ザ・デュース
The Deuce
ストーリー
結末まで書いています。
1971〜85年のタイムズスクエアとポルノ産業の誕生。街娼から監督になる女の視点で。
1971年、ニューヨーク42丁目の一角、通称“デュース”。そこはポン引きと街娼と、その両方から金を吸い上げる男たちの街だ。バーテンダーのヴィンセント・マルティーノは家族を養うために働きづめで、双子のフランキーは賭けでマフィアに借金を重ねている。マフィアの幹部ルディ・ピピロはヴィンセントにバー〈ハイハット〉を任せ、やがて義理の兄弟ボビー・ドワイヤーが仕切るマッサージパーラーも持たせる。警察は金をもらって目をつぶる。ポン引きを持たずに客を取るアイリーン、通称キャンディは、息子を実家の母に預けている。わいせつ規制がゆるみ、ポルノが合法の商売になりつつあるのを見て、彼女は監督ハーヴィー・ワッサーマンのもとで映画づくりを覚えていく。ミネソタから出てきたローリー・マディソンは、ポン引きのシーシーのもとで働きだす。試験を放り出した大学生アビー・パーカーは〈ハイハット〉で働き、ヴィンセントと恋仲になる。
1977年、キャンディは監督になっている。大人向けの『赤ずきん』の資金を求めたロサンゼルスで、プロデューサーは金と引き換えに性行為を求め、彼女は応じる。完成した作品は、ふたつのマフィアの持ち物になっていた。スターになったローリーは今もシーシーに縛られている。マフィアが彼女の契約を買い取ると、シーシーは最後の夜に彼女をレイプし、まもなくボビーの店でのもみ合いの末にフランキーに殺される。女たちが路上を離れるのを助けていたドロシーは、遺体で見つかる。
1984年。ビデオがポルノを家庭へ運び、エイズがゲイバーから客を奪っている。反ポルノ運動の集会で、アイリーンはアンドレア・ドウォーキンから、あなたの映画も問題の一部だと告げられる。双子の誕生日の夜、フランキーが殺される。ヴィンセントは手を下した男を殺し、ルディは手下のトミー・ロンゴに殺される。ヴィンセントに復讐を思いとどまるよう説いていたアビーは、彼のもとを去る。屈辱的な撮影とコカインにすり減ったローリーは、デュースに戻って最後の客を取り、自ら命を絶つ。
最終回、市はタイムズスクエアから路上の売春を追い出す。警官のクリス・オールストンは市の担当者に、女たちがブロンクスへ移っただけだと見せる。映画を投げ出しかけたアイリーンに、ハーヴィーは性描写を抜いて完成させろと言う。ヴィンセントはトミーに20万ドルを払ってマフィアから抜ける。2019年、結婚式のためにニューヨークを訪れた老いたヴィンセントは、新聞でアイリーンの死を知る。公開時には失敗した彼女の最後の映画は、いまでは名作とされている。ミュージカルとネオンの街を歩く彼の目に、あの頃のままの死者たちが映る。彼はフランキーと並んで地下鉄への階段を下りていく。人込みの中を、スーツ姿の弁護士になったアビーが通り過ぎる。
主な出演
ジェームズ・フランコヴィンセント・マルティーノ、フランキー・マルティーノ役
ブルックリン出身の双子。タイムズスクエアでマフィアの表の顔になるバーテンダーのヴィンセントと、借金の絶えない博打好きのフランキー。
ヴィンセント・マルティーノ、フランキー・マルティーノの物語
ブルックリンで週七日バーに立つヴィンセントは、浮気を重ねる妻アンドレアのもとを出て、マフィアの幹部ルディ・ピピロから自分のバー〈ハイハット〉を任される。恩を受けるたびに深みにはまり、マッサージパーラーをボビーに任せ、ディスコを開く。1977年、パーラーの商売から手を引いて静かに暮らしたいと願うが、アビーはそれを望まず、トミー・ロンゴは抜けることを許さない。1984年、双子の誕生日の夜、撃たれたフランキーが彼の腕の中で息絶える。彼は犯人を突き止めて殺し、アビーは去る。トミーに20万ドルを払ってマフィアから抜ける。2019年、老いた彼は、あの頃の死者たちの姿を見ながらタイムズスクエアを歩き、フランキーと並んで地下鉄への階段を下りていく。
マギー・ジレンホールアイリーン・“キャンディ”・メレル役
ポン引きを持たずに客を取る街娼。ポルノの世界へ移り、十五年にわたって自分の撮りたい映画を撮ろうと闘う。
アイリーン・“キャンディ”・メレルの物語
キャンディの名で路上に立つアイリーンは、ポン引きを持たず、息子を実家に預けている。客に殴られ金を奪われたあと、ハーヴィー・ワッサーマンを訪ね、彼のカメラの前に、やがてその後ろに立つ。1977年には監督となり、大人向けの赤ずきんの映画の資金と引き換えにプロデューサーの求める性行為に応じるが、映画はふたつのマフィアのものとなり、父は彼女を息子に会わせなくなる。1984年、恋人ハンクの出資を断り、アンドレア・ドウォーキンにあなたの映画も問題の一部だと告げられ、ローリーを失う。撮影から降りろと言うハンクと別れ、ハーヴィーの助言どおり性描写を抜いて自分の映画を完成させる。2019年、彼女はすでに世を去り、その映画は名作とされている。
エミリー・ミードローリー・マディソン役
ミネソタから来た若い女性。ポルノのスターになるが、ポン引きのシーシーに、そしてコカインに縛られ続ける。
ローリー・マディソンの物語
ミネソタから出てきたローリーは、シーシーの甘い言葉の裏を見抜いたうえで、利用し返すつもりで彼のもとで働き始める。ハーヴィーの撮影の代役からポルノの世界に入り、1977年には賞を取るスターになるが、もう路上には立たないと告げるとシーシーはトロフィーを叩き壊し、マネージャーのキキが彼女を引き受けたがっていると知ると殴る。アイリーンの映画で赤ずきんを演じ、マフィアが契約を買い取ると、シーシーは最後の夜に彼女をレイプする。彼の死を知らされた彼女は泣き崩れ、やがて笑い出す。1984年、リハビリとコカインを行き来し、音楽を試み、屈辱的な撮影に追い込まれる。アイリーンの新作に出る約束をしたあと、デュースに戻って最後の客を取り、自ら命を絶つ。
マルガリータ・レヴィエヴァアビゲイル・“アビー”・パーカー役
裕福な家に育った大学生。学校をやめて〈ハイハット〉を任され、ヴィンセントと暮らしながら街の女たちの側に立つ。
デヴィッド・クラムホルツハーヴィー・ワッサーマン役
頭の回転の速いポルノ監督。アイリーンの師となり、この商売にどこまで芸術が許されるかで彼女とぶつかる。
クリス・バウアーボビー・ドワイヤー役
双子の義理の兄弟で、建設現場の監督を務める家庭人。やがてマフィアのマッサージパーラーを取り仕切る。
この作品が問いかけるもの
『ザ・デュース』が描くのは、女性の身体が商品になり、まわりの誰もが分け前を取っていく商売だ。ポン引き、マフィア、警察、家主、そして最後には、別の種類の金のためにタイムズスクエアを片づける市。デヴィッド・サイモンとジョージ・ペレケーノスは、路上からパーラーへ、そして家庭用ビデオへと移るポルノ合法化の歩みを三つの時代で追い、アイリーンがカメラを自分の手に取れるのか、同じ仕組みの中で立ち位置を変えるだけなのかを問い続ける。反論はアンドレア・ドウォーキンに語らせ、答えは出さない。撮影では、エミリー・ミードの提案で性的な場面のためのインティマシー・コーディネーターが置かれた。ミードには初めての経験だったという。最後に残るのは、明るく清潔になった街を歩く老人の目に映る、この通りが使い捨てにした人々の姿だ。