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Cinema 月明かりの映画館

TAR/ター

Tár

2022映画アメリカ

465作品の星図のなかで見る

ストーリー

結末まで書いています。

権力の頂点にいる指揮者と、彼女が“育てた”若い女性たち。悲劇としてのキャンセル文化。

リディア・ターは、ベルリンの名門オーケストラの首席指揮者であり、作曲家でもあるスターだ。ニューヨークで公開インタビューを受け、マーラーの交響曲第5番のライブ録音と回想録の出版を控えている。投資銀行家でアマチュア指揮者のエリオット・カプランとともに若い女性指揮者を支援する基金を運営し、副指揮者への昇格を望むアシスタントのフランチェスカに多くを頼っている。ジュリアード音楽院の講座では、作曲家の生き方を理由にバッハを避ける学生をやりこめる。ベルリンでは、オーケストラのコンサートマスターである妻シャロン、幼い娘ペトラと暮らしている。

若いロシア人チェリスト、オルガ・メトキーナがオーディションに現れると、リディアは彼女に惹かれる。結果をオルガに有利に動かし、さらに彼女が独奏できるよう、エルガーのチェロ協奏曲を演目に組む。かつて基金にいたクリスタ・テイラーを、リディアは業界から締め出していた。クリスタは不穏なメールを送ったあと、自ら命を絶つ。両親が訴えを起こそうとしていると知ると、リディアはフランチェスカにメールの削除と弁護士の手配を命じる。副指揮者を退け、フランチェスカも昇格させず、フランチェスカは去っていく。リディアは音に苛まれ、悪夢にうなされ、幻を見るようになる。オルガのあとをつけて転び、怪我をした彼女は、シャロンには強盗に襲われたと嘘をつく。

そして崩壊が始まる。ジュリアードの講座を恣意的に編集した動画が拡散し、若い女性を食いものにしていると告発する記事が出る。ニューヨークでの証言録取では、フランチェスカが提出した、クリスタとのあいだのメールを突きつけられる。オーケストラは彼女を解任し、嘘に激怒したシャロンは娘に会うことを禁じる。自分が指揮するはずだった録音の場で、リディアは舞台に駆け上がり、代役のエリオットに襲いかかる。身を隠したスタテン島の生家には本名リンダ・ターと記された賞状が残り、兄は生まれを忘れたのかと彼女を責める。やがて彼女はフィリピンで指揮の職を得る。勧められたマッサージ店は売春宿で、若い女性のひとりにまっすぐ見つめられたリディアは、外へ駆け出して吐く。最後に彼女が指揮するのは、仮装した観客を前にしたテレビゲーム『モンスターハンター』の音楽だ。

主な出演

  • ケイト・ブランシェットリディア・ター役

    ベルリンのオーケストラを率いる高名な指揮者で作曲家。周囲の若い女性たちへの扱いが、やがて彼女に跳ね返ってくる。

    リディア・ターの物語

    リディアはマーラーの交響曲第5番の録音と回想録の出版を控え、ベルリンでコンサートマスターの妻シャロン、娘ペトラと暮らしている。力を思うままに使い、ジュリアードの学生をやりこめ、惹かれた若いチェリストのためにオーディションを動かす。締め出したクリスタ・テイラーが自ら命を絶つと、メールを消させる。昇格させなかったフランチェスカは去る。音と幻が彼女を苛みはじめる。やがて編集された動画が拡散し、メールは証言録取に出され、オーケストラは彼女を解任し、シャロンは娘に会わせない。舞台で代役に襲いかかり、本名リンダ・ターの賞状が残る生家に身を隠す。フィリピンでは売春宿から逃げ出し、仮装した観客の前で『モンスターハンター』の音楽を指揮する。

  • ノエミ・メルランフランチェスカ・レンティーニ役

    リディアのアシスタントで腹心。自らも指揮者で、昇格を望み、リディアの過去を誰よりもよく知っている。

    フランチェスカ・レンティーニの物語

    フランチェスカはリディアの予定を取りしきり、その過去をよく知る。自らも指揮者で、副指揮者に引き上げられる日を待っている。リディアが締め出したクリスタ・テイラーから、不穏なメールが彼女に届く。クリスタが自ら命を絶つと、リディアはそのメールを消し、弁護士を手配するよう命じる。若いチェリストのオルガへのひいきがふたりのあいだをきしませ、副指揮者の席は彼女に回ってこない。フランチェスカは辞め、連絡がつかなくなる。部屋に押し入ったリディアが見つけるのは、題名を皮肉に書き換えられた回想録の草稿だ。ニューヨークの証言録取でリディアが突きつけられるクリスタとのメールは、フランチェスカが差し出したものだった。

  • ニーナ・ホスシャロン・グッドナウ役

    リディアの妻で、オーケストラのコンサートマスター。娘の母であり、リディアが認める以上のことに気づいている。

  • ゾフィー・カウアーオルガ・メトキーナ役

    若いロシア人チェリスト。オーディションのあと、リディアにひいきされ、追いかけられる。

  • マーク・ストロングエリオット・カプラン役

    投資銀行家でアマチュア指揮者。リディアとともに女性指揮者の基金を立ち上げ、のちに彼女の代役として指揮台に立つ。

この作品が問いかけるもの

トッド・フィールド監督のこの映画が描くのは、いまも「天才」で回る世界の権力だ。メール一通で人の経歴を左右できる指揮者は、才能を免罪符と取り違えている。加害者を女性に、しかもレズビアンにしたのは意図的な挑発で、誰もが受け入れたわけではない。指揮者マリン・オールソップは、女性として、指揮者として、レズビアンとして傷ついたと語り、ケイト・ブランシェットは、権力に性別はないと応じた。キャンセル・カルチャーへの後ろ向きな当てこすりと評する声もあれば、転落の描き方ははるかに両義的だと見る声もあった。ブランシェットはヴェネツィアで女優賞を受け、作品はアカデミー賞6部門の候補になった。リディアの転落のどこまでが正義で、どこからが見世物なのか。作品と作者を切り離すという考えは、力を持つ者の都合ではなかったのか。問いは残る。