あのこは貴族
Aristocrats
Moonlightの読みもの
Cinema『あのこは貴族』と、同じ住所を持つ二つの東京この一篇を読むストーリー
結末まで書いています。
東京の令嬢と地方出身の女性が同じ男を通して出会い、敵ではないと知る。
榛原華子は、東京屈指の高級住宅地・松濤に暮らす開業医の家の三女で、27歳になるまで何不自由なく生きてきた。恒例の新年会の直前、婚約者から一方的に別れを告げられると、家族は次々とお見合いを勧める。やがて姉の夫の紹介で、名家に生まれた端正な弁護士、青木幸一郎と出会う。紳士的な幸一郎に求婚され、華子は受け入れる。その夜、彼のスマホの着信欄に、時岡美紀という名前を見つける。
美紀は富山の漁師町から上京し、猛勉強の末に慶應義塾大学に入った。同郷の里英とともに、午後のお茶に5000円を払える学生たちとのあいだに引かれた線を感じた。父が職を失うと、学費のためにキャバクラで働き、やがて退学せざるをえなくなった。かつて講義のノートを借りたまま返さなかった幸一郎が店に現れ、以来ふたりは何年も、都合のいい関係を続けている。いまはイベント企画の会社で働いている。
華子の友人でバイオリニストの逸子が、パーティーで美紀と知り合い、ふたりを引き合わせる。美紀は婚約のことを知らなかった。恨み言ひとつ言わずに幸一郎との関係を終わらせ、富山から戻ってきた里英とともに起業を目指す。
華子の結婚生活は、ひとつの役割だった。姑は跡継ぎを急かし、不妊外来に通わせる。祖父が亡くなると、幸一郎は華子に相談もなく弁護士を辞め、政治家の伯父の秘書になると決める。プランターで野菜を育てようとする華子を、彼は笑う。不妊外来の帰り道、華子は街で美紀を見かけて追いかけ、招かれた部屋から、自分の知らなかった東京を眺める。どこで生まれたって最高の日もあれば泣きたい日もある、大事なのはそれを話せる相手がいること、と美紀は言う。華子は幸一郎と本音で向き合い、家に決められた道を行くだけだと語る彼と離婚する。一年後、逸子のマネージャーとして訪れたコンサート会場で、華子は幸一郎と再会する。見たことのない生き生きとした彼女の表情に幸一郎は驚き、ふたりは穏やかに言葉と笑みを交わす。
主な出演
門脇麦榛原華子役
東京の裕福な開業医の家の三女。名家に嫁ぎ、自分がひとつの役割に押し込められていると気づく。
榛原華子の物語
華子は27歳。松濤の実家で両親と暮らし、何不自由なく生きてきた。新年会の直前に婚約者に去られると、お見合いを重ね、義兄の紹介で名家の弁護士・幸一郎と出会う。求婚を受けたその夜、彼のスマホに時岡美紀の名を見つける。逸子の計らいで美紀と会ったのち、結婚式を挙げる。結婚生活は務めの連なりだった。跡継ぎを急かす姑、不妊外来、相談もなく弁護士を辞めて政治家の伯父の秘書になると決める夫。不妊外来の帰り道、街で美紀を見かけて追いかけ、招かれた部屋から知らなかった東京を眺める。幸一郎と本音で話し合い、離婚する。一年後、逸子のマネージャーとして訪れた会場で再会した幸一郎は、生き生きとした彼女の表情に驚く。
水原希子時岡美紀役
富山の漁師町の出身。猛勉強で慶應に入ったが学費が続かず中退し、自分の力で生きてきた。
時岡美紀の物語
慶應に入った美紀は、同郷の里英とともに、午後のお茶に5000円を払える学生たちとのあいだに線を感じる。そのひとり、幸一郎は彼女のノートを借りて返さなかった。父が職を失うと、学費のためにキャバクラで働くが両立できず、大学を辞める。店に現れた幸一郎とは、それから何年も都合のいい関係が続く。25歳のとき、客の紹介でイベント企画の仕事に移る。パーティーで逸子に、幸一郎の名刺の裏に書いた連絡先を渡し、逸子の計らいで華子と会う。婚約を知らなかった美紀は、傷ついた様子もなく幸一郎との関係を終わらせ、里英と起業を目指す。追いかけてきた華子に、どこで生まれたって最高の日もあれば泣きたい日もある、大事なのはそれを話せる相手がいること、と語る。
高良健吾青木幸一郎役
名家に生まれた弁護士。華子と婚約しながら、美紀との都合のいい関係を長く続けている。
石橋静河相良逸子役
華子の友人で、独身のバイオリニスト。結婚に幻想を抱かず、華子と美紀を引き合わせる。
山下リオ平田里英役
美紀の同郷で、大学も同じ友人。東京へ戻り、美紀とともに起業を目指す。
この作品が問いかけるもの
『あのこは貴族』は、名指しされることの少ない日本の階級を描く。古い学校と一族の食事会、身内の紹介で進むお見合いに囲まれた華子の東京と、学費のための夜の仕事と賃貸の部屋でできた美紀の東京。ふたつの東京は、一方に属し、もう一方を都合よく使うひとりの男を通してだけ触れ合う。この映画が静かに拒むのは、物語が用意したかに見える女どうしの対立だ。ふたりは出会い、幸一郎を奪い合わず、それぞれのやり方で彼を中心に生きることをやめる。上流の結婚は、跡継ぎや政治家への道が付いてくる役割として描かれ、女性どうしの友情は、与えられた役から降りるための足場として描かれる。生まれた世界から、人は本当に出ていけるのか。その問いは開かれたまま残る。