは少年時代のシャロンのただひとりの友だちで、ふたりはじゃれ合うように取っ組み合う。十代のある夜、浜辺にいるシャロンを訪ね、昔からの呼び名「ブラック」で呼びかけ、ふたりはやさしい時間を分かち合う。だが翌日、テレルにけしかけられていじめに加わり、シャロンが立ち上がれなくなるまで殴る。警察に連れていかれる彼を、ただ見ている。十年後、刑務所を出てマイアミの食堂で料理人として働き、息子の父親になった彼は、突然シャロンに電話をかける。訪ねてきたシャロンに料理をふるまい、彼を思い出させた古い歌をかけ、人生は思いどおりにならなかったが今は幸せだと話す。あの夜から誰にも触れられていないと打ち明けるシャロンを、ケヴィンは抱き寄せる。
この作品が問いかけるもの
『ムーンライト』は、柔らかさが罰せられる場所で男らしさを学んでいく少年の物語であり、その学びが彼から何を奪うかの物語でもある。タレル・アルヴィン・マクレイニーの上演されなかった半自伝的な戯曲をもとに、バリー・ジェンキンスは、クラック・コカインの時代のマイアミで育った黒人のゲイの少年が、心を閉ざした大人になるまでを追う。その大人が口にできるいちばん柔らかな言葉は、誰にも触れられていない、という告白だ。わかりやすい悪役はいない。少年を守る男は母親に麻薬を売り、息子を見捨てた母親はのちに赦しを乞う。出演者全員が黒人のこの作品は、2017年のアカデミー賞作品賞を受け、性的少数者を描いた映画として初の受賞作になった。残る問いは静かだ。人は隠れたまま、どれだけ自分を保てるのか。一夜のやさしさを支えに、生きていけるのか。